15 俺は婚約者とイチャイチャしなければならないらしい1
こんこんっ。
その日の昼、館の執務室で報告書や嘆願書などをチェックしていると、扉がノックされた。
「ディオン様、よろしいでしょうか?」
ルーシアの声だ。
俺が前世に目覚めたとき、最初に会話をした侍女である。
「入ってくれ」
「では、お邪魔しますね」
ルーシアが微笑みながら入ってくる。
あのときは俺に――というか本来のディオンに対する怯えを見せていたっけ。
ただ、俺がそれをフォローしたことで、今では親しく話しかけてくれるようになっていた。
「お仕事中、申し訳ありません……すごい量ですね」
「ああ。前のディオンが適当に放置していた書類もあるからな」
「前の……ディオン様?」
「ああ、ちょっと前までの俺は真面目に仕事をしていなかったからさ」
つい『前のディオン』なんて、俺の前世につながる情報をナチュラルに話してしまった。
まあ、他の人間がその言葉を聞いたところで、俺が転生者だとバレる可能勢はかぎりなくゼロに近いとは思うが――。
それでもヒントにつながるようなことを軽々しく明かすべきじゃないな。
うん、気を付けよう。
「ただ、ここ何日かでほとんどの書類に目を通せたよ。処理する目途も立ってきた」
「さすがですね、ディオン様」
「はは、ありがとう」
俺は礼を言い、それから話題を戻した。
「で、何かあったのか、ルーシア?」
「はい、フォルテ侯爵家から使者の方がお越しです」
フォルテ侯爵家といえば、俺の婚約者であるジュリエッタの実家だ。
「侯爵家から? 何の用だ?」
ルーシアは少し躊躇いがちに言葉を続ける。
「えっと、その……ディオン様の『公的な場での婚約者としての振る舞い』について、お話があるとのことです」
「――なるほど」
要するに『婚約者としての態度がなってない』ということか。
ローゼルバイト家は貴族の中でも没落しかけている立場だ。
だから、立場としてはジュリエッタの家の方が上だった。
で、そのフォルテ侯爵家が俺の家に手を差し伸べてくれたのに、ディオンはジュリエッタを放ったらかしで、社交界にも二人で一緒に出ることが皆無……そんな状況を彼女の実家が問題視したんだろう。
「わかった。使者の方を応接室へ案内してくれ」
――使者からの話は予想通りだった。
「ディオン様におかれましては、もう少し積極的にジュリエッタ様と公の場に出ていただきたい――というのが、侯爵のご意向です」
社交界での舞踏会や貴族の集まりなどにカップルとして参加しろ、ということだろう。
ディオンの記憶を探ると、そういった集まりにジュリエッタと参加したことは数えるほどしかない。
しかもその数少ない機会でジュリエッタを邪険にし、他の貴族たちに対しても傲慢な態度を取っていたようだ。
うーん……使用人だけじゃなく貴族にも悪評が広まってそうだ。
「分かった。今後は公の場に積極的に出るようにしよう。また、その前準備といってはなんだけど、今度ジュリエッタと二人で出かけたい」
「お嬢様と、ですか?」
「我が領内を案内したいんだ。結婚すれば、彼女にとっても領地になるからね」
俺はにっこりと笑う。
「……か、かしこまりました」
俺の態度が意外だったらしく、使者は驚いたような顔をしている。
「楽しみにしている、と彼女に伝えてほしい」
「必ずや」
使者は深々と一礼した。
「お嬢様を、どうかよろしくお願いいたします」
「もちろんだ。彼女は俺の大切な婚約者だからね」
翌日。
ローゼルバイト家の館の前に、一台の馬車が止まった。
扉が開き、そこから一人の少女が降りてくる。
長い金色の髪に神秘的な紫の瞳。
まさに貴族という感じの気品にあふれた美しい少女――。
ジュリエッタ・フォルテ。
俺の婚約者であり、王国有数の名門貴族の令嬢だ。
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