14 バルゴの騎士道(バルゴ視点)
バルゴ・ルドラーは農民の家に生まれた。
父は元騎士だったが、ある事情で領地を追われ、名もなき村の片隅で農業を営むようになった。
それでも、父は騎士であることをやめなかった。
剣を握ることを捨てず、バルゴが幼いころから剣を教えた。
「お前は天才だ」
彼が木剣を振るうたびに、父は目を輝かせたものだ。
「俺がいた騎士団の誰よりも、お前の剣は鋭い。まだ五歳のお前が、これほどの剣の才能のきらめきを見せるとは――」
父は心から喜んでいたのだろう。
だが、バルゴにはそれが大きな重圧となってのしかかった。
『天才』と呼ばれるたびに、自分がその言葉に見合う人間なのか、と気持ちが重くなった。
同時に不安になった。
もし自分が天才ではなかったなら――。
父は、自分に失望するだろう。
父の期待を裏切りたくない。
息子としての気持ちが、逆に彼の剣を鈍らせた。
そんな折、父は流行り病であっけなく命を落とし、母もそれを追うように亡くなり、バルゴは自然と剣を置いた。
「僕は天才じゃない。剣なんて振るうべきじゃなかったんだ」
自分にそう言い聞かせたのは、ひとえに重圧から逃れたかったからだ。
これから農民として生きていくんだ、と決めた。
だから自分に剣は要らない――。
そう考えていた。
あの日、一人の少年に出会うまでは。
「君の剣を俺に貸してくれないか?」
彼は――ディオン・ローゼルバイトはそう誘ってくれた。
彼が自分の才能を評価する言葉をくれたとき、バルゴの胸に不安が去来した。
長らく忘れていた、あの不安感だ。
父から受けていたのと同じ重圧だった。
けれど――ディオンと話していると、不思議と不安と重圧がすぐに薄れていくのを感じた。
その原因は、たぶんディオンの目だろう。
強い光をたたえた瞳は、バルゴの才能を確信しているような光があった。
自分が天才かどうか分からない、とずっと不安だったバルゴを安心させるような――不安から自信へと導いてくれるような、そんな光だった。
心強かった。
ディオンの側なら安心できる、と直感的に悟った。
だから彼の言葉に導かれるようにして、バルゴはその誘いに乗った。
知りたかった。
自分に、本当の剣の才能があるのかを。
ディオンの確信は正しいのかどうかを。
そして、オーガとの戦いでディオンが危険に陥ったとき、バルゴの中で何かが弾けた。
僕が――いや俺が、ディオン様を守る!
自分の中で、今までよりずっと猛々しい獣のような新たな自分が目覚める感覚があった。
その思いを剣に、体に――宿し、バルゴは走った。
そして、今までとは一線を画する戦闘能力を発揮し、八体ものオーガを瞬時に撃破してみせた。
これが自分の本来の力なのか。
一時的で偶発的な力なのか。
それはまだバルゴにも分からない。
ただ一つだけ分かることはある。
自分の中に目覚めた決意だ。
僕は、ディオン様のために剣を振るう――。
彼に仕える騎士として。
そして、いつの日か――今日発揮した力を、完全に己のものとして体得してみせる。
バルゴ・ルドラーの騎士道は、今まさに始まったばかり――。
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