10 婚約者はチョロイン
「私には興味がないんじゃなかったの?」
「えっ」
「以前、面と向かって私にそう言ったよね。『俺が欲しいのはお前の家柄だけだ。言っておくが、俺たちローゼルバイト家はお前らの家の弱みを握っている。逆らわない方が身のためだぞ』って」
そんなこと言ってたのか。
「ガチで悪役ムーブしてるじゃないか……」
「?」
「い、いや、その……じ、冗談だよ。ブラックジョークのつもりだったんだ。その、俺は冗談が本当に下手で、その節は申し訳なかった」
とりあえず、ここは平謝りの一手だ。
たぶんジュリエッタの中で、俺のイメージはとことん下がっているはず。
まずその下げ止まりと、イメージ回復を目指す――。
「……本当にどうしたの、ディオン。なんだか別人みたい」
ジュリエッタが眉間を険しく寄せた。
「何か企んでる?」
「企んでないって! ええと、俺は――そう、真実の愛に目覚めたんだ。君という婚約者を得て!」
「……っ!」
たちまちジュリエッタの顔が、いや手や足など露出している部分のすべてが赤くなった。
しまった、ちょっと言い過ぎたか。
俺の言葉には【人心掌握】のスキル効果が乗っているんだ。
だから俺が思っている以上に、俺の言葉の一つ一つは彼女の心を強く揺さぶっているはず――。
「な、な、な、何を言っているの!? あなたは私に対して『なんの感情もない』『女として見ていない』って言ってたじゃない! 私だって単なる政略結婚の相手としか思ってなかったのに、なんで……なんで、そんな動揺させるようなこと言うの!?」
堰を切ったようにジュリエッタの言葉があふれ出す。
うーん、彼女には俺の言葉は刺激が強すぎたらしい。
「わ、分かった、今のはいったんナシにしよう。落ち着いてくれ」
「落ち着けるわけないじゃない!」
ジュリエッタは真っ赤だ。
「すぐに結論を出さなくていいんだ。今日はとりあえず俺の気持ちを言っただけだから。君はゆっくりと自分の気持ちを整理してくれ」
どうどう、と彼女をなだめる俺。
「うううう……」
興奮しすぎたのか、ジュリエッタは涙目だ。
うん、なんというか……すまん。
「あ、そうだ。今日はどうして俺の家まで来たんだ? 何か用事でもあったのか?」
「用事はないけど、いちおう婚約者の顔を見に来たというか……義理で」
「義理……」
「あ、でも! 今はもう義理なんて思ってないから!」
ジュリエッタが両手を振って否定する。
「というか、その……うん、あなたが本音を言ってくれたなら、私もちゃんと言うね」
と、顔を上げた。
涙をふき、俺をまっすぐ見つめる。
なんだなんだ?
「私、本当は――婚約の取りやめを提言しに来たのよ」
「婚約破棄ってこと?」
異世界ファンタジーでよくあるやつだ。
ジュリエッタはコクンとうなずいた。
「あなたのことを人間として尊敬できないし、なんなら軽蔑だってしてるし、ゲスだし性格悪いし、いいのは顔だけっていうか」
「ド直球で来たな」
「でも、今日のあなたを見ていたら、私の中に迷いが出てきたの。あなたが適当な嘘を言っているとは思えない。あなたの一言一言が私の心を震わせる――そう感じたの」
それはスキル効果もあるんだけどね。
「だから――あなたのことを考え直そうと思ったの」
「じゃあ、婚約破棄はナシってこと?」
「それは分からない。考え直した結果、やっぱり破棄してもらうかも」
言って、ジュリエッタは小さく笑った。
「でも、私の気持ちはだいぶ『好き』の方に傾いてきてるからね」
「好き……なんだ?」
「ええ」
言ってから、またジュリエッタの顔が真っ赤になった。
ぼんっ!
と音が聞こえそうなほどのすごい勢いで。
「あ、ま、待って! 待って待って待って待って! 違うからね! 好きっていうのは、あくまでも人間としてだからね! こ、ここここここ恋とか愛とかそういう意味で言ってないから!」
なんだろう、とりあえず――。
ジュリエッタはチョロイン枠だな。
俺の中で結論が出た。
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