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1 乙女ゲーの没落貴族に転生

 気がつくと、見知らぬ天井が視界に飛び込んできた。


「……どこだ、ここ?」


 ひどく重く感じる体を無理やり起こす。


 見回すと、そこはゴシック調の豪奢な家具に囲まれた部屋だった。

 まるで貴族の部屋のような雰囲気だ。


 もちろん、俺の部屋じゃない。


「なんで、こんな場所に――うっ」


 ――ずきん。


「う、うわっ……!?」


 不意に頭痛が走ったかと思うと、脳内に大量の情報が流れ込んでくる。


 ここは乙女ゲーム『花乙女の誓約』の世界。

 俺は『没落が約束された悪役令息』として登場するキャラクター、貴族の令息ディオン・ローゼルバイト。


 そして俺は――どうやら過労死した末に、この世界に転生してきたらしい。

 確かに俺が勤めていたのはブラック企業だったけど。


「まじか……冗談きついぞ」


 乙女ゲームとはいうものの『花乙女の誓約』は骨太の男性キャラクターたちや作りこまれた戦闘システムなど、男性にも楽しめる要素がちりばめられ、男女問わず人気があった。


 かくいう俺も、このゲームをやりこんでいた。


 だけど、まさかゲームの悪役に転生するだなんて。


 ゲームに登場するディオン・ローゼルバイトは容姿端麗な貴族の少年だ。


 漆黒の髪に深紅の瞳。


『ダークな色気がある』として一部に熱烈なファンがいるが、基本的に性格はクズであり、ストーリーの中では紛れもない悪役だった。


 そして主人公を敵視し、婚約者ジュリエッタを束縛し、最後は破滅する――それがゲーム内でディオンがたどる末路だ。


「ふざけるなよ……!」


 俺は、絶対にそんな運命をたどるつもりはない。


 そのとき、怒りとともに体の中に『何か』が満ちてくる感覚があった。


「力だ――」


 直感的に、それがスキルであることを自覚する。


「【鑑定】……それに【人心掌握】……?」


 無意識にそうつぶやいた瞬間、俺の視界に奇妙な文字列が浮かび上がる。


 それは【鑑定】と【人心掌握】と――二つのスキルの説明だった。


【鑑定】:まるでゲームのステータス画面のように、対象を見ると、その人間の素質がわかる。


【人心掌握】:言葉に『力』を与え、話すだけで相手の心を自然と打ち、心を揺さぶる。


「……そうか、ゲーム内のディオンと同じスキルを持っているんだ。これって使いようによっては、かなり強力なスキルだよな」


 ちなみにディオン自身のステータスも高い。

 剣も魔法も使えるし、知力体力すべてがAランクだ。


 とはいえ、最高とされるSランクに達している能力が一つもなく、器用貧乏とも言えた。


 俺一人で英雄のように何かを成し遂げることはできない。


 けれど、それならそれで……やりようはある。


 何よりも――破滅する運命のキャラクターに転生したからって、その通りの末路をたどるつもりはない。


「没落の運命を覆す――そのために必要なのは領地改革だよな」


 俺はベッドから降りた。

 体に、そして精神に、活力がみなぎっていく。

 最初の混乱が収まり、これからの目標が定まったことで心が活性化していた。

 そうだ、落ち込んだり戸惑ったりしている暇はない。

 俺はもう現代日本でブラック企業に勤めていたアラサーのサラリーマンじゃない。

 この『花乙女の誓約』の世界で生きる悪役令息。


 いや、悪役の道をたどらず、正道を歩む貴族令息だ。


 見てろ。

 このゲーム知識とスキルを駆使して、俺は運命を覆してやる――!


「……ん?」


 ふと周囲を見回すと、扉の向こうに人の気配を感じた。


「誰だ?」


 扉を開けると、そこには侍女が立ちすくんでいた。


「ひっ……!」


 侍女は怯えた様子で目をそらす。


 そっか、今の俺は『悪役令息』だったな。

 日ごろからの暴言と横暴で、使用人たちから怖れられている、ということだろう。


「……君の名前は?」

「えっ……あ、あの、私、ルーシアといいます……」

「怖がらせてしまったようだ。すまない、ルーシア」


 俺が謝罪するとルーシアの瞳が揺れた。


「ディオン様が、そんな……謝るなんて……!? 嘘――」


 彼女が戸惑いながらもう一度俺を見た。


 その表情から怯えの色が消えていく。


「大丈夫。俺はもう今までの俺じゃない。君たちにひどい応対をすることは一切ないと誓おう」

「ディオン様……?」

「今まで横暴だった俺がいきなりこんなことを言っても信じられないかもしれない。だから、これからの態度で示す。どうか怯えるのを止めてほしい」


 俺の一言一言が、彼女の表情から険しさを取り去っていく。


 単純に俺の言葉の作用だけじゃない。

 これが【人心掌握】のスキル効果だろう。


 俺の言葉はスキルを通して、他者の心を揺らす。


 といっても【洗脳】とは違う。


 あくまでも、普通に話すよりもずっと効果的に他人の心に届く――俺の言葉にブーストがかかる、といった解釈でよさそうだ。


「し、承知いたしました、ディオン様」


 ルーシアがうなずく。


 その目にはもう、俺への恐怖感みたいなものがかなり薄れていた。


 それでも完全に消えていないあたり、やっぱりディオンに対する怯えは根深いものがあるらしい。


【人心掌握】のスキル一つでは簡単に消せないほどの――。


 つまりスキルだけでは決めてにならない、ということだ。


 俺の悪評を覆すのは、結局のところ俺の今後の行動次第。


 ――よし、やってやるぞ。


 あらためて決意する。


 現時点でのディオンの評判は最低に近いが、それも今日までだ。


 ここから巻き返して、『悪役令息』の評判を必ず覆す。


 そして、俺の破滅の運命も――。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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