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危険な核シェルター

作者: レン太郎
掲載日:2010/03/26

 20XX年──。

 ついに、第三次世界大戦が勃発した。

 アメリカをはじめとする、核を保有する国々は、一斉に核ミサイルを発射し、世界中は放射能に包まれた。そしてそれは、僕の住む国「日本」も例外ではなかった。

 人々は大混乱に陥り、あてもなく逃げ惑っている。しかし、逃げるところなどどこにもない。

 僕が個人的に所有している、核シェルターの中以外には──。


「で、これからどうするの。滝川くん」


 僕とともに核シェルターに逃げ込んだ、我が社のマドンナの、柳沢さんが不安そうな顔で問う。


「放射能濃度が、下がるまで出られないよ」


 百パーセントを指している放射能メーターを見ながら、僕はそう言った。

 この戦争が起こることを予想していた用意周到な僕は、周りの人々に馬鹿にされながらも、核シェルターを購入した。

 このシェルターは、ワンルームマンションの部屋を、地下に埋めたような造りになっており、浄水器を経由した水道も使用でき、さらにはオール電化まで完備している。普通に生活するには、まったく問題はない。

 平和ボケしているこの国で、核シェルターを個人的に所有しているのは、おそらく僕くらいだろう。

 そして今、僕は憧れの柳沢さんと二人っきり。


「どのくらいで出られるの」


「さあ、二年先か三年先か……」


「そんなに待たなくちゃいけないの」


 柳沢さんは「冗談じゃねえよ」と言わんばかりの絶望的な表情を浮かべ、僕を責め立てた。


「大丈夫さ、食料もたっぷりあるし」


 この日に備え、僕は乾物類や冷凍食品、米、味噌、などなどを大量に購入していた。柳沢さんと二人なら二、三年くらいは余裕で食べていける。


「そういう問題じゃないわ」


 だが、柳沢さんは、まだ怒っている。なにか気に入らない事でもあるのだろうか。


「あんたと、このシェルターで、二年も三年も一緒に居られないって言ってるのよ」


 成る程、そういうことか。


 柳沢さんが、僕を嫌っているのは、百も承知だった。 だが僕は、核ミサイルの発射が日本に向けられているとのニュースが報じられた時に、柳沢さんと二人でこのシェルターに逃げ込むことを決意したのだ。

 声を掛けた時、最初は戸惑っていた柳沢さんだったが、生死に関わる事態に、致し方なく僕の誘いに乗っかったというわけだ。

 どんなに嫌われていても、二年も一緒に居れば“情”というものが湧いてくる。僕は柳沢さんが、僕のことを受け入れてくれるという確信があったのだ。


「柳沢さん……」


 僕は、警戒心むき出しの柳沢さんに、優しく声を掛けた。


「なによ」


 ファイティングポーズをとりながら、今にもパンチを繰り出してきそうな柳沢さん。

 そんなに怖がらなくてもよいではないか。


 どこにも逃げる場所などない閉鎖された空間が、普段は絶対に言えない台詞を、僕に吐かせてくれた。


「僕は、君がずっと前から好きだったんだ」


 僕は柳沢さんに、少しづつ擦り寄った。


「近寄らないで」


 断固として、僕を拒否する柳沢さん。だが僕は、それに臆することなく話を続けた。


「僕と結婚してくれないか」


「はあ?」


「二年以上もあるんだ。ここで僕と家庭を持ち、そして子供も産んで、三人で幸せに暮らそう」


「あんた、馬鹿じゃないの」


 呆れた顔で、僕を罵り続ける柳沢さん。でも、まあいい。そう言われることは分かっていたことだ。

 時間はたっぷりある。やがて僕と柳沢さんは、禁断の果実をかじりエデンの園から追放された、アダムとイヴのように、この世の再生のために一緒になる運命なのだから、焦る必要などどこにもない。


「ちょっとでも触ったら刺すわよ」


 キッチンの扉から文化包丁を取り出し、僕の眼前に突き付ける柳沢さん。さて、いつまでそう言っていられるものやら。



 そして、二年の月日が流れた──。

 結論から言おう。僕は、柳沢さんを諦めた。べつに、柳沢さんから激しい抵抗を受けたとか、性格の不一致とか、そういうのではない。僕の思惑通りといってはなんだが、柳沢さんは、徐々に心を開きはじめていた。

 だが、今の柳沢さんを、僕は受け入れられない。なぜかというと、この二年の間に柳沢さんは、急激に太ってしまったからだ。

 今、僕が一緒に生活しているのは、寝転んでポテチを食いながら、暇つぶし用に備えていたDVDを何度も繰り返し観ている、ゾウアザラシである。あの美しい柳沢さんの面影は、カケラも残されていない。

 僕はふと放射能メーターを見た。放射能濃度は、まだ三十パーセントを指している。どうやら僕は、あのゾウアザラシと、あと一年は一緒に暮らさなければならないようだ。


「ねえ、もうポテチないの?」


 寝そべったままの状態で、食べ物を要求するゾウアザラシ。そのうち、このシェルターの食べ物は、あいつに食い尽くされてしまうだろう。だが、僕はあと一年、生き永らえなければならない。

 僕はキッチンに向かい、あの日、柳沢さんが突き付けた文化包丁を手に取った。するとDVDを観ながら、ゾウアザラシがこう呟いた。


「結婚の話さ、考えてもいいよ」


 その台詞、二年前に聞きたかったよ。


 僕は文化包丁をにぎりしめたまま、ゾウアザラシの元へと向かった。



(了)


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― 新着の感想 ―
[一言] かわいそうな主人公www まぁその包丁でブスッと刺しても緊急避難ということで 法律上は問題なし?
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