Episode.1
親が離婚し、高校に上がるタイミングで関西から関東に引っ越してきた悠介だが、散歩の途中、目の前でこけるショートヘアの女の子に遭遇し…
「悠介、もうすぐ着くよ」母に起こされた悠介は車の窓から外の景色を見た。田舎すぎず都会すぎない。しばらく景色を眺めた。典型的な東京郊外地域だ。
母は、小柄で顔が小さく目が大きい。髪は金色に染めて、ポニーテールだ。ギャルっぽく、歳の割に若く見られる。
悠介はカメラを取り出し、通りかかった派手なおばさんを撮った。カメラは祖父からもらった。新しいカメラを買ったから不要になったらしい。
しばらく景色を撮ったあと、いいお店がないか見ることにした。しばらくして母が「お寿司でも買う?」と言ったので悠介はうんと答え、スーパーに寄ることになった。
悠介は車の中でどっさりと袋を抱えながら再び外の景色を見ていた。母はカーナビを見ながら目的地を目指していた。小さなアパートに着いた。
腕時計を見ながら車から降りた。午後1時だ。
「ええっと…203」母と悠介は、アパートの2階に上がり、通路を渡ると、母がドアの鍵を開け、中に入った。
何もない。しばらくリビングを見渡したあと、母が「ご飯にしますか」と言った。自分たちは床に座り、お寿司とお茶を取り出した。これから色々な荷物を運ばなければならない。悠介はため息を吐きながら、お寿司を食べ始めた。
食べ終わってすぐ、ダンボールや家具を運ぶのを手伝った。とは言っても、重いものは全て、悠介が運んだ。家族は母と自分だけだ。
父親は半年前に離婚し、急遽、遠く離れた安いアパートに引っ越すことになった。母の実家の近くらしい。
さすがに大きい家具は業者さんがやってくれた。荷物が一通り運び終わると、もう午後6時だ。そろそろおなかがすくころということで、母がチャーハンを作ってくれた。母はご飯こそ作ってくれるものの冷凍食品ばかりだ。
筋肉痛になった腕でチャーハンを食べながら、悠介はもうすぐ始まる高校生活のことを考えていた。「学校…楽しみ?」と母が聞いてきたので、うんと言った。「ここの高校、結構大きいみたいよ」
「そうなん?」と悠介。「人数も多いみたいだし、たくさん友だちが出来るとええな。まあでも悠介は昔から人気ものやから心配ないなあ」と笑みを浮かべながら母は言う。ははそんなことねえよと悠介は苦笑しながら答える。東京が近くにあり親がサラリーマンの子が集まっているのだろう。悠介はそんなことを考えながらお皿をかたずける。
夕ご飯を食べ終わったので、悠介は外をぶらぶら歩くことにした。
散歩をしながら適当に気にとまったものを祖父からもらったカメラで撮るのが最近の悠介の日課だ。
いつもどうり景色を眺めながら歩いていると黒い猫をみつけた。体が小さく不細工な顔には可愛げがあった。その猫があくびをしようとしたので、その瞬間をカメラで撮ろうとしたら、猫が逃げてしまった。
ちぇせっかく猫の阿保面をとってやろうとおもったのにと悠介は考えながらカメラを閉まってると、
後ろから自転車が通りかかってきた。何の気なしに自転車に乗っている人のほうを見つめていると、綺麗な子だなと思った。思ったけど、その女の子は目の前でこけてしまった。ええと驚いていると、今にも泣きそうな顔をしていたので、このままほっておくのも気まずい。。とりあえず大丈夫かと聞いてみると、
彼女はイラついた顔で、「うるさいほっといて」と顔を背けながら言った。なんだこいつと思いながらも悠介は手を差し出した。
同い年ぐらいの女の子だ。黒髪のショートヘアーで、ボーイッシュな服装をしていた。
悠介はため息をつきながら「そんなこと言ったってお前泣きそうな顔してたやん」と言うと、
彼女は「してないし」と言って、悠介を無視して一人で立ち上がろうとしたが、《痛っ》と声を漏らし、
再びしゃがみこんだ。
「ぶはぁっ、ダッサ、おまえ」と言って悠介が笑ってしまったことに、彼女は苛立ちを感じ、こちらを睨んできた。
「立てるか?」と呆れながら悠介が聞くと、彼女は不機嫌な顔で「ムカつく」と言い、急に悠介の手を掴み、自分は平気だと言わんばかりに力強く立ち上がった。おっと声を漏らした悠介に「何?」と彼女はぶっきらぼうな顔で見つめてくる。
彼女は背が高かった。目線が同じぐらいになり怖気づいた悠介の顔を彼女はジロジロと見たあと「あんたこそ、猫と戯れて、かわいいじゃん」と皮肉を込めた笑みを浮かべながら言った。
ゲッ見られてたのかと悠介は戸惑いながら「うるせぇ…」「お前ももう少し気を付けてチャリ漕げよ」
「はいはい」と彼女は面倒くさそうに答える。
《イっ》と彼女は痛みを感じたのか、膝に出来た傷口を手で抑えていた。
そんなに痛いのかよと思いながら「ほら」と悠介が彼女にハンカチを手渡すと、彼女は驚いた様子で手に取った。
「カメラを拭くようにもっていたんだ。まだ使ってないし綺麗だよ。」「別にいつもハンカチをもちあるいてるわけじゃないからな」悠介が言うと、彼女は可笑しかったのかハハハと笑った。
「そうだね紳士さん」と彼女は小ばかにしたような表情で答える。
いやだから…「はいはいハンカチありがとね」と彼女は悠介の言葉を遮ったあと、自転車に乗って走り出しだ。
翌朝「今日から高校生やんねぇ。」と母は味噌汁を作りながらいった。「おう。」 学ランを着た悠介は鏡で髪を整えながら頷いた。母は笑いながら「あんた髪短いんやから触らんでもええやろ。」とツッコミを入れた。うるせぇと悠介。
「まあでも楽しみやねぇ。悠介のクラスにはどんな子がおるんやろなあ。」母はテーブルに朝食を盛りながら言った。
悠介は朝食を食べ終えたあと、靴を履き、鞄をもった。
「行ってきます」と悠介は言って家を出た。
悠介は学校の正門から入った。おそらくこれから入学するであろう生徒たちが、楽しそうに集まっていた。
掲示板らしきものが見える。
近づいてみると、どうやらクラスと名前が載った紙が貼られていた。
自分の教室を確認し、目的地へと向かった。
階段を上り教室に向かって廊下を歩いていると、「あ」っと、そばにいた子が呟いた。
悠介は驚いてすかさず振りむくと、この前悠介の目の前で転んだ女の子だった。
悠介はこんなところでまた会うとはと思いながら「この前自転車で転んでた子…」と言うと、
彼女はしかめっ面をして「あんたこそ猫とたわむれてた人じゃん」と言った。
「もういいだろ。それにおまえ猫好きやろ」と言うと「えっなんで?」という彼女に、悠介は「それ」と彼女の鞄に付けられていた猫のキーホルダー指を差した。
悠介の観察力にまず驚き、そして恥ずかしくなった彼女は「うるさいっ」と言って手で悠介を力強く押しのけようとしたがびくともしなかった。は?途端に彼女の顔が青白くなった。「おいどうしたんだ」と悠介は聞いたが、彼女は何も反応しない。その様子をみて悠介はぎょっとした。そうまるで悠介を獣とでもでもみているように怖がっていた。そんなに俺なんかしたかと戸惑いながらもゆっくり近づこうとすると「来ないで!!」と彼女は急に叫んだ。悠介びくっとその場に留まる。
廊下にいた周りの生徒から一斉に視線を感じ、悠介が焦りを覚えた頃、彼女は落ち着いた様子「ごめん何でもない」と言いこの場を去った。
周りの生徒はひそひそしながらもゆっくりと過ぎ去っていき、まじでさっきのなんなんだったんだと悠介は納得いかない様子でその場に残されていった。
女の子は席に座り、頬杖をつきながらあの男の子のことを考えた。彼は尋常じゃないくらいに体が硬くびくともしなかった。彼の細身の体からは到底想像できない力かなにかを感じた。まさに怪物だった。しかししばらくして彼女はまさかと思い苦笑した。身体だって私と対して変わらない彼にビビったなんて。なんなのアイツ。ムカつく。はあ。彼女は机に顔を伏せた。
でも、あの子何者なんだ。なんだか雰囲気が他の子と違う。喋りかたも違うし…
しばらくして、男の先生が入ってきた。生徒は一斉に前に注目した。白髪まじりだが身だしなみを整えており、眼鏡も似合っていた。第一印象は真面目そうで好印象だ。彼女はそう思いながら、周りを見渡した。みんながざわついているなか、一人だけ、無言で窓の外を見ていた。例の男の子だ。なんか、いい感じに決まっていて彼女はイライラした。
「えぇ。わたくしは杉本敦と申します。」先生は黒板に名前を書きながら言った。「えぇ。まあ皆さん始めましてということで緊張していることもあろうことだと思いますが、まず最初に皆さんで自己紹介をしていきましょう。じゃあ右の席から順にどうぞ。」と言うとみんなは緊張した面持ちになって自分の番を待った。
「松村淳平です。部活は野球部に入ります。」と最初に坊主の男の子が気持ちよく大きな声で名乗ったおかげもあってか、みんな順調に自己紹介をすすめていった。
ああそろそろ私の番かあ。と彼女は嫌な気分になりながら思った。
いよいよ順番が来て彼女が立ち上がると、周りからの視線が些か強く感じる。
すげー、カワイイとか綺麗みたいな声がきこえてきた。
彼女は消えてしまいたい思いを感じながら、
気を引き締め「神崎絵理です。よろしくお願いします。」と言った。
エリはやっと自分の自己紹介が終わったと思い安堵した、後は髪の毛をいじりながら残りの人の自己紹介を聞くだけだ。
このクラスの雰囲気が柔らかい様に感じた。
「明帝将也です。バスケをやってま~す」と背が高くチャラそうな見た目の男子がチャラい口調で答えた。
「のっ野村悟です。ガンダムが好きです」眼鏡を掛けた、がたいのいい男の子は言った。
「俺は合田剛輝。好きな食べ物はハンバーグ。」と筋肉質で少し太った様子の如何にも性格の悪そうな男の子が答えた。あいつとは中学が一緒でとても嫌な記憶しかない。
そしてもっと嫌いな奴がいる。「あたしの名前は河野瑠奈。よろしく。」とキツイ感じの雰囲気をまとった女の子は答えた。アイツとも中学が一緒で私に対して意地悪をしてくる。
次はあの子だ。猫と戯れていた。そして怪我をした私にハンカチをくれた例の男の子。彼が立ち上がるとみんなが一斉に注目した。「大谷悠介です。関西から来たので是非よろしくお願いします。」
自己紹介が終わり間もないところなのに、もうすでに、 グループが形成されていた。おそらく同じ中学なのだろう。と考えていたら、陽気な感じのグループがこっちにきた。
「なあお前関西から来たんだって?大阪?」と背の高いチャラそうな男の子が話しかけてきた。
「え、ああ。そうだけど。」と悠介は答える。
「ええマジかいいな。俺の実家京都にあるんだよね。あ、そうそう俺明帝よろしくなあ!」と感じよく接してくる。「お、おう。俺は大谷悠介よろしく。」と悠介は答える。
すると別の子が「大谷かあ。よろしく!!俺、川村陽平」と話しかけてきた。ヤンチャそうな感じで尚且つ可愛げがある。「で、こいつは淳平」と陽平は坊主の莢やかな男の子の肩を叩く。「よろしく悠介」と落ち着いた声で淳平は挨拶する。このメンツは物腰が柔らかく悠介はすぐに打ち解けることができた。
エリは自分の席で静かに座っていると男の子が話かけてきた。確か悠介の隣に座ってた子。
「あ、あの神崎さん」
エリは握手を求めると、男の子はそわそわしながら「よっよろしく…」と言って手を握った。「おっ俺、宮内涼太」どうやら男の子は怖がっているようだ。エリは愛想がよく見えるように気をつけながら「好きな食べ物は何?」と聞くと「ソーセージ」と涼太は短く答えた。「ああそう…私はイチゴが好きだなあ。」エリは戸惑っていると「そ、そのどこから来たの」と涼太が聞いてきた。
「え?」何のこと「え、ああとその中学とかそのお」と涼太はぎこちなく喋る。
「ああ私は北中学校だけど」とエリは答える。「あ、あ、そうなんだ。ぼ、僕も北中学校。」
げっ同じ中学だったのか。「あはは…同じだね!」とエリは更に気まずくなりながら言う。
明帝たちとは話したものの、それ以外の子からは一切話かけてくれない。
取り合えず隣の子にでも話かけるか。
「よ、俺悠介よろしく」と悠介が話かけると緊張した面持ちで「え、えと宮内りょおおた。ソーセージが好き」と涼太。「ああそうなんだ俺はカツサンドかな」悠介はしばらく隣の席の涼太とぎこちない会話をしたあと、周りを見渡した。例の女の子はぽつりと一人で座っていた。
彼女は独特でクールな雰囲気を放ち、どうやら男子たちがチラチラと見て気になる様子だった。
彼女もどうやらみんなから距離をおかれていらようだ。
窓の外を眺めることにした。ぼーとしながら鳥が見事に低空飛行をしているのを観察していると「悠介くん」と声をかけられた。例の女の子だ。悠介は「ん?」と目を合わせた。
彼女の目は綺麗だった。
悠介はまじまじと見ていると、彼女は急にものを投げつけてきた。悠介はすかさずキャッチした。見てみるとこの前悠介が渡したハンカチだ。「なんやお前」と驚いた様子の悠介に彼女は「この前のお返し。洗っといたから」「あと『おまえ』じゃなくて私エリだから」と言った。「ああよろしく。エリ」と悠介は戸惑いながら言うとエリは「ふふ。じゃあね悠介」と満足そうな顔をして自分の席に戻っていった。
エリは机に手を置いて「はぁ」とため息をつく。悠介は普通の男の子だ。なんてことはない。
悠介のほうを見るとやはり窓の外を見ていた。しかしその横顔には少し寂しさ感じた。
「あの子と知り合いなの?あの悠介って子の」と夏美が聞いてきた。
とても明るく陽気な女の子だ。嫌な奴じゃないし、友だちではないが長い付き合いだ。エリは「いや別に」と答えると夏美は「ちょっと興味あるの?まあ、ありかなしだとありだよねえ」「細見だけどなんか男って感じ」と続けた。「いや別にそんなんじゃないし」とエリは否定したが「まあ顔はタイプ分かれるよねぇ」と雪が割り込んできた。雪は夏美よりおとなしげだがまあ似たようなものだ。
恋バナになると女子は急に盛り上がる。エリはうんざりしながら席を立ち「別に興味ない」と言って立ち去る。ええちょと待ってよおと言う夏美と雪に対し、エリは無視して教室を出た。
悠介はハンカチをポケットに入れて、そのまま手を突っ込んだまま再び窓を見ようとすると「神崎さんと知り合いなの?」と隣の涼太が訪ねてきた。カンザキって…エリのことか「え、まあ」と悠介が答えると「神崎さんがあんな風に話してるの初めて」と涼太はそう告げた。「何。知ってんの?」と悠介が聞くと涼太は「うん。中学が同じで…」「神崎さんっていつもクールな感じで、男子と話してるのあまり見たことない」と答えた。
うぅ。どうやら、涼太はあの子に気があるようだ。
悠介は恥ずかしそうに話している涼太を横目にみながらあいつ結構モテるんだなと思った。
全校生徒たちが体育館に集まり入学式をあげた。
その後、部活動紹介に入った。
野球部がきびきびとステージにあがった。
「野球部です!」「初心者も大歓迎です。」
と大きな声でいった。
気合いが入っており、統一感もあってかっこいい。
悠介はそんなことを考えながらステージを眺めていると
「ここの高校 結構強豪なんだよね」と
野球部志望の淳平がウキウキした声で言った。
「へぇ」と答えて再びステージを見ると
今度はサッカー部だ。
「なぁ一緒にサッカー部入ろうぜ」と今度はヤンチャな
雰囲気の男の子が話しかけてきた。川村陽平だ。
「大谷ってサッカーやってそうだし」
「まあ 一応あるけど」と悠介が答えると
「ええまじ!気が向いたら是非とも入れよ!」と嬉しいそうに陽平は言った。
悠介は「考えとく」と答えた。
しばらくして一人の男の先生がステージにあがった。
生徒たちは急に静まった。とても怖かったからだ。
形のいい頭はスキンヘッドにしていた。
濃い髭は綺麗に整えてあり、堀が深く、目にはくまができていた。筋肉質で肩幅が広く、スーツがとても似合っていた。いかにも強そうだ。
「ええ 写真部です」意外にも声は高く、カタコトだった。
「ええ わたくし スティーブが顧問です」
「部員は0人です」
「入部してくれる生徒を心からお待ちしています」
スティーブ先生がどかどかと去ったあと、生徒たちは
ざわめきはじめた。
「そりゃ誰も入らないわ」「だって、めっちゃ怖いもん」
と陽平は無邪気に言った。
「あの部活潰れるかもね」と涼太が言った。
「俺はあの先生興味あるわ」と悠介が冗談交じりに発言すると
「ええまじ! やめとけって」
「あいつ人でも殺しそうな顔してたぜ!」と陽平が言った。
悠介はスティーブ先生のことを考えた。なかなか奇妙な予感を感じ興味を持った。
ふぅん 写真部かぁ…入ってみようかな
多分俺一人だけだと思うけど。
体育館を出て、教室に向かって廊下を歩いていると、
上級生たちがゲラゲラとこちらに向かってきた。
不良っぽい集団だ。
ふと見てみると周りにいた同じクラスの子たちはビビっている様子だ。
悠介は目を付けられるとだるいと思い何事もなく通りすぎようとしたら、
センター分けのでかい奴が肩をぶつけてきた。
ああ面倒くせぇ避けたのにぶつかってくるなよ。と悠介はイラっとして「なんだこいつ感じ悪いなあ」つい口に出してしまった。あっやべ
すると、通りすぎたはずの集団が振り帰り戻ってきた。
「あぁん!なんつった言ってみろ?」
不良集団たちは怒った顔を見せていたが、何やら楽しそうだ。
「おら!何黙ってんだこのガキ。一年生か?」「あぁん」「おら!」
ほら面倒せぇ
悠介は見てみると、一人の無言の不良の周りにうじゃうじゃと取囲み、他の不良たちがおらんでいた。
多分この無言の奴が中心っぽい。ていうかなんか喋れよ。悠介は不良集団の構図を理解したあと「しょうもな」と呟いてそのまま立ち去った。
取り残された不良集団たちは
「あぁんなんだアイツ」「ビビってのかオラ!」
としばらくほざいでいたが、周りからの視線を感じ、
恥ずかしくなったのか、しぶしぶと帰っていった。
教室に戻ったあと悠介に誰も声をかけてこなかった。
おそらくみんな引いているんだろう。
たが、周りからの熱い視線を感じた。
エリはいつもどうり席に座ってぼーとしていた。
なんかみんな様子がおかしい。なんだろうと考えていると
女子のひそひそ話が耳に入った。
「大谷くんが不良に絡まれたらいよ」「まじ あの子が」
ええ「無視して帰ったらしいよ」「まじでぇ」わぁ
「大谷くんって男らしいとこあるよね」うんうん
「ちょっとかっこっこよく見えてきたかも」「それなー」
と女子がひそひそと盛り上がっていた。
エリは机に腕を組み顎をのせた。悠介って結構モテるのか。
彼の方を見てみると、彼はポケットに手を突っ込んでやはり
窓の外をながめていた。そんなぼけっと座っている男子に、女子はひそひそ話してはチラチラと彼に視線を送っていた。
エリはため息をつく。うぜぇ~
教室で先生の長い話を聞き、記念すべき高校生活一日目に幕を下ろした。
放課後、エリは女子たちがわいわいと楽しそうに話ているのを眺めながら門を目指した。
女子たちは、ねぇねぇ今日どうだった?
どんなクラス?先生は?イケメンいた?部活入る?
などと色々なことを質問し合っては、共感しあっていた。
彼女はため息をつきながら門を出た。
しばらくして、彼女は悠介に初めて出会った(ばかにされた)田んぼ沿いの例の道に出た。
ニャー、猫だ。しかもまだ小さい。黒い毛模様に不細工な顔でエリを睨んでいる。
彼女はしゃがみ込んで「ムカつく顔だなあ」と呟き、猫をそっと撫でた。
顔をあげて少し歩くと、彼女は急に立ち止まった。
あの男だ。
悠介はカメラを構え空へ向けていた。入道雲だ。
パシャ、彼はカメラを下ろし、画面を覗き込んだ。
満足したらしく、しゃがんでカメラを鞄にしまい始めた。
「なんでいんの?」とエリはあきれたように言った。
もうすでにエリは悠介の間近まできていたが
いまさら気づいたらしく、彼は驚いてエリの顔をみた。
「あっ」「エリ…」彼は苦笑しながら立ち上がった。
背はちょっとしか変わらないのに彼はとても大きくみえた。
「いや俺ここら辺に家あるんやけど」
「まじ?私の家と近いじゃん最悪」
「なんでや?」と聞く悠介をエリは無視し「写真…好きなの?」と尋ねた。
彼は鞄を背負い直し、再びエリと目をみた。
「んんまあ、カメラ、爺ちゃんから貰った」
「ふうんそうなんだ」エリは鞄から何かを取り出す。
「チェキ?」
「そう、いいでしょ」とエリは勝ち誇ったような顔で答える。「もう売ってないやつだよ」
そういいながらエリは寝そべってあくびをしている黒猫を撮った。
ウィーン、本体から写真が出てきた。
「お」と彼は興味を持った様子だ。
「エリもカメラ持ってたんやな」「まあね 趣味なの」
「俺にも貸してや」と彼が手を出してきたので
エリは「嫌」と言って、彼の肩当たりをパンチした。
「イッテ」「ここ筋肉痛やって」と彼が痛そうにしている様子が可笑しくエリは「ハハ」と笑った。
それから彼の写真を撮った。
「いや撮るなよ」
「え、だってさっき顔が面白かったんだもん」
「はあやめろよ」
「ごめん、ごめん、これあげるから」とエリは猫の写真を渡した。
いやいらねよ