影鬼
鬼ごっこをしていた。
皆と。
陽が落ちて来た。
だから、一人、また一人とおうちへ帰った。
でも、僕はまだ遊びたかった。
だから、鬼ごっこを続けた。
僕のお母さんが僕を呼んだ。
だから、足を止めて僕は振り返った。
だけど、君が言った。
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」
だから、僕は君を追いかけた。
君を鬼にしてから僕は帰るつもりだった。
だけど、君は早かった。
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」
だから、僕は君を追いかけ続けた。
お母さんの声を無視して。
君は早かった。
だけど、僕の方が早かったから僕は君を捕まえた。
「はい。次は君が鬼」
僕がそう言うと、君は僕を見て笑った。
「うん。ありがとう」
僕は振り返ってお母さんの所に戻った。
だけど、そこには何故か既に君が居た。
君は僕のお母さんと手を繋いで帰っていた。
だから、僕は驚いてお母さんを呼んだけど、お母さんは僕の声に気づかなかった。
だから、僕は君を追いかけた。
だけど、僕は君に追いつくことが出来なかった。
君が言った。
「お母さん。影が伸びてるよ」
「そうね。こんなに遅くになるまで遊んじゃって」
そう言って、お母さんが僕にするように君を軽く叩いた。
「一人きりで遊んで迷子になっちゃったらどうするの」
「ごめんなさい。お母さん。だけど」
君が振り返って言った。
「影があるから独りじゃないよ」
その時、僕は君の顔を見た。
だから、何が起きたか分かった。
だって、君の顔は僕の顔だったから。
僕は君の影だったのだろうか。
それとも、僕の影だった君が僕に成り代わったのだろうか。
混乱し続ける僕に君は小気味が良いほどに腹立たしい声で言った。
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」
僕は何も分からないまま君の影をついて歩くしかなかった。
永遠に。