はじまり
うぅぅ、、ここはどこだ?死後の世界か?暗いな。
えーっと、俺はトラックに轢かれて、死んだよな…
まさかと思うがあの状態から生きていて目もあかない状態ってことか?おいおい、冗談じゃないぞ。
そう思いながらも、頑張って手足を動かそうと試みる。
ん?なんだ?おかしいな?全然感覚ないぞ。
宙を切るという感覚が正しいか。どう頑張っても何かを掴めるような気配すらない。
その後も色んな動きを試してみるものの思うように動かない。
その時、自身の体がフワッと宙に浮く、、なにか柔らかいものに包まれている感覚だ。この感覚は、抱っこされている感覚に近いな。ん……?抱っこされている!?
おいおい、勘弁してくれよ。この年で抱っこされるなんて…
俺は相当な期間眠り続けて、痩せ細っているのかもしれない。それでも、24歳で抱っこだなんて外聞が悪いぞ。
その時、光が瞼から差し込んだ。
ふぅ、ようやく目が開けられた。
「?/.!:?@¥:¥&&-&!.!,:.?.',?:'::?.?.!!,','」
そこには満面の笑みで、俺を抱きかかえる美女の姿が。
天使が存在していたらこんな姿だっただろう。俺に何かを話しかけている。
うんうん、何を言っているかはわからないけど悪い気はしないな!
一方、その横で不安そうに俺を覗き込んでくる男。
「@:/,((。。,:()?!¥¥'!、。@..、!¥¥。(」
ううん、これは何語だ???
英語では無いことは確かだな。ポルトガル語とかなのか?とにかく、日本で聞き馴染みの無い言葉だ。
しかも、ずっと喋りかけてくるぞ。喋りかけてくるというか、どちらかと言うと言い聞かすみたいな。
まぁ、とりあえず返事してみるか。
「あぅ……あぅぅ………」
!!!???
言葉が出ない!!?どう言うことだ??
ここで俺は初めて視線を自分の体に落とした。
なんだ?この小さい赤ちゃんみたいな手は??
(…………………!!!!)
どうしてここまで気がつかなかったんだ。
あぁ……つまり、俺は転生したのか!!
°°°
そして、8ヶ月の月日が流れた。
相変わらず、自分で自由に動くのは難しいがある程度はいはいで色んな場所を動けるようになった。
俺の世界が赤ちゃん用ベットの上から我が家へと広かったのだ!動けるって素晴らしい!
さらに、言語も毎日聞いていることで、ある程度は分かるようになってきた。
毎日、その言語だけしか聞いてないとこんなにも早く理解できるようになるんだな。英語もこうすれば良かったか。
様々な場所をはいはいで動く。それまでには知り得なかった色々な情報が得られる。
家の広さからして、うちの家は裕福な家庭では無いらしい。大体、8畳1間のワンルームだ。その上、水道や電気も通っていない。
今どきそんな場所に生まれてしまった自分を悔やんだが、そんな考えはすぐに否定された。
母が暖炉の木に向かってブツブツと小言を言うと指先から小さな炎がとび出たのだ。その炎が、暖炉の木に飛び移り、メラメラと音を立てて燃えはじめる。
(……どこからどう見ても、ライターは持っていない。これは…………魔法!???)
夢の中にいるような気持ちになりながら、その様子を見ていた俺は体の奥底からフツフツと血が滾るような感覚を感じた。
つまり、これは、、、
(異世界だ!!!!!!)
俺だって男の子。魔法の世界に心が踊らないわけが無い。
(とにかく、魔法を習得したいな!どんな原理で発動させるんだろうか?ワクワクが止まらない!
喋れるようになったら、すぐに教えてもらおう!)
前世での俺は夢もなく、ただただ毎日を惰性で過ごしてきた。
自由に生きて、熱中できることを見つける。そして、才能にも抗う。
それが俺の前世からの教訓だ。
魔法が俺を変えてくれる。そんな気がする。
°°°
さらに、2年と少し時が過ぎた。もう少しで俺の3歳の誕生日となる頃だ。
この世界の言葉も日常会話ぐらいなら習得した。
すこし3歳の子どもにしては早すぎるかとも考えたが、それなりに賢い子として認識してもらうため言語を理解し始めた時から、上手い具合にどんどん習得していった風を醸し出しておいた。
親は見事に、賢い子だ賢い子だと大はしゃぎしていた。
親バカを扱うのは意外と簡単そうだ。
(まだ、世界の情勢とか何も知らないからな。うまい具合にしないと、神童と持て囃されて、戦争に駆り出されるとかなったら第2の人生が台無しになる。それだけは避けなければ。)
さらに、俺の名前は「トラン」らしい。それが俺の今世での名前だ。
前世ではカタカナの名前はかっこいいなとか思っていたがいざ自分に着くと違和感があるな。まぁ、そのうち慣れるだろ。
また、テラルドという名字らしい。
トラン・テラルドということになる。
高名な貴族や王族ではないということはもう3年も暮らしてれば分かっていた事だ。
また、近所付き合いからうちの家の身分は周りと比べてもただの庶民と言った感じだ。
今のところ、両親に世界を変えるようなすごい力も感じない。
(クソー!転生って大体は王族やめっちゃ強い勇者の家系とかに生まれるんじゃないのか!?
はぁ、、、第2の人生が歩めるだけありがたく思っておくか)
父親は「デビス・テラルド」、母親は「ヘリア・テラルド」というらしい。
3年もこの世界にいるとある程度のことは分かってきた。
現在は天正歴998年でこの世界には主に人族、獣族、天使族、悪魔族がいるらしい。その他の少数民族もいるが外交的では無いらしく、ほとんど人前には姿を表さないのだとか。エルフ族、竜族、ドワーフ族などなど、ファンタジー定番の種族はいるにいるそうだ。
主な種族に天使族、悪魔族が入っているのが意外だったが母親が寝る前に物語みたいなのを聞かせてくれた。
〘 むかしむかし、あるところに人族の2つの王国がありました。この2つの王国は昔から仲が悪く、小競り合いが続いていたそうだ。
ある時、戦争がついに始まり、1つの国が天使、もう一方が悪魔を召喚し天魔大戦が起こったそうだ。
召喚合戦は4体の大天使と7体の大悪魔を召喚した。
この天使と悪魔が参加した戦争は多大な犠牲を出しながらも10年間続いた。
ついには、両者は疲弊しながらも天使を召喚した国が勝利したのだった。
この時、天使と悪魔は召喚された身であるものの、人族の大量の亡骸を媒体として多くが受肉し、精神生命体から媒体の人族の影響を受け寿命ができた。
こうして、この世界に天使族と悪魔族が生まれたのであった。〙
まぁ、色々と話していたがとにかくまとめるとこんな感じだった気がする。
いや、眠かったからちゃんと聞いてなかったとかじゃないよ。
仕方ないじゃん。2歳の子供に何を求めてるんだ。寝る子は育つそれでいいじゃないか。
そして、今の天正歴はその大戦の和平が結ばれた年から998年が経ってるってことらしい。
悪魔はその後、天使に使役される形で落ち着いたらしい。使役といっても見張られてるぐらいらしいが。もう1000年近く経ってんだからそらそうだよな。
よし。どう見たって俺は人族だ。
(ふぅー。悪魔族じゃなくて良かったー。なんかいざこざも色々ありそうだし、人族が1番無難でいいよな!)
肝心の魔法だが、喋れるようになってちょっと経ったぐらいの時に、ちょうど魔法で火をつけている母に言ってみたのだ。
「ママ〜、それやりちゃい!」
恥ずかしい限りだが、言語能力を時の経過に合わせて地道にあげていた最中なんだ。
最初の頃だから、これくらいの赤ちゃん言葉から始めたんだ!キモイなんて言うなよ!
「あらあら〜、この魔法のこと?トランは好奇心旺盛ね。
魔法は危ないから、トランにはまだ早いと思うわよ〜。
そうね〜。3歳になったら教えてあげるわね。」
こういって、俺の魔法の夢は3歳までの制約のもとに撃沈したのだった。
(ちくしょー!俺が神童を演じていたら、教えてくれたか!?だが、戦争なんかに駆り出されて、自由な生活を失うのもヤダしな。仕方ないか……)
°°°
ついに3歳の誕生日を迎えた。
うちの家庭は誕生日は少し食事が豪華になるぐらいだ。
両親の誕生日を祝うみたいな日はなかったから、おそらく俺のために頑張ってくれてるのだろう。
とは言っても、やはり誕生日ってだけで凄く嬉しい。人におめでとうと言われるのは、心がハッピーになるな。
(そのうえ、今年からは魔法を教えて貰える!さぁ、俺の異世界生活が本格的にスタートだ!)
少し豪華になったとは言ったものの、日本のご飯に比べれば味は数段劣ると言わざる得ない。
しかし、愛情のこもった料理とは味なんかじゃない。愛情を食べているのだ。
そんなお昼ご飯を食べながら、満を持して俺は切り出した。
「パパ、ママ。3歳から魔法を習ってもいいって言ってたよね。教えてくれる?」
必殺「なるべく上目遣いおねだり」だ。これで落ちない大人はいない。勝ったな…
「そうね〜。トランもこう言ってることだし、そろそろ魔法を教えてあげましょうか。あなた。」
「あぁ、そうだな。俺が教えるとしようか。俺の教えは厳しいぞ。それでもやるか?トラン。」
待ってましたー!これでついに俺も魔法使いになれる。
「おねがいします!」
°°°
昼食を食べ終わり、家の外に出て、早速稽古を始める。
「まず最初に、言っておきたいことがある。俺達、悪魔族には光魔法は使えない。おまえは……」
「ちょっと待ってください!パパは今俺達は悪魔族と言いましたか?」
いや、さすがに違うだろう。どう見たって俺たちの外見は人族だし、転生したら大戦で敗北した地位低めの悪魔族なんて聞いたことがない。
前世でどれほどの悪行を積めば悪魔になれるんだ。聞き間違いだろう。
「そうだ。俺達は天魔大戦で戦った悪魔側の血を引く家系だ。だから、すまないが光魔法は使えない。」
「やはり、そうですか。違いますか…………ぇぇええええええええええ!!!!」
転生先は悪魔でした。