5話 黒い手
現場で死体で発見された学生とは全く無関係だと立証された。
しかし、あの青年の事がどうしても気になってしまう。
斉藤巡査は独断で、再び学校へと訪れたのだった。
「あの、ちょっといいかな?霜月渚って生徒の事知ってるかな?」
近くを通った少しチャラそうな学生に聞いてみる事にした。
「なんでですか?何かやったんですか?」
「え、あーちょっと気になる事があってね。知ってたら詳しく聞き
たいんだけど…」
「それって渚を疑ってるって事だよな?」
「知り合いなの?」
「幼馴染みだからな。あいつは絶対に人を殺したりなんかしない。
一見弱そうだけど、しっかりしてるし人に迷惑になる様な事は絶対
にしないぞ?」
「うん、分かってるけど…彼って何か変わった様子はない?」
「やっぱり疑ってんのか?知らね!もういいだろ?」
第一印象が悪く思えてしまった気がする。
気を取り直して聞き込みをすると、大体の性格は分かった。
あまり人と連まないらしい事と。
いきなり怯えたり、逃げる事が多い事。
唯一話をできるのが一番最初に話を聞いた学生だけと言う。
磯貝悠馬。彼は一見チャラそうに見えるが面倒見がいいらしい。
霜月渚の唯一の理解者の様だった。
余計に分からなくなりそうだった。
彼は事件にどう関係しているのか?
いや、全く関係していないのかもしれないが、何かを知っていそうだ
と刑事の勘が言っているのだ。
授業が始まると生徒の不安を煽らない様にと注意を受けた。
もう一度彼と話したいと思う様になっていたのだった。
教室では渚が来ると、ヒソヒソと小声で話し声が囁かれるようになっ
ていた。
「今日校門の前で昨日に刑事さんが来ていて、霜月の事聞き回ってい
たよ?」
「それって…犯人だから?」
「マジで?おとなしそうなのに…なんで学校来るのよ〜」
「そうだよな〜殺人犯と一緒に授業受けるとかありえねーだろ」
「マジかよ、早く掴まれよ!」
「証拠がないとか?家に家宅捜索?すればいいじゃん?何か見つかる
だろ」
授業中も先生が叱らないのをいい事に言いたい放題だった。
「…」
何もしていない。
そう言いたいけど、多分信じてもらえないだろう。
ガタッと席を立つ。
「すいません。気分が悪いので…」
渚の言葉に全員がシーンとなる。
「早退したいと…」
「この人殺し…」
「今からまた殺しに行くのか?おとなしそうにしてて、最悪だな」
「やめなさい。分かったから帰っていいぞ」
担任の先生も早く帰ってくれとでも言うように止めもしない。
「…はい」
「おい!待って!お前らなんで渚が犯人だって思ってんだっよ!」
「もう、いいよ。」
「よくねーよ!勝手に勘違いしてんじゃねー!警察が来て渚の事聞き
回ってたからか?それだけで勝手に決めつけんなよ!」
反論したのは磯貝悠馬だけだった。
高校3年という大事な時期に、こんな理不尽な事をされて許せるわけ
はなかった。
が、教師でさえ早く帰ってくれて言う雰囲気に余計に悠馬が切れたの
だった。
荷物をまとめると出て行く渚を追って教室を出て来た。
「待って!本当に帰るのか?」
「だって…僕がいたら勉強にならないでしょ…」
「そんな事…って、渚のせいじゃないだろ?」
「でも…」
泣きたい気持ちをグッと堪えると悠馬を手を振り切って出て来た。
校門の前では昨日の女性刑事が待っていた。
後ろから追いかけてきた悠馬が大声を上げると掴み掛かって行ったの
だった。
「おーーー!お前〜〜〜!」
「君は…朝のっ…」
「お前!渚が犯人だって言いふらした警察はお前だろ!」
「私は何も言ってないぞ?ただ、彼の人となりを知りたくて…ってそ
れはどう言う事だ?」
今にも泣きそうな顔で横を通り過ぎて行く彼を引き留め用としたが、
目の前の青年によって、阻まれてしまった。
「私は彼に話があって…」
「俺と話そうじゃねーか!お前のせいでクラスに居られなくなったん
だよ!どー責任取るんだ!あぁ?」
「それは悪かった、誤解させてしまったようだ。しかし、」
「しかしじゃねーよ!しっかり誤解を解いてけよ!」
「だが、犯人はまだ捕まっていない!彼でないと言う証拠もないんだ」
「まだ言うのか!このくそ女っ!」
悠馬が手を振り上げると、一気に拘束されてしまった。
「一応公務執行妨害って事で。少し落ち着こうか?」
「こ…このっ…」
まだ、何か言いたそうだったが一応は落ち着いた様だった。