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第二十六話 救いと??

 必死に階段を駆け上がる。高さ三階の建造物、忍び込むのは簡単だがここからが関の山だ。多分、篠崎さんがいるのは三階の屋上。そこまでの螺旋階段を今登っているわけだが、噂通り長く面倒臭い構造になっている。


―――クッソ、足が重い。西岡樹、我慢だ、我慢しろ。篠崎さんにたどり着けば何とかなる。


 外野から見れば存在しない可能性の方が高い人物に向かってなに必死なってんの、と感じるだろう。俺の行動にはもしかすれば意味はないかもしれないのだから。


 そんなくそったれ意見に物申すなら俺はこう言う。


 なら今に見ていろ。俺が証明して見せる。絶対に彼女を助けるってことを。那覇士から言葉も貰ってる。必ず会って話さなければならないんだよ!


「はあ、はあ、」


 息憔悴しながら何とかゴール地点のドアノブに手を伸ばす。三階程度の螺旋階段なんぞたかが知れてる、と思ったが結構しんどかった。勢いよくドアに体を押し付け、そのまま十秒ほど休憩し、ドアノブに触れる。金属製のドアには僅かの温かみがあった。


 それは間違いなく誰かが来た証拠。動揺を抑え、改めて右手に力を入れドアノブをキュッと回す。そうしてドアを押し倒しながら侵入すると、風が心地よく流れ、あたりの雰囲気は割と清々しいのが了承できた。

 汗を左手で拭きながらドアを懇切丁寧こんせつていねいに閉めて全体を見つめる。


「当たった……」


 狭い屋上の唯一の物体。人の半身ぐらいの手すりに寄りかかるその人は、紛れもない篠崎さんだった。


「……篠崎さん」

「西岡くん…?」


 声をかけると、手すりに寄りかかる人の顔が完璧に捉えられる。どこか追い詰められた表情、同時にそれは俺が屋上に訪れたことを拒否するようだった。


「……どうして此処が分かったの?」

「篠崎さんを見かねた通行人が居てな、頑張って辿って来たんだ」

「…そう」


 静かに呟く篠崎さんの声は暗い。このままでは何かやばい、そう思い提案をする。


「篠崎さん。帰ろ」

「いい、私はここにいる。もう、いいの」


 最悪すぎるパターン、脳裏にソレが浮かび必死に会話を奨めようとするも、言語が組み立てられない。


「えっと、その」

「西岡君。短い間だったけど、ありがと。貴方のおかげで少しは充実した日を過ごせた、ホントに感謝してる」


 半身ぐらいの手すりに寄りかかる、篠崎さんの腰から上が傾いていく。

 まずいと理解し、面食らいながらも俺は彼女のそばに走り込む。靴を脱ぎ、両足で手すりに立とうとする篠崎さんに俺は脛部分を腕で掴み込んだ。


「離して!」

「嫌だ、死ぬな!」

「いい! だって覚悟はできてー」

「覚悟ができてる人間がそんな悲しそうな表情するわけないだろ!」


 まだ何も伝えられてない。話したい事だってある、それこそ那覇士の言葉だって。だけど、それ以上に篠崎さんに伝えるべきなのは、


「こんなところで、諦めてんじゃねえ‼」


 ピタッと飛ぼうとしていた彼女の動きが止まる。内側に身を崩した篠崎さんは、ゆっくりと手すりから降りて俺の胸に飛びついてくる。


 そして、べらぼうに大きな鳴き声をあげた。


「私だっていやだよ。逃げたくないよ、死にたくないよ! 家族とも会えなくなるし、唯一の友達にだって二度と顔を合わせらせない! でも怖いの、あの時の長山さんの態度が、雰囲気が、ゾッとするの。私に生きてる価値がないって思わせてくるの。どうしようもないじゃん、これが最後のチャンスだったって分かってたのに……」


 ひとと段落つき、篠崎さんの涙が大体流れ落ちると、彼女はぽつりと質問した。


「私、どうすればよかったの」

「……分からない、けど那覇士さんは言ってた。私は篠崎さんに謝りたいって。今は勇気が出ないけど、もう一度話し合いたいって言ってくれた。篠崎さんのやったことは無駄じゃなかったんだ」


 簡単に答えの出せない回答に篠崎さんは黙る。此処の下で会ったとき、ナガッチがこっちの関係に漕ぎ着けたかについて那覇士は何か知ってそうな素振りを示していた。彼女こそがキーになるかもしれない。


 と、その瞬間


「よし、無事じゃな」


 耄碌したお年寄りの喋り方。

 場違いにも程がある声が辺りにこだました。


 俺と篠崎さんは辺りを見渡す。そうすると、さっきまで篠崎さんが立っていた手すり、その左端にとんがり帽子の被った背の低いヨボヨボのお爺さんが立っていた。

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