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第二十一話 凶兆

 昼休み。朝っきり黙り込む篠崎さんとの対話を諦め、雲斎と話そうとしたところ、メールでの警告。

 今喋るのは悪手らしく、渋々クラスの男子と話していた。中谷を含めないで考えれば久々の男子との会話。趣味嗜好、部活、勉強について会話してたところ、唐突にそれがやってきた。


「西岡、今ええか?」


 コツコツ、と音を立て迫って来たナガッチが、主に俺方面に視線をぶつける。

じんわりと。心の深みから上昇する怨念を胸のうちに抑え込み、俺は返事をした。


「……何?」

「今日の放課後、空いとるか?」


 周りがヒューヒューと囃し立てる声がうざったく思えてしょうがない。この瞬間、クラス総勢がこちらに注目している雰囲気が滲み出ていた。


―――話しかけんなドブスっと言いたいが、状況的に肯定しなきゃ駄目な気がする。


 彼女の後ろには高頻度でへばりつく取り巻き二人組。朝喚いたこいつらに殺意を覚えるが、ここで断るとさっきの篠崎さんの二の前。大人しく言うことを聞くのが自然な感じがした。

だが、その前に一つ確かめる事実がある。


「那覇士は、どうしたんだ?」

「あ?」

「ホームルーム前に話してたろ。今はいいのか?」


 昼食、昼休みと那覇士は一人で過ごしていた。その様子を寂しそうに思わないのか、という俺の問いに彼女は笑いながら答えた。


「まーな。もう十分や。やるべきことは済んだ」


 なぜそのような事を聞く、という彼女の表情を俺はしっかりと見据える。やはりこの畜生は俺とは完全に合わないと、節に感じながら。


「分かった、放課後な。どこに行けばいいんだ?」

「ほ、ほんまに、来てくれんのか⁉︎」


 ガッと顔を押し出してくるナガッチを俺は反射的に避け、体を外して「ああいいよ」と、答える。殴りたさに腕に力を込めるが、ギリギリで封じ込める。


 顔を赤らめたナガッチはすぐに身を引くと、場所を指定してきた。


「体育館裏の倉庫、そこで」


―――めんどいな。


 心の声を表情に出す俺ではない。無意識に返事をして、取り巻き二人と嬉しそうに去っていくナガッチを横目に俺は思った。


―――話したい内容がまるっきりピンとこない。が、いよいよ強く拒否してもいいのかもな。今まで優しすぎたのか・・・?


 彼女が俺を呼ぶわけ。察しがつかない自分自身はしばらくの間、考えを働かせる。

ちょうどその時、席に居たはずの篠崎さんは姿を消していた。



*****


〈篠崎〉


「何それ、エロ小説でも読んでるの」


 中学生の頃、私の顔を見て蔑んでくる人間がいた。小学校の友達とはまるっきり異なる人相した彼らは、私の手元に有ったラノベを見て思いっきり見下す。初学期にそういった出来事が重なり、ハッとクラスに目を向ければ私の近くには誰もいなかった。


 昔からの馴染みはそれでもいいじゃん、と言ってくれたけど小学生時代誰かに頼りきりだった私には、耐えきれなかった。


 つらい。


 他人に関わろうとした結末がこれなら、初めから踏み出す必要なかったのかな。


 空を眺める。もうすぐ一時半となる青空は、雲一つない快晴。


『そうだ。興味の引く物をきっかけに、話してみたらどうだ?』


 巧まずして、蘇るのはちょっとした一言。今からこの約束を破ってしまうため、彼には申し訳ない事をしたと思っている。 那覇士さんとは昨日以来、会っていない。彼女の傷口に触れたことに謝ろうとしたけど、話す前に何かが私の邪魔をした。


 長山陽葵。


 西岡くんや桜莉が警戒しろと伝えてくるのに相反して、客観的に見てフレンドリーな人に思えた。皆んなから好かれている雰囲気を醸し出しているのがその証拠、この人とも楽しく振る舞える心からそう感じた。


 でも、朝に私を見つめる瞳で攻撃的な人だと瞬時に分かった。

 那覇士さんと私しか居ないあの空間の実態をいったいなぜ、長山さんが知ってるかは理解できないけど、あの時の私に向ける視線は迷いなく中学の頃に似ている。気をつければどうにか……と信じていたけど、今はひたすらに恐ろしい。


 怖い、どこか得体の知れない狂気をあの人から察せる。彼女と同じになった時点でクラスの人と仲良くするなんて夢物語だったかもしれない。


 これは逃げだ。現状、振る舞うどころか会話すら儘ならない学校の生徒から退散するなど足一歩踏み出せていない。


 でもそれよりも大きく、もういいと、断言する自分がいた。


 誰かから嫌われるぐらいなら、私なんて見ないでほしい。みんなと話せないならそれでいいんだ。


―――ああ、私って思ってる以上にショックだったんだ。


 中学生の時は失敗した。当時はそれに耐えきれなくて諦めて、高校に入って一年間何も踏み出さないまま流れて、それで2年になって西岡くんと出会って、初めて変わろうと決意して、でも何故か拒まれた。


 最後の綱が切れて、私はダメになったのかもしれない。にじり寄って侵食するように、心が暗転していく。


またチャンスが来るなら別だがそれはないだろう 。


―――変えたいと思わなくていい、だって今のままで十分だから。……ならその今危うくなったら?ー昔に戻る。戻れないなら、全てを捨ててやり直せばいい。


 

 そう、終わらせればいい。


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