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第十九話 不善

 今日も今日とて鍵がないため、なくなく体育館履きを代わりに教室のドアに手を掛けた。


 作戦を要綱しておく。ざっくりとした順序は昨日立てた作戦の通りだが、先陣を切ってするのは那覇士さんとの関係修復だ。


『那覇士さんは、家で娯楽を禁止されてる。その真相に至らなかったことをまずは謝る。交流を深めていくのはそれからよ』

『具体的にどう言えばいいの?』

『軽ーく言うのはあんまりだから。そうね、アタシが放課後に呼び止めるからその時に言うのがベストかしら』

『わかった、やってみる』


―――朝の段階で那覇市さんの気分が沈んでいたらなるべく平常に戻してほしい、って言われても気まずさMAXだし、どうするべきか。


 篠崎さんばかり構うわけにもいかない。こちとら男子のクラス関係に指先ひとつ浸かってないので、そろそろ顔を出さないといけない。中谷が捌いてくれてると言っても限度があるはずだ。


 兎にも角にも悩むのは後、教室の雰囲気で決めよう、とドアをオープンさせれば……信じられない光景が広がっていた。


「那覇士さん、よかったら本を貸し出すけど、好きなジャンルは何や」

「好きな、ジャンル……?」

「正直に言いなさいな。お嬢が困ってるでしょ」

「そうよ、言わない方が迷惑だとどうして気づかないの、ねえお嬢」


 俺の後ろから来たナガッチが何故俺より早く来てるか、そんな些細な事情はどうでもよかった。問題なのは、どうして那覇士とナガッチが一緒に話しているのか、だ。


「そんな顔をするってことはお前も知らねえんだな、樹」

「中谷……」


 肩に手を当てた中谷に俺は視線を合わせる。柄にもなく疑問を乏しているあたりコイツも知らないのだろう。前触れもないことがらのなのか、教室中が驚愕するムードに飲まれ誰もが彼女達に注目していた。


「いつからだ、あれ」

「俺が教室に入った時は既に。けど那覇士さん側が遠慮しがちなのか、なんか噛み合ってないんだよ」

「取り巻きが邪魔。あいつら名前なんだっけ?」

「親分に付き従う子分共の名前を把握してるわけないだろ」


 テヘヘ、舌を出す中谷。右手で頭を叩くと、痛ーいとわざとらしく振る舞いながら俺に体を近づける。


「篠崎さんは今どこにいる?」

「今日は雲斎と同伴して来るって言ってたけど。って、何故篠崎さん…?」

「いいから。お前は今日一日、篠崎さんに近づくな。でないとえらくまずいことが起こる」

「まずいこと…? それって一体」


 ガラガラ!


 閉められたドアが開かれ、困惑した雰囲気に入り込むように二人組が入室する。

俺と中谷が会話を中断し、音に視線を持っていくと、最近見知った女子の顔が二人分確認できた。


「篠崎さん…」

「ばか⁉︎ お前!!」


 口を開いた瞬刻、中谷が先刻の的を向いて顔色を悪くするが、いちいち耳に入らなかった。

 それよりも、雲斎と共に登校できた彼女に興味が向ける。


「なにはともあれ、まずは第一歩だな」

「うん」


 心地良さそうに口元を緩ませる彼女からポカポカしたオーラが吹き出した。それを受け止めつつ彼女に近づく俺は次の刹那、横から何者かに引っ張られた。


「いで⁉︎ 雲斎なにするんー」

「あなた、アホなの!! 三人で決めた約束を半日で忘れるなんてどこまで頭がポンコツにできてるのかしら!!」


 小声だが迫力ある言動に怖気付いて、思わず昨日の記憶を振り返る。


『学校で俺が篠崎さんと仲良くするのは禁止と言われ、挙げ句の果てに俺は後方支援という立場に成り下がる』


 酷くやばい予感がするのだが、自分は何やら作戦を根本から覆しかねないことをたった今、行わなかったか。


「………………挨拶程度ならいいだろ」

「んなわけないでしょ!!」


 ガツンっと勢いよくヘッドバンドを食らわせられ涙目になる俺を、篠崎さんが介護しようとしたところで……「貴方も同罪」と彼女も小突かれてしまった。


「……痛い」

「痛くなかったらやってないわよ」


 そう言って溜息を吐く彼女に、俺は当初から感じてた疑惑を鋭く叩きつけた。


「そもそもどうして話しちゃいけないんだ。俺が誰と話してようが篠崎さんの交友関係は全く変化しないと思うけど」

「それが変化するから言ってるのよ」

 

 これからのように。


 そう、小声で言い終わると同時に近づいてくる数人の足音。目線を転向すると感心の核が詰め寄って来ていた。


「そんな低音で話さなくてもいいよな、雲斎」

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