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第十五話 暗躍

「これで、最後ですね」

「すみません、付き合わせてしまって」


 とある空き教室、そこで二人の教師が教科書を運んでいた。段ボールに敷き詰められた教材を運ぶのは普段なら事務員の仕事なのだが、余りにも数が多すぎるため手の空いた教師陣も賛同しているという事情だった。


「しかし、教頭先生が手伝ってくれるとは意外でした」

「どんな立場になろうとも私も先生ですから」

「さすがです」


 言葉がやたら丁寧な男の教師は感嘆し、相手に敬意を払う。「おべっかはやめてください」と、言いつつもどこか照れ臭そうな教頭がいた。


 「話は変わるんですが、教頭先生。毎年学会に発表している論文についてなんですが」

 「はい、何でしょう?」

 「噂で聞いた程度なんですが……何やらとんでもない隠された秘密事項を見つけた…とか」

 「耳が早いですね!」


 驚きと喜びの混ざった表情をする教頭。頭を捻りながらうーんと声を抉り出すと、パッと目を見開いて男の教師に向き合った。


 「質問をさせていただきます。時に貴方は、二十年前の惨劇について覚えてますか?」

 「二十年前の惨劇…?」

 「四月十日、この日を境に一時的に世界の秩序は乱れました。カリフォルニア、ブエノスアイエスでは死傷者共に百万人を超え、日本でも千人以上が亡くなったあの年。その犯人は未だに分かっていません」


 三十年以上倒壊しなかった建造物が崩壊した、電車が路線を外れ住宅街に突っ込んだ、包丁専門店の刃物が突然浮き上がり歩行者に刺しに向かった、など。


 絶対に説明つかないような事件が1日に大量に発生、その日以降も右肩上がりで事件は起こり続け、警察や自衛隊は為す術がなかったという。


「だけどその一ヶ月後、ぴたりと止んで説明のつかない事件は起こらなくなりました。落ち着いた頃に警察が各地を捜査しても何も出てこない。どれにも証拠が一切なくまるで神の未技、或いは人智を超えた力…そうとしか判断できなかったんです」

「……それが論文とどう関係してくるんですか?」


 不審極まりない目つきを指す男の教師に教頭は、言葉を付け加えた。


「あの事件以降、警察の部署に『世の中の説明のできない事件を担当する部署』ができたの、覚えていますか?」

「あー、数年間話題になってましたね。部署が設置されただけだろ、とかいつまで経ってもあの大量殺人の事件が明かされない、とか。警察にインタビューしても『よく分からない』って返答された、おまけに所属警官も入り方も不明で結局要らなかったのではなんて、囁かれてますけど」


 言葉を交わす男の教師に教頭は少しだけ胸の内の秘密を語る。


「五年かけて色んなツテを探って隠された部署について調べ上げました。ここだけの話、『特殊能力取り締まり執行部署』と呼ばれる部署があって、所属してる人間もいるらしいんです」

「! なんと!?」


 頭が飛び跳ねるような衝撃、「言って大丈夫なんですか!?」と教頭を心配する男に、彼女は笑いながら告げる。


「大丈夫ですよ、論文で発表する内容ですから。これ以上は推測の域を出ないから何も言えませんけど。それにどうような手段を要いて事件を対処、捜査するか分かっていません」

「でも…」

「こう見えても常勤の生徒持ちの教師を私はかなり信頼してるんです。良かったら後日学会の開催場所を教えます」


 そろそろ時間ですね、と言って教頭はそっと空き教室を後にする。数日後には警察にマスコミが飛び交い、トップも重い腰を上げざる負えなくなるかもしれない。暴かれた新たな真実に。


 


 コンコン!





「はい、どうぞ」


 教頭が去って数刻後、ドアが開かれ男の教師が目にしたのは一人の生徒だった。

 その途端、彼の表情は一変する。


「おや、貴方でしたか」

「……」

「約束のものは、用意してありますよ。使いどころ…? 貴方に任せますよ。私の目的はある人物の確認ですから」

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