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第十二話 どうして…

「屋上は……ここか?」


三階を通り抜けると外が浮き彫りになったドアを見つけた。施錠されてない扉を開き、大してスペースのない屋上に到達する。四面を金網に囲まれた弓道部の練習場を抜けると一人の学生が立っていた。


 雲斎桜莉。 ナガッチに付属する生徒A、Bみたいな感じでしか関わったこともないから呼ばれた理由が想像つかない。中谷からの話だと彼女は進級する直前に何か起きたようだが、詳しくは知らない。

 接点という接点もないから相談事ではないのは確か。


 では、一体なんであろうか?


 篠崎さんという意義深い事案を背負い込んでる背景、間断なく連絡取れる場所は作っておきたい。差しずめ、急ピッチで済ませ図書館傍に待機しておくのが凡庸だろう。

俺の風柄に確証が持てたのか、待っていたであろう雲斎は俺の足取りがストップすると、体を正面に対峙させた。


「ごめんなさいね、放課後にまで呼び出して」

「…もしかして、掃除が終わるまで待っててくれたのか?」


 あまりにも中途半端な時間なため、そう聞くとすぐに首を縦に振る。人を気遣う心積もりができるこういった女子が人気を集めるのだと遠い目で見た。雲斎は込み入った噂を聞かないが、中谷近辺に探りを入れてもらえばザクザク出てきそうだ。


「疲れてそうなのに、ごめんなさい」

「あ、いやいや全然そんなことないから。ちょっとばかし気分が沈んだけど……再発させれば良いだけだし。…気分については雲斎関係ないから」

「ほんとうに………?」


 他人と自分の恋愛事情を比べてがっかりしたなんて口が裂けても言えない。不安そうに見てくる彼女の視線を外すべく俺は本題を叩きつけた。


「本当本当。それより、屋上まで呼び出した理由を教えてくれ」


 その途端、彼女はビクッと口元を結ばせる。綺麗に肩まで伸びた髪とは真逆、自信なさげに取り下ろす瞳は悩ましげに潤ませて怯えた小リスのよう。


―――俺に聞きたいことでもあるのか?


 呼び出しといてのこの態度が妙に気になった。聞きたいことがある素振りを見せながらこちらの佇まいを懸念する様子。

静寂の風が吹き両者の髪がふんわり乱れる。


 数刻と時間が経ち、屋上に風と過ぎ去って雲斎の言葉がそこに流れた。


「篠崎さんとは、いつ知り合ったの?」

「は……?」


―――ちょ、ちょ、ちょっと待て。なんでそのこと知ってんだ?


 理解するのに十秒ほど時間がかかった。頭が?マークになる俺に、彼女はどんどんと詰め寄ってくる。


「いいから答えて。篠崎さんとは、どこで知り合ったの?」

「え、教室だけど、あ、でもそのあと保健室で話したからそこでかな」

「保健室⁉︎」


 クラっと後ろに倒れそうになる雲斎。

大丈夫か?っと手を差し伸べそうとした瞬間、ぐっと足を堪えながらなんとか直立し、キリッとした表情でこちらに目線を上げてきた。


―――すげえ根性。


「そ、それでどうなったの?」

「いや別にどうも、ただあいつのちょっとした約束を引き受けてことになってて」

「約束⁉︎」


 またも倒れそうになるも、今度は頭を押さえながら足を開きバランスを保とうとする。リアクション芸人目指してんのこの女子。動作の激しい彼女に意外性も感じるが表にださず問いかけに、答えを続行させた。


「今日図書室で話したわよね、もしかしてそのことについてなの?」

「え、なんで知ってんの?」

「それは……近くを通りかかって」

「あんな所を?」

「そ、そんなことより答えてよ。図書館での約束についてなの?」

「あー、それは、まあ…どうなのかな」


 前触れのない豹変に怖気ついて回答していた。が、その事だけはどうしても言いたくない。篠崎さんからのお願いを赤の他人に言うつもりはこれっぽっちも存在する気配はなかった。

でもそのことに、雲斎が気づくわけない。それっきり黙りきった俺に彼女は段々と感情を積み上げていきついに爆発しようとした手前、本日二回目の携帯のバイブ音がポケットの内側で鳴り響いた。


「悪い、ちょっと待て」


  彼女の返答を待たずしてスマホを取り出して、………俺はほとほと参る。


『ごめん、助けて』


 今回はしっかり篠崎さんだった。


「雲斎すまん、急用が入った」

「え、ちょっと待って」


 悪いが一ミリたりとも待つ気はなかった。全身を九十度回転させ、雲斎を背後に勢いよく走り出す。軽々と弓道部の練習場を抜けると、屋上扉を見えたので一瞬で開き音を立てながら階段を飛び跳ねた。


―――教室は三階……さて、どうなっているのやら。


 階層を通り過ぎ自分の教室へと進める樹、後ろから誰か追いかけてきてる予感はするが今は後回し。何人かの見知らぬ人間とすれ違いながら悠々と二年B組に迫っていき、到着する頃にはぜいぜいと息を吐いて疲れを実感していた。


「突然、どうした、のよ?」

「はは、結局ついて来たのかよ」


 汗だくだくで若干遅れてやってきた雲斎の行動に苦笑いをしながら、俺は教室のドアを開け放つ。助けてっという内容から察するに篠崎さんなりに困った事が起きたと予想できる。


 が、俺の耳元に間髪もなく飛び込んできた言葉は考えもしないものだった。


「あなたなんて嫌い!」


 ヒステリック女優みたく叫んだ那覇士香織の顔つきは、とても悲痛なものに映る。癇癪を起こした子供、そういった様子が一番しっくりきた。


―――思ったより手厳しそうなんだが。


 此処に入室して一言二言声をかければ帰る、なんて甘い思考が谷の向こうまで消え去ってしまった。何が原因か分からないがどう捉えても今日話したばかりの高校生の会話とは思えない。


 一泊過ぎて入ってきた雲斎も目を見開く出来事を信頼しきれていない態度だった。しかし、そんな俺たちを鑑みず二人の掛け合いは続行される。


「そんな事、私はただ…」

「うるさい」


 篠崎さんの佇まいはどうしてこんな事が偶発したのか謎、というセリフがぴったりだった。仲違いが到来したわけではない、単純に噛み合ってないと捉えるのが自然なのかもしれない。


「もう帰る!」

「あ、」


 呆然と立ちすくむ篠崎さんに彼女は憤りを表しながら鞄を持つ、そして足音を響かせながら俺と雲斎さんの前を通って教室を出た。


 ガラガラ! バタン!

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