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クソゲーを作ろう〜王道のRPG編〜

作者:

 桃城高校のある一室。

 それは突然だった。


「ふふっ……はーっはっはっ!」


 校舎に響きそうなほどの高々な笑い声。

 しかし、他の生徒たちは気にした様子はなく、それが当たり前の日常の如くいつも通りに過ごす、

 いや、もしかしたら関わりたくないからなのかもしれない。

 その声をたどれば必ず、ある部活へとたどり着くからだ。

 その部活というのが『ゲームクリエイト部』。

 総勢五名という、部としてぎりぎりの人数ながら、在籍する生徒はプロ顔負けの実力者ばかり……なのだが。


「諸君! とうとう完成したぞ!」


 部員達にそう宣言するセミボブの彼女こそ、部長兼ディレクター兼プログラマーの高峰たかみね紗香さやか


「やっとね。長かったわ……」


 感慨深そうにしている金髪ツインテールの女子生徒は、副部長兼CGクリエイターである矢島やじまユイカ。


「当分……寝てたい」


 机に突っ伏し、長い黒髪を広げながら疲れ切った顔をしている眼鏡の女子生徒がシナリオライターの楠木くすのきしずか


「でも完成したなら、当然あれをしないと」


 サウンドクリエイターの乙坂おとさかかえでがヘッドフォンを外しながらそう言うと、待ってましたと言わんばかりに紗香は声を張り上げた。


「待たせてすまない。あとはデバッカーである君の仕事だ……おいおい、そんなにはしゃがなくてもゲームは逃げやしないぞ? 本当に君はゲームが好きだな」

「ゲームじゃなくて俺が逃げてぇんだよ! 早くこの手錠を外せー!!」


 両手両足を縛られた不愛想な男子生徒。

 ゲームクリエイト部最後の一人、鈴本すずもと雄吉ゆうきちだ。


「何を言ってるんだ! 雄吉はデバッカーなんだからチェックしてもらわないと」

「俺はこの部に入った覚えないんですけど!」

「え? そうだったか?」

「入学早々に紗香に拉致られて、それからずっと放課後拉致られてるだけだからな!」

「まぁまぁ、年上のかわいい幼馴染のちょっと強引な誘いと思って」

「睡眠薬飲まされたり、変な薬嗅がされたり、手錠をはめられたりすることをちょっとの範囲で済ませられるか!!」

「ねぇ、まだ説得終わらないの?」


 楓と静と一緒になって着々とゲームの準備を始めるユイカはため息交じりに尋ねる。


「今度という今度は絶対にやりませんからね!」

「あーはいはい。頑張ってねー。ちゃんとゲーム起動させておくから」


 先輩であるユイカにもかみつくも、本人は特に気にした様子もなく平坦な声で返事をする。


「雄吉、なぜそんなにも拒む? 私達はただゲームの感想が欲しいだけなんだ。お前もゲームは好きだろ?」

「一日中ぶっとうしでやるほど好きだけどな……お前が作るゲーム全部クソゲーだろ!」


 ゲームクリエイト部。

 実力者ぞろいのこの部に、なぜ人が集まらないのか。

 その原因というのが、オブラートに包めば個性的なゲーム。剥がせばクソゲーを無理やりやらされることだ。

 現に、去年はゲームクリエイト部に入部するものは少なくなかったが、あまりのクソゲーっぷりにやめていく部員が続出。

 辛抱強く残っていた部員も、クソゲーのデバックを無理やりやらされたために退部。

 今年の新入生に希望を持っていたが、すでに噂は広まっており、結局捕まえられたのが紗香の一つ下で幼馴染でもある雄吉だけだった。


「この部が何て呼ばれてるか知ってるか?」

「やりがいがあってアットホームな部」

「ブラックって意味では間違ってないけどな」

「じゃあ何て言われてるんだ? 思いつかないな」

「クソゲ部だよ! クソゲー量産してるの学校中に知られてるんだよ! そんな部活が作ったゲームをやりたいと思わねぇ! だから俺を開放しやがれ!」 


 暴れだす雄吉に紗香はため息を漏らす。


「仕方ないな」


 制服の胸ポケットに指を滑り込ませると一枚の紙を取り出す。

 そしてその紙を雄吉の前でひらひらさせる。


「な、なんだそれ?」


 最初は警戒していた諭吉だったが、揺れる紙から反対面がチラリと見えた瞬間、目を見開いた。

 一瞬であったが、雄吉の目は確かにとらえた。

 豊な肌色の双丘により生まれた一筋の谷間を。


「最近自撮りにハマっていてな。興が乗って、すこーしばかり過激なものを取ってしまったんだが、もし雄吉がデバックをしてくれるのであれば、譲ってもいいんだがなー」


 そう言いながら腕を組んで自慢の双丘を艶めかしく突き出す。

 だが雄吉はそれを鼻で笑った。


「お前の体なんか小さいときに飽きれるほど生で見たんだよ。今さら紗香の体に、しかもただの写真ごときで俺が揺れるわけないだろ……まぁ、幼馴染の写真が万が一にも他者に回る恐れがあるし、ここは幼馴染の俺が預かっておいてやるからこの手錠を外してくれお願いします」

「よし、契約成立だ」


 手錠を外し、雄吉をパソコンの前に座らせる。


「そんで、今日は何のゲームだ?」

「今日は王道のRPGだ! しかもファンタジー!」

「確かに王道っちゃ王道だな」


 早速ゲーム画面を開く。

 デスクトップ画面にデカデカと『ファイヤードラゴンファンタジー』のタイトルと美麗な城と広大な草原が映し出される。


「相変わらず綺麗ですね。流石ユイカ先輩」

「……急に告白されても体の準備が」

「グラフィックのことで━━え、体って何ですか?」

「いいからさっさと始めないか」


 紗香に催促され、渋々プレイ。


〈ここは聖地《ロマーリア》。《マナシス》が豊富なこの地域では《イノス》が当たり前のように使われ、平和な時を過ごしていた。しかし、魔王《みるく》が傘下の軍隊である《めちょぽなす》を率いてきたのだ。勇者である勇者《太郎》はイノスの技術で作り出した《せいけんせいばー》だけを頼りに魔王に立ち向かう〉


「早速ツッコミどころ満載のクソゲー臭プンプンじゃねぇかこのゲーム!」

「な、なんだと!? プレイしてもいないのになぜそんなことがわかる!」

「最初の方はちゃんとした名称なのに、なんで魔王軍はちょっとファンシーな名前なんだよ! しかも急に勇者が日本人だし! 大事な武器の名前がひらがなのせいでおもちゃ感が半端ないんだよ!」


 クソゲーポイント1・ネーミングセンスが絶望的


「確かに配慮が欠けていた。まぁ、そこは飛ばしてさっさと操作に移れ」

「たく、なんで俺がこんなゲームを」


 ぶつぶつ文句を垂れ流しながら、次へと進む。

 ムービーが終わり、いよいよ主人公を操作が可能となる。


 勇者太郎『今日は旅立ちの日だ。この《せいけんせいばー》で必ず魔王《みるく》を倒し、世界に平和を取り戻してみせる』


「おいちょっと待て」

「なんだ?」

「なんだこれは」


 画面の主人公を指差す。

 が、紗香はピンと来ない様子。


「主人公だが?」

「なんで全裸なんだよ!」


 クソゲーポイント2・主人公全裸


「あぁ、これは仕様でな。装備に合わせて見た目が変わるんだよ」

「だったら、なんでこいつ裸なんだよ」

「ストーリーに書いてあっただろ? せいけんせいばーだけを頼りに戦うって」

「あれ言葉通りの意味なのかよ! しかもせいけんせいばーグラフィック木の棒だし!」

「だが作中最強武器だぞ?」

「嘘だろ!?」


 クソゲーポイント3・最強武器の見た目が木の棒


「なんだよこの主人公。今のところただの変態じゃねぇか」


 嫌々主人公を操作し、城へと入る。


 王『よくぞまいった勇者よ! 今日はそなたが旅立つ日であったな。餞別に加護を与えよう』


〈旅立つあなたに王様が祈りを捧げる〉

〈バッドステータス・呪い〉


「なんでだよ!」

「おっと、どうやらバグがあったようだ。本来ならステータスアップするはずなんだが」

「ちなみにこの呪いってなんだ?」

「装備の着脱不能」

「おい! こいつ裸で旅立つことが確定したんだが!?」

「ちなみに後で覚える呪文で回復は出来る」

「それを覚えるまでは辛抱しろってか?」

「いや、MAXレベルになったとしても、MPが足りないから使うことすらできない」

「縛りプレイ確定かよ!」


 クソゲーポイント4・バグのせいで裸縛り決定。


「ほら、さっさと進めろ」

「わかってるよ。あ、その前に、壺とか割ってアイテム出てこないかな」


 おもむろに近く壺を割る主人公。


〈勇者太郎は兵士に取り囲まれた〉


『貴様! 何をしている! 勇者だからと言って犯罪が許されると思うな! こいつを牢屋に連れて行け!』


〈GAME OVER〉


「……なんか捕まったんだけど」

「そりゃ、他人の物を壊したり盗んだりしたら捕まるでしょ」

「現実基準なら全裸も捕まるべきだと思うんだが」


 クソゲーポイント5・犯罪は現実基準(ただし一部を除く)


「もうアイテムはいい! さっさと魔王倒してやる!」


 苛立ちながら城を後にし、外へと出る。

 場内から、広大な大陸の絵が現れ、いかにこの世界が広いことが嫌でもわからされる。


「おいおい、こんなクソゲーにこんな広いマップ作るなよ。んで、魔王城はどこだ?」

「そこから真っ直ぐ行ってすぐのとこだ」

「ご近所じゃねぇか! だったらこの広大なマップの意味はなんだよ!」

「見栄だ!」


 クソゲーポイント6・広大なマップのくせして、ラスダンが徒歩十歩


「クッソ! とりあえずレベル上げだ!」


 ぐるぐるとその場でキャラを走り回せると、スライムとエンカウント。

 すぐに攻撃を選択する。


〈勇者太郎のターン。攻撃……スライムAに11560のダメージ〉

〈スライムAは倒れた〉


「最強武器なだけに、流石にスライムは一撃か。木の棒だけど」


〈スライムBのターン〉


 スライムB『ス……スラ男おおぉぉぉぉ!! 死ぬな! 死ぬんじゃないスラ男! 貴様! 何故殺した!! こいつにはな……嫁さんと、昨日生まれたばかりの子供がいたんだぞ。家族と静かに暮らそうと、今まで人間に危害を加えずに、ひっそり暮らしてたのに……それを貴様は!! 殺すだけじゃ飽き足らず、大切な金まで巻き上げるなんて。心はないのか!! ゆるさねぇ……殺してやる!!』


〈攻撃……しかし、外れてしまった〉

〈勇者太郎のターン。攻撃……スライムBに会心の一撃。25856のダメージ〉


『ス……スラ男……す、すまない……俺が、力無いばかりに』

〈勇者太郎は経験値と金貨を得た〉


「やったな。初戦は圧勝だな」

「これほどまでに喜べない初戦はありませんけど」


 クソゲーポイント7・勝利時に後ろ髪を引かれる。


 この後もレベル上げのために魔物達を倒し、その度に罪を背負っていく主人公。

 ある程度上げたところで、体力を回復するために宿屋へ向かう。


「ここでいいのか?」

「うん。それで、宿主に話かけて必要な金額を払えば全快する」


 言われるがままに話しかける。


 宿主『泊まっていくかい?』


〈はい〉←

〈いいえ〉


 軽快なBGMと共に暗転し、再び画面は宿の中を映し出す。


 宿主『……昨晩はお楽しみでしたね』


〈宿主は頬を赤らめた〉


「何があったんだよ!!」

「そりゃ、お楽しみはお楽しみだよ」

「お楽しみって誰とだよ! 勇者一人だけだっただろ!」

「雰囲気で察しろ。宿屋のおっさんとだ」

「分かってたけどわかりたくなかったんだよ! 誰だよこれ考えた奴」


 自信たっぷりに静はサムズアップする。


「ベーコンレタスは世界を救う」

「そんなんで世界が救われてたまりますか!」


 もういい。さっさと終わらせてしまおう。

 マウスを強く握りしめ、そう決心した雄吉は魔王城へと向かう。

 道中の雑魚的を薙ぎ払い、さまざまなツッコミ要素を辛抱強く素通りし、魔王の玉座までようやくたどり着いた。


「や、やっとここまできた。これで解放される」


 魔王みるく『あ、やっときたんだ勇者。でもここに来るまでに息切らすなんて、人間ってやっぱ下等生物だよねー。ザーコ、ザーコ。弱々勇者ー。か弱い女の子にこんだけ言われて何も言い返せないおじさん勇者』


「……なんで、魔王がこんななの?」

「「最近のニーズに合わせてみました」」


 静とユイカが自信に満ちた表情でサムズアップした。


 良ゲーポイント1・魔王が生意気メス○キ


 兎にも角にも、この魔王さえ倒せば、雄吉にとって悪夢の時間から解放される。

 いよいよ勇者太郎と魔王みるくの最後の戦いの火蓋が切られた。


『い、痛い! や、やめてよ! もう許して!』


 ダメージが入るたびに泣き叫ぶ魔王みるく。

 だがちゃっかりとえげつないダメージを勇者に与えていた。

 一心一体の攻防の戦いだったが、どんなことにも終わりは訪れる。


『はぁ、はぁ、も、もうやめて』


「魔王のHPはもう少ない。次で決まるな」

「よっしゃ! これで地獄から解放される!」


 心の叫びを口から漏らしながら、最後の一撃を繰り出す。


〈魔法使い太郎のターン。攻撃……しかし、魔王みるくには効かない〉


「…………は?」


 素っ頓狂な声を上げ、再び攻撃を仕掛けるも全ての攻撃が効かなくなっていた。

 結局、魔王の攻撃に耐えられず、ゲームオーバーとなった。


「なんだよこれ! 最後攻撃効かなかったんだけど! クソゲーどころか無理ゲーじゃねぇか!」

「あー、それは時間切れだったからだ」

「は? 時間切れってなんだよ」

「途中から勇者の職業が魔法使いに変わってただろ。魔王は勇者の攻撃しか通じないから」

「あー、あれ誤字じゃなかったのか……いや、それが時間切れとなんの関係があるんだよ」

「いやほら、三十歳まで童貞を守り抜いた男は魔法使いになるらしいからな。ちょうどあの瞬間、勇者は三十歳になったんだ」

「そんなことで職業を変えんなよ! 変な設定組み込みやがっ━━」


 ここで雄吉はハッとする。


「勇者の方がネコかよ!!」


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