レッドと戦闘員Bがこたつで会話する話
急な寒さに見舞われたその日、この部屋でもついに、こたつやストーブといった暖房器具が解禁されたのです。
「う~、さむさむ!」
体を縮込ませ、自分の腕をさすりながら、1人の男性がその部屋に入ってきました。
その部屋では、導入された暖房器具の恩恵に与る人が何人もいます。
「あ、お疲れ様です!」
「おう。お疲れ~」
部屋のこたつに入っていた、声からして女性だと思われる者が男性に声を掛け、男性はこたつに駆け込みながら、それに応えます。
なぜ声じゃないと女性だと判別できないか。
それはこの女性が全身タイツのような黒い衣装を着ていて、顔も同じ生地の黒マスクで覆われているからなのです。
「あ~!
生き返る~!
温かさが身に染みる~!」
男性はこたつの温かさを感じて幸せそうな顔を浮かべました。
「急に寒くなってきましたね~」
「ほんとほんと。
勘弁してほしいよ」
「あ、レッドさん。
お茶どうぞ」
「おっ!
サンキュー!
Bは気が利くなぁ」
レッドと呼ばれた男性は、Bと呼ばれた女性からお茶を受け取り、ずずずと音を立ててそれを飲みました。
「あ~、温け~。
こんな日は味噌汁飲みたくなるなぁ」
「いいですね、今晩は和食にしましょう」
「おっ!いいなっ!」
Bの提案に、レッドは大喜びです。
「あ、今って、誰が出てるんですか?」
「ん?
ああ、今は俺以外の、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの4人が、幹部のガレイザと戦ってるよ。
俺だけ抜けることにブーブー言ってたけど、俺が博士から新必殺技用の武器をもらって助けに行くことになってるから仕方ないよな~」
「それなのに、ここに寄ってて大丈夫なんですか?」
「ああ。
実は、博士からはもう新しい武器を受け取ってるんだ」
「ええっ!?
それじゃあ、抜ける必要なんてなかったんじゃあ!」
「いやいや、一呼吸入れないと、ガレイザは幹部だから、あっさり倒すと悪魔将軍に復活させられるからな。
ガレイザのヤツも、そろそろ家族と田舎に引っ込みたいって言ってたから、俺がいなくてピンチになった所で、新しい武器を持ってきた俺に倒される展開なら、悪魔将軍のジジイも納得するだろうからよ。
そしたら、アイツは田舎で家族と米でも作るんだってよ」
レッドは再びずずずとお茶をすすります。
「なるほど。
いいですね、そういうの。
憧れます。
もはや、世界征服やら世界平和やらに燃えているのは将軍と博士ぐらいですからね」
「ああ、ほんと困るよ。
俺たちがこうして自作自演してることは秘密で、良い感じに対決してないと怒るしさ~。
マジ勘弁。
まあ、給料はいいからやるけどさ」
「ふふふふ」
その部屋の中では、Bと同じ格好をした戦闘員がゲームをしたりミカンを食べたり猫と戯れたりしながら、思い思いに過ごしています。
彼らは毎回、ボスクラスの者たちに召喚されるため、ここで寛ぎながら待機しているのです。
そして、レッドたちヒーローも、秘密基地で博士の話に付き合うのが面倒なため、たびたびここでご相伴に与っているのである。
「あ、B!
そういやおまえ、ブルーと婚約したんだってな!
おめでとう!」
「あ!ありがとうございます~!」
レッドに言われて、Bは照れくさそうにしています。
「でも、誰から聞いたんですか?
内緒にしてたから、そんなに何人も知らないと思うんですが」
「ああ、ブルーがイエローに話してるのをピンクが聞いててな。
あとは蜘蛛の子を散らすように広まっていったよ。
あ、博士にはもちろん言ってないから安心しな」
「ああ、なるほど。
ピンクさんは仕方ないですね」
「でも、ブルーの元カノのイエローが同じ戦隊にいるとか複雑じゃないのか?」
「全然大丈夫ですよ。
イエローさんは、今はグリーンさんと結婚されてますし、それ以上に、私もイエローさんと仲良しですから!」
「それ、ブルーは気が気じゃないんじゃ……」
「まあ、たまにイエローさんから聞いた恥ずかしいカコバナをブルーさんに話して遊んでますぅ」
「……女はたくましいな」
「そういうレッドさんも、もうすぐピンクさんとご結婚されるんでしょう?」
「ピンクのやつ、まだそっち側の奴らには内緒って言ったのに」
「ふふふ。
ピンクさん、かわいいし面白いですよね」
「ああ、まあな」
2人が恋バナに興じていると、部屋のドアを開けて、戦闘員の1人が入ってきます。
「レッドさん!
そろそろ出番ですよ!」
「え~!
早くね?」
戦闘員に呼ばれますが、レッドはこたつから出る気配がありません。
「いや、もうネタ切れで、ガレイザさんと4人さんではこれ以上、戦いを続けられないみたいですよ!」
「え~、だるっ」
レッドはこたつの魔力にすっかりやられてしまいました。
「ほらほら、レッドさん。
またピンクさんに怒られますよ」
「そうですよ!
それに将軍や博士に変に思われたら終わりなんですから!」
「ったく、しょーがねーなー」
2人に急かされ、レッドはようやく重い腰を上げ、こたつから出ました。
「あ~、さむさむ!」
「ふふふ。
温かいご飯作っておきますから、終わったらガレイザさんとそのご家族も誘って、皆で帰ってきてくださいね」
「お~!頼むぜ!
んじゃ、いってくるぜ!」
「いってらっしゃい」
そうして、レッドは仲間の待つ戦いの場へと戻っていきました。
5人の戦いはまだ続くのです。
世界に平和を取り戻す、その日まで……。