大介の秘密
横書きだとむつかしい。
ブログで書いているとブログでの見え方で書くけれど、書いた時と表示画面も違ってあらまぁ。
仕事のメールと同じですね。京極夏彦さんが段組みにこだわる理由もわからないでもないと思った今日この頃。
物語という作り物が世界を支配し始めている。
存在しないものを存在させて、世界を変えてゆく。
認識などという後付けの優位性を高めてゆく愚かな人間たち。
あるべく生の喜びや命の重量を軽んずる。
機能しない現実とはなんだ。
それならば、根源的な、実感的な再現性にこそ魂はともる。
肉体にこそ魂はともる。
我々は守り抜かなければならない。
言葉や概念を取り払った真実の姿を死守するのだ。
偶像崇拝を阻止しなければならない。
現実を我々の手に取り戻すのだ。
―ある男の手記より―
まただ。
9人目である。
被害者の傾向は必ずしも一致するわけではない。
「例の教団という噂。あながち…」
声をかけられて大介は首を振る。
「まずは、カウント自体を疑う必要がある。それぞれにつながりがあるのか。万が一あるとして、我々が知らない間にそんな大規模な組織が存在しているのか。本当にその規模の組織ならば、ここにいる誰かは間接的にでもすでに接触しているはずだ。」
そうだ。もしかすると。
大介は蓋をする。
「とりあえず回収しますか」
「そうだな。上への報告は私がまとめておく。回収がすんだら帰ってくれていい」
わかりましたと言って作業を始める部下を眺める。
9人…なのか。
被害者の背景など知らない。
調べているから知っていること。
調べていないから知らないこと。
調べていても分からないこと。
調べていなくてもわかっていること。
「知る必要などないのか」
大介は独り言ちる。
状況を把握することは大切だ。実態を解明することは必要だ。
動機を確認することは不可欠だ。
何かであることを意味付けしなければならない。
しかし。
把握するために把握すること。
理解するために理解すること。
それらに意味はあるだろうか。
捨象にこそ存在する現実がフィクションとしての現実を分かりづらくするという矛盾。
いや、矛盾ではないのか。
大介は一人笑う。
不謹慎だとも思う。それでも。
解明とは…
9人の死を突き止めるという行為を人為的に成し遂げるには、不可解な現実に着地するよりも真実ではないかもしれないが納得できる何かが必要になる。
その真実は、すでに現実ではないと大介は思う。
それでも。
必要とされるのならば提示しないわけにはいかない。
提示する義務がある。提示する仕事である。
「警察も楽じゃないな」
独り言が多くなった。38歳の夏。何か大きな事件が始まっている予感がする。
どうでもいいとも思う。私情は挟まない。仕事なのだから。
ただ、その大きな事件という舞台に自分がどうやって関わることになるのか。
「大介さんが笑うなんて珍しいな」
誤字脱字構成を多少犠牲にしてでも完成を目指す。