下
本棚を見ると趣味とかコンプレックスがわかりますね。
ジェリスと良二の強さは圧倒的だった。
圧倒的多数の集団を圧倒した。
「ジェリス」
良二の問いかけにうなずく。
「挙動が極めて近い」
おそらくクローンだ。
スピーカーで拡張された声が聞こえる。
「君たちが殺しているのは私のクローン。あぁなんと残酷なんだ」
クローンたちが動きを止める。
ジェリスと良二も動きを止める。
「たくさん殺しておいて、一方的な虐殺は嫌か」
ジェリスに一人切りかかる。反射で首を折る。
「あぁ、反撃に罪悪感はないか」
銃を構えるクローンに良二が切りかかる。
「弟よ、いわばお前と同じ血が流れているんだぞ」
良二は叫ぶ。
「こいつらの力では我々を制圧はできない。無駄なことはよせ」
おいおいとスピーカーが告げる。
「こいつらの命が無駄だというのか。よしてくれよ。何かがあるということは何かがあるんだよ」
ジェリスはスピーカーの先に目線を向ける。おそらくあそこに。
「制圧するかい。ジェリス君。君は我々の血が流れていない。別系統の試験官ベイビーだ。教団側にいたクローンの誰かが生命の樹の実を使ったんだね」
マルキンスが警戒しろという指示を出す。
「どれだけ精度の高いクローンを生み出しても同じにはならないんだよ」
良二は人数を把握する。10・15・21。目視できる人数は残り21人だ。
「君たちは何を恐れている」
「ジェリスは専攻突入して良一の確保を。ただ、あそこにいるとは思えない。良二は同時にこちらの防衛にいったん下がれ。どちらにせよ君たちの能力は単騎で押し負けない。孤立は危険だがこれだけ開けているなら」
マルキンスはそこで止まる。
なぜここを選んだ。単騎での彼我戦力差など明白だったはず。奇襲でもなく、このタイミング。この場所。何が狙いだ。
「我々は力では勝てん。だが、勝てばいい。この意味が分かるか」
ジェリスがスピーカ―の備えられた車両を占拠する。
「X1」
一瞬止まる。ジェリスにつけられたカメラの映像を確認しマルキンスは唸る。
「行き着く先は同じか」
良二に警戒を強めるよう指示を出す。
「違うよ。私は些末なクローンを繰り返すうちに本質にたどり着いた。人間とは何か。精神とは何か」
ジェリスが膝をついた。
「どうした。ジェリス」
ジェリスが立ち上がる。
「生命の樹の実を手に入れたよ形勢逆転だ」
「なんだ、ジェリスを洗脳しているのか」
「違うね。体をいただいた」
「脳によって人格や記憶があると思ったら大間違いだよ。それによって近しい再現はできるが、本質は波だ」
「AIですらないというのか」
「電気信号と波。そこにあり、そこにない。固着されない不安定なもの、そのものが人間の人格であり記憶だ」
「人格を量子化したというのか」
「今はまだいろいろな条件が必要なのだけれど、ここにおびき寄せる事ができてよかった。よかったけれどこれだけではないよ」
21人のクローンがヘルメットを外す。
そして、一人一人しゃべり始めた。
「我々はもともと、残りわずかな自然な人間たちを守り管理する使命も帯びていた。支配ともいえるが」
「その中で得た気づきがある」
「我々管理側ですらクローン一人一人にわずかな誤差がある」
「その誤差など本来些末なものであるが、それでも都度都度内乱反乱がおこった」
「無意味な闘争。無意味な戦闘」
「違うということは争うべきということだ」
「争うということはやがて滅ぶということだ」
「では、理解しあうには」
「ほぼ同じ遺伝子の人間が争うのならば」
「もはや同じしかない」
「しかし、遺伝子は別で構わない」
「共通認識だ」
「使命を同じくし」
「情報を同じくし」
「価値を同じくし」
「感情を同じくし」
「体験を同じくする」
「理想を同じくし」
「その同じのためにここが動く」
「共同精神ネットワークの構築」
「我々が檜山良一だ」
一人一人が別個体であり、檜山良一本人であるという事。
「身体性を得た共同集団の戦闘力でもって君たちを制圧する。良二、旧世代のベストマンであるお前にもはや勝ち目はない」
マルキンスは良二に撤退を命じる。
「良博士、X1まずいよ。ミルコにすべてをかけるしか」
良二が車両に戻る。
「予想外だな。ジェリス君を取られてしまった」
X1は笑っている。
「目には目を歯には歯を。分解再構成でヘッケルバイン。日本まで飛ぶ」
マルキンスもさすがに驚きを隠せない様子だ。
「俺がやるのか」
ミルコの声と同時に扉が開かれる。
「時間はない。機能しない現実など必要ない。お前の意思で機能させるんだ。真実を。現実を」
こうして物語は始まった。
ありがとうございます。




