脱出、グランソルム!
行商のライセンスを手に入れた、ここまでは首尾よく行っている。
まあ計画なんて最初からなかったが。
グランソルムにも行商協会はあるが、不正に手に入れたライセンスで、真っ先に訪れるつもりはない。
バカをやって、不正なライセンスだと見抜かれてはいけないからだ。
まずは小さな行商協会に立ち寄り、行商としての動き方を理解しなければならない。
そこでシェリーと話し合い、いったんこの街から出ることになった。
そうとなると、ある問題が発生する。
「どうやって、門番を突破するか……」
指名手配されていないとはいえ、俺はお尋ね者。
むしろ、指名手配していないからこそ、姫を攫った人間が街の外に出ないよう、門番に警戒させているはずだ。
門を正面突破しようにも、ここは仮にも王都。
簡単に破壊できるような門ではないだろう。
しかも街の周囲は、魔物対策の為に、壁に囲まれている。
出口は門しかない。
では空から行くのはどうかというと、それもできない。
この街はドーム状のバリアが張られ、空からの侵入者を拒んでいるからだ。
そのバリアの出力は、ドラゴン五体を押し返すほどだと言われている。
いくら元トップクラスパーティの一員とはいえ、それほどのバリアを突破することはできない。
露店の並ぶ通りを歩きながら、俺達は頭を巡らせる。
「なあシェリー。
王族専用の脱出経路とかないのか?
街の外まで続いている奴」
「あるにはありますが……押さえられているでしょうね。
そこを含めても、街の出口は数える程しかありません。
この街を閉鎖するのに、それほど苦労はしないでしょう」
予想通りの返答に、俺は「だよな」と返した。
考えても考えても浮かばない案に、ため息を吐こうとした瞬間、シェリーが声を上げた。
「一つだけ、ありました!」
俺は路地裏に入り、シェリーの言葉を聞くことにした。
人混みは声をかき消してくれるのはありがたいのだが、落ち着いて話を聞けない。
「んで、その出入口ってのは?」
できる限り声量を絞って、シェリーへと問う。
「川です」
「川ぁ!?」
「そうです。
この街には一本の川が流れ込んでいます。
川には一応水門がありますが、下流に当たる『ヤハテ水門』には、格子しかありません。
ここならバリアも張られていませんし、脱出も容易だと思われます
幸い、水深も深いです」
そこまで聞けば、なんとなく話が読めてくる。
水深が深いということは、それだけ深く潜れる……つまりバレにくいのだ。
格子しかないということは、俺の聖剣があれば、簡単に突破できる。
びしょ濡れになるという欠点も、俺のバリアの魔法があればないも同然だ。
「もしかしたら、厳重に警備されているかもしれませんが……それでも、門を正面突破するよりは容易に通り抜けられるはずです」
「……そうかもな」
仮に突破しようとしているのを見つかったとしても、格子を切り裂いて外に出るだけだ。
硬い門を突破することに比べれば、造作もない。
「わかった、その手で行こう。
んで、その水門ってのは……」
「南東です。
案内しますね」
シェリーの案内でヤハテ水門に着いた俺達は、建物の陰から様子を見る。
銃で武装した騎士団と思われる人が約十人、水門を警備していた。
うち三人が、魔法を使って川の中を観察していた。
これでは遠くから川に入って、水の中を進んだとしてもバレてしまう。
だが、警備しているのはたかが十人。
たったそれだけの人数で、元トップクラスパーティの俺を止められると思っているのだろうか?
「やはり警備されていますね。
ここは出直して――」
「いや、突破する!」
俺はシェリーの手を掴み、水門へと走る。
異変に気が付いた騎士団員が、俺に銃を向けた。
だが、そんなものが効くほどやわではない!
「バリア!」
俺は、シェリーと俺を包むようにバリアを張り、走り続ける。
騎士団員は俺達に発砲しようとはしない。
シェリーに当たるのを恐れているのだろう。
その一瞬の迷いが、勝負を決するとも知らず。
「飛び込むぞ!」
「はい!」
俺はシェリーの腰を肩に抱え、川の中に飛び込む。
バリアが水の侵入を防いでくれるおかげで、水中でも地上と同じように行動できる。
そして、聖剣を抜刀。
格子を切り裂き、街の外へと駆け出た。
しばらく川の中を走ってから、空へと跳躍。
川の中から飛び出た俺は、バリアを解き、シェリーを地面へと下ろした。
「ここまでくれば大丈夫か……?」
シェリーが俺の声に答えようとしたその瞬間――。
「バインド!」
何者かの声が、響き渡った。
突如として現れた鉄の鎖が、シェリーを捕縛する。
まさか、街の外にいる奴らが本命……?
「お待ちしておりました、姫様。
無礼をお許しください。
さあ、城へと戻りましょう」
俺達の前に現れたのは、他の騎士団員よりも装飾の多い服に身を包んだ男。
シェリーの知り合いか?
「カノウ……!」
「シェリー、知っているのか?」
「私の近衛兵の一人です」
カノウと呼ばれた男は、俺達の下に歩み寄ってくる。
その後ろには、十人ほどの騎士団員たちが隊列を組んでいる。
俺達の後ろは川、背水の陣とはこういうことか。
だが俺達は、川の中を難なく移動できる……ここは逃げるのが得策か?
「困りますねぇ。
元トップクラスパーティだか何だか知りませんが、姫様を攫うなどと……。
これは、格の違いを見せつけてあげなくてはなりませんね……。
姫様、少々お待ちを。
今からこの悪漢を追い払ってみせましょう」
カノウはそんなことをのたまう。
……格の違い……?
そうか、この男は気付いていないのか。
俺との実力の差を。
ならば教えてやらなくてはならない。
どうやっても、俺にはかなわないということを!
「マッスル・ブースト」
俺はシェリーに、筋力強化の魔法をかけた。
あんな鎖、それだけで十分だ。
「シェリー、鎖を引きちぎってみろ。
今のお前ならできる」
「え……? 鎖を……?」
シェリーはぐっと体に力を入れる。
その瞬間、バキッという音と共に、シェリーの体を縛っていた鎖が、地面へと落ちた。
「な、何!?
私の捕縛魔法を!?」
カノウは驚愕を顔に浮かべる。
これが、俺の力だ。
「お前たちは知らないかもしれないけどな。
俺は元、最強のバッファーだ!」
俺は聖剣を抜き放ち、上段に構える。
その俺の姿を見て、カノウは一歩後ずさった。
「教えてやるよ、最強の力をな!」
俺はカノウへと駆け出す。
自分にバフを掛ければ、もっとスピードを出せるが、そんなものは必要ない。
「くっ!
ファイアバレット!」
カノウは苦し紛れの魔法を唱えるが、そんな豆鉄砲、俺には効かない。
俺はカノウのファイアバレットを切り裂き、奴の首元に向けて聖剣を振る。
「ひぃ!」
カノウがそんな情けない声を上げた瞬間、俺は体の動きを止めた。
奴の首元に聖剣が突き付けられる。
切ろうと思えば、すぐにでも切れる体勢で。
「それが近衛兵の出す声か?
そんなんだから、姫様が攫われた……違うか?」
「ぐっ!
貴様ぁ!」
カノウの形相がこわばった瞬間、俺は聖剣の柄で奴の頭を殴りつけた。
「カノウ様!」
騎士団員たちが、どよっと声を上げる。
カノウはふらふらとすると、そのまま地面に倒れ伏した。
足元に転がったカノウを尻目に、俺は聖剣を騎士団員たちに向ける。
「さて、お前らはどうする。
死にたい奴からかかってこい。
これは脅しでも何でもないぞ」
騎士団員たちは銃を俺達に向けることも、駆け寄ってくる様子もない。
奴らが追ってこないなら、俺も奴らに用はない。
「国王に伝えておけ、俺達の邪魔をする奴に、命の保証はない……ってな」
俺は聖剣を納め、騎士団員たちに背を向けた。
「シェリー、大丈夫か?」
「は、はい……」
俺はシェリーを引き起こし、次の目的地へと歩き出した。
きっとこれからも、追手が止むことはないだろう。
それならば、その度に追い返すだけだ。




