逆襲
俺は構えた聖剣に、力を込める。
ムラン達は噴水を背に、敵意を込めた視線で、俺を睨みつけた。
「そういや、こうして力比べをすることはなかったな」
ムランが、ポツリと呟く。
「そうだな。
どっちが勝つかは、火を見るよりも明らかだったからな」
ムランの言葉に、俺も静かに呟いた。
その声は、ムランに届いたのだろうか?
それとも噴水の音に殺されたか……?
そんなこと、どうだっていい。
ムランの敵意がこぼれる程肥大化した瞬間、噴水の水が空中で静止した。
世界が静止したのだ。
俺の脳内のアドレナリンが、世界が止まったかのように俺に錯覚させる。
そして、俺達の戦いの火ぶたが切られたのだった。
ムランは俺へと駆け出す。
だが、そのスピードは決して速くない。
警戒すべきは、アタッカーであるトラとタラ!
ムランの背に隠れていた二人は、葉を散らすように左右に散らばる。
三方向からの攻撃に惑わされぬよう、俺は冷静に周囲を見やった。
まず攻撃してくるのはタラ。
人一人程の大きさのハンマーを軽々と持ち上げ、俺に向かって振り下ろした。
俺はその一撃を寸でのところで躱す。
体を擦過するハンマーから意識を離し、次の一撃に備えた。
次は、ムランか!
ムランは走る勢いをそのままに、大剣の切先を俺に向けた。
そして勢いを殺すことなく突っ込んでくる。
明確な敵意を持った一撃。
これをいなしたとしても、トラのメイスが俺を捉えるだろう。
だったら……!
「ラピッドブースト!」
俺は速度強化を入れ、ハンマーを振り下ろしたタラを蹴り飛ばす。
その反動で高く飛び上がり、ムランを飛び越え、噴水の縁に着地した。
「随分と逃げ足が速いな。
兎にでもなったつもりか?」
ムランは石畳を砕きながらブレーキを踏み、俺へと向き直る。
少し高いところから見下ろしたことで、三人の顔がよく見えた。
「さすがに三対一じゃ、お前らも退屈かと思ってね!」
俺は右手に力を込め、こう唱えた。
「スレイブウォーター!」
刹那、散っていた噴水が空中で静止する。
先程の錯覚とは違う、物理法則にあらがい、本当に止まったんだ。
その水は次々に俺の背後に集まり、天へと延びる一本の棒へと姿を変えた。
そして、その棒は表面をうねらせながら、巨大な剣を形作る。
スレイブウォーター。
水属性の上級魔法。
水属性の神髄は、水の召喚にある。
裏を返せば、最初から大量の水があれば、それほど技量がなくとも、上級魔法が使えるということだ。
「これだけあれば、ハンデは十分だろ?」
俺は左腕を天へとかざし、その動きを水の剣と同期させる。
そして、ムラン達を薙ぎ払った。
一拍おいて振るわれた巨大な水の剣が、ムラン達を襲う。
トラとタラは跳躍してそれを回避、ムランは大剣の腹で受け止めた。
「そうだったな……お前は昔から、小賢しい手を使うやつだった」
剣の裏から、ムラン呟きが聞こえた。
小賢しい? こいつらが俺にやったことに比べらば、なんてことはないだろ!
「そうだよ!
使えるものはなんだって、使ってやる!」
俺は左腕を強く握りしめ、拳を天高くつき上げる。
連動した水の剣が、天を突き刺した。
「これから好きなだけ、反省しろ!」
そして俺は、ムラン達の理不尽な行いへの怒りと共に、その拳を振り下ろした。
ムランは無防備にも、その剣を――。
「エンチャント・デリート!」
いや、ムランはその叫びと共に、右手を突き上げ、振り下ろされた水の剣を殴りつけた。
その瞬間、剣を構成していた水は霧散。
小さな小さな雨となり、辺り一面に降り注いだ。
エンチャント・デリート。
タンクが覚えることのできる上級魔法だ。
本来は武器に付加されたエンチャントを強制排除するものだが、それを水の刃の破壊に転用したか。
なんて感心していると、
「いまだ!」
というムランの声に、ハッとする。
渾身の攻撃とはつまり、それだけ大きな隙を晒すということ。
Sランクパーティであるこいつらが、それを逃すわけがない。
俺の視界に躍り出たのは、トラとタラ。
それぞれの武器を振り上げ、俺へと同時攻撃を仕掛けてきた。
どうする……アタッカーとして活躍している二人だ、属性体制は持っているだろう。
魔法を唱えたところで、猫騙しにしか……!
その時、俺はふと思い出した。
暗殺ギルドのボスとやり合った時のことを。
あの時俺は……確か……!
やってみるか!
「エンチャント・サンダー!」
俺はトラとタラの武器に、電気属性を付与した。
そしてそれを操り……。
「なに!?」
がちぃん!
二人の武器は鈍い金属音を鳴らし、くっついてしまった。
空中で体の自由を奪われたトラとタラが、そのまま地面に転がる。
「な、何が起こった……!?」
目を丸くしたムランが、転がるトラ達と俺を交互に見る。
「……俺も、この旅でいろいろと経験してきたってことだ」
トラとタラは強力な磁力でくっついた二つの武器に、指を挟まれてしまって動けないようだ。
「さて、これで一騎打ちだな、ムラン」
「へ、まさか……こうも俺達を出し抜くとはな……」
ムランは動けないトラ達を尻目に、大剣を構える。
一人になったタンクなど、取るに足らない。
「もうどっちが勝つのか、わかってるんじゃないか?」
俺はムランにそう投げかける。
だが、ムランはそれもわかっているようだった。
だが、まだ認めていない。
「ふん?
俺達が負けるって言いたいのか?
そんなこと、あり得ないんだよ!」
ムラン俺へと駆け出す。
重い大剣と、身軽な俺。
どちらが勝つかなんて、わかっていることだ。
「オールブースト!」
俺は全能力強化を掛け、ムランに向かって駆けだした。
その勝負は一瞬。
ムランが振り下ろした一撃を潜り、ムランの喉元に向けて、剣を突き出す。
勝負あった!
「『アイアン・スキン!』」
ガキンと、俺の剣がムランの喉元で止められる。
止めたのは他の何でもない、ムランの首だ。
そうか……まだこれがあった……。
本来アイアンスキンは、タンクのための魔法。
つまり、ムランが覚えていないわけがない!
「どうだ?
俺は絶対に負けん。
お前にはな」
ムランはにやりと口角を上げ、もう一度剣を振り上げる。
だが俺は知っている。
アイアンスキンを、砕く方法を!
「スレイブ・ウォーター!」
俺は地面に吸い込まれた水を集め、もう一度剣を形成する。
「エンチャント・アイス!」
そしてその剣に氷属性をエンチャント、氷の大剣を作り出す。
「それがどうした!」
ムランはそれを気にしない様子で、剣を一気に振り下ろした。
ムランは今や鉄壁、この勝負、俺の負けに見える。
「見て、わからないか!」
俺はムランの一撃を潜り、奴の顔に、氷の大剣の一撃をかました。
その衝撃で、奴の体がふわりと宙に浮く。
「こういうことだよ!」
そして俺は、浮いたムランの体を、真上に叩き上げた。
「な!?」
氷の剣の一撃に、言葉すら潰されるムラン。
奴は一度大きく大空を舞い……。
ドォン。
噴水の真上に、墜落した。
いくら鋼鉄の皮膚を得ても、内臓のダメージまでは消せないはずだ。
「み、皆さん!」
奴らの姫が、ムランに駆け寄る。
ここで奴が首を挟んでくるってことは、ムラン達の負けを認めたってことだろう。
でも、まだ終わりじゃない。
ムラン達には、詫びてもらわなきゃいけない。
あの時の、俺の屈辱の分まで……!




