聖剣の使い手〈インフェクター〉
俺は聖剣を構えて、ドラゴンへと駆け出した。
今の聖剣の出力なら、あのバリアも破れる!
「くらえぇぇぇ!」
俺はドラゴンの喉の下に潜り込み、顎の下を突き刺さんと聖剣を突き出した。
その一撃は、バリアによって阻まれる。
だが、ここで止まる出力じゃない!
「いっけぇええええええええええ!」
聖剣はバリアをわずかに切り裂く。
だが、相手もバリアの出力を上げ、応戦する。
まだだ、まだ出力は出る!
聖剣の脈動は早まり、その輝きは強くなる。
「終わりだ!」
俺は自身の力のすべてを、バリアに注ぎ込んだ。
次の瞬間――!
ズドンと、聖剣はドラゴンの喉元を突き刺した。
俺はぐりぐりとドラゴンの喉をえぐり、聖剣を抜き放った。
死が溢れていた地下室に、新たな血痕が増えた。
だが、ドラゴンから助けを求めるうめき声はまだ聞こえる。
ドラゴン本体は死んだが「みんな」はまだ生きているということか。
「ば、バカな……!
僕のドラゴンが……!」
館の主はがくがくと足を震わせ、腰を抜かした。
これで奴とスノウのバリアは剥がれた筈だ。
「アン、スノウを頼む」
「わ、わかった」
俺は館の主に歩み寄り、聖剣を突き付けた。
「おいお前、よくもうちの大切な仲間に手を出してくれたな!
洗いざらい話してもらうからな!」
男は震えながらも「自警団が黙ってないぞ」なんて抜かす。
俺は呆れながらも、奴の喉元に聖剣を近づけた。
「まず一つ、あの神鳥に何をした?」
「だ、誰がしゃべるか――!」
男は反抗の様子を見せるが、俺が剣を振り上げると「ひい」と身を震わせた。
「ま、まだ何もしてない!
呪術がエンチャントされた枷を付けただけだ!」
「ほう……」
まずは、よかった……。
スノウの身に何かあってはと、ずっと心配だったのだ。
俺はひとまず、胸をなでおろした。
「それじゃあ二つ!
聖剣について何か知っているのか?」
こいつは先ほど「インフェクター」とか言っていた。
確実に聖剣について何かを知っていると見ていい。
そして聖剣は、シェリーに何か関係がある。
つまり、この男が知っていることが、シェリーの謎につながるのだ。
「ぼ、僕が知っているのは……。
聖剣には守り手である『キャリアー』と、使い手『インフェクター』がいるということだけだ。
それ以外は何も知らない!」
この男が聖剣の謎を隠して、何か得があるとは思えない。
守り手の「キャリアー」と使い手の「インフェクター」……。
きっと聖剣の力を引き出したシェリーが「インフェクター」なのだろう。
「わかった。
それじゃあ三つ目だ。
お前はここで何をしていた?
なぜドラゴンなんかがここにいる?」
これは完全に、好奇心からの質問だった。
おそらくキマイラ・ドラゴンは、こいつがドラゴンをもとに作ったものだ。
そんなものを作って、何になる?
こいつは、何を目的に動いているんのか気になったのだ。
男は俯いていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……認めてもらうのさ」
「誰に?」
だが、男の口から飛び出た名前は、想像を絶するものだった。
「魔王様にだよ」
「な!? 魔王!?」
魔王、最前線のその向こう、魔王城に住むとされる魔族の王。
冒険者ギルドとは、本来魔王を倒す者たちを集めた組織なのだ。
その魔王が、どうしてここで出てくる?
「僕は天才錬金術師だ!
魔王様に認めていただき、魔王軍に入る!」
なるほど、多額の税金を納め、街の後ろ盾を得て、やっていたことは、魔王に利する行為だったというわけだ。
変な話だ。
だがこれで、この男の目的は聞けた。
人さらいの現行犯を掴んだ。
もうこの街に、この男の居場所はない。
男は「だから、君達に戦って確かめて欲しかったんだ――」と続け、何かを取り出そうとした。
させるか!
俺はすぐさま聖剣を振り、男の腕を切り落とそうとする。
だが――。
パアン!
その時、男の左腕が……はじけとんだ。
「なに!?」
その衝撃に、思わず聖剣の手を止めてしまった。
その一瞬が命取りだった。
「僕の作品の強さをね!」
その瞬間、男の全身がはじけ、心臓だけが露わになった。
なにが……何が起こっている……。
シェリーはその光景に、口元を押さえていた。
奴の心臓は高速移動した……ドラゴンに向かって。
そしてドラゴンの体に触れ、溶けて吸収されていく。
まさか、ドラゴンと一つになる気か!?
奴の心臓がドラゴンの体に触れ、ドラゴンは少しずつ体を起こす。
「させるか!」
すかさず聖剣を手に、ドラゴンへと駆け出すが、奴の咆哮を聞いてしまい、体が再び動かなくなった。
なぜだ、まだ聖剣の鼓動は聞こえるのに、なぜ動けない!
「ははは!
これで僕も『みんな』と一つだ!」
男の声がドラゴンから聞こえた。
これがこいつの切り札ってことか。
「シェリー……手を……!」
体が動かないなら、シェリーを頼るしかない。
思った通り、シェリーは呪術を内包する声など、物ともしていなかった。
高い呪術耐性、これも「インフェクター」としての力……?
「は、はい!」
シェリーは、パタパタと歩み寄ってくる。
「させるか!」
ドラゴンはすかさず俺達を攻撃しようとした。
――が、途端に動きを止めてしまった。
なんだ?
「う……ぐ……くる……しい……!」
ドラゴンの様子がおかしい、苦しがっている?
「た、助け……助けてくれ!」
その声と共に、ドラゴンの咆哮が響き渡る。
奴は我を忘れて、呻いていた。
地面や壁に体を叩きつけながら。
奴の声全てに呪術が付与されている。
声を聞いてしまった者は、奴にトドメを刺してやれない。
だが、俺にならできる。
「フェル、どうすれば……!」
シェリーに触れてもらったことで、聖剣の鼓動が強まった。
俺も動けるようになったが、シェリーに触れてもらっている間だけのようだ。
「お前はインフェクターっていう特別な人間らしい、聖剣の出力を上げられないか?」
「聖剣の……出力ですか?
やってみます!」
シェリーは目をつぶり、集中しているようだった。
その間にも、ドラゴンは地下室を破壊し続けている。
「フェル!
ここが崩れようとしてる!
早く奴をどうにかしないと、私たち全員ぺちゃんこだよ!」
ドラゴンの声を聞き、動けなくなったアンが叫ぶ。
「わかってる!
でも、あいつを倒してからだ!」
その時だった、シェリーが何かに気が付いたように、目を開いたのは。
「聖剣が……呼んでいる……!」
「何かできそうか!?」
「できます!」
そしてシェリーは聖剣を上に向け、力を注いだ。
刹那――。
巨大な光刃が、聖剣から出現。
地下室の天井をも突き抜けて、はるか上えと伸び始めた。
「これは……!」
「フェル、今です!」
俺はシェリーの声に頷き、光刃を放つ聖剣を――。
一気に振り下ろした。
ズバァン!
その一撃はドラゴンを容易く切り裂き、両断した。
体の中央から綺麗に分割されたドラゴンが、力なく倒れた。
「ああ……ありがとう……」
そんな声を、残して。
――――――――――
「う~ん。なんて報告すべきか……」
帰り道、スノウを背負いながら、俺は頭を悩ませていた。
相手が極悪人で、しかも最後は自分でドラゴンの一部となったとはいえ、俺達がやったことは人殺し。
いらない疑惑が掛けられる前に、自分から話せることは話した方がいいということになった。
高額納税者がいなくなったとなれば、必ず自警団は動くし、黙っていては俺達の方が悪者にされてしまう。
「正直に話すしかないでしょ」
アンはこういうが、そもそも俺達が館に潜入したのが犯罪なんだ。
俺達が捕まってしまっても、文句は言えない。
その時だった、力なくおぶられていたスノウが、ピクリと動いたのだ。
「お、お父さん……」
「お、スノウ、目を覚ましたか?」
「うん……」
未だ衰弱が見えるが、呪術の影響だろう。
すぐに良くなる。
「お父さん……絶対来てくれるって……信じてたよ……」
スノウはなかなか嬉しいことを言ってくれた。
最初はうるさい鳥だなんて思っていたが、いつの間にか自分の娘のような存在になっている。
「ああ、俺は仲間は見捨てないからな」
「私、仲間じゃヤダ……お父さんの娘がいい……」
「俺まだ結婚すらしてないんだけど……」
すると、シェリーの笑い声が、静かな通りを彩った。
不意に、日差しが俺達にさした。
どうやら、朝が来たようだ。
一仕事終えての夜明けは、すがすがしい気分だった。
そんな様子をアンは大切そうに見ていた。
俺と同じ気持ちなんだろう。
その一方で、アンはどこか寂しそうだった。




