1頁
今回の死について説明します。そう口にした彼女の言葉に理解を示すことができないままでいると、彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「死後いきなりのお話で戸惑っていると思いますが、そのまま聞いていただければと思います」
「戸惑っているというよりも、この世界は本当に死後の世界なのですか?」
死後の世界は無だと思った。まさか見たことのある自分の部屋にいるとは思わなかった。
「わかりました。疑問に思うことが多いようですのでまずそちらから解決していきましょう」
僕の心を読んだかのようにタナトスはそう言った。
「まず一ついいですか?」
僕の言葉にタナトスは「どうぞ」と答えた。
「ここは本当に死後の世界なのですか?」
「はいそうです。この世界は人間たちの言う死後の世界というものです」
「なぜ僕は自分の死体を前にしているのでしょうか?」
「生まれたときになぜ目の前に母がいることに疑問を思いますか?」
質問をした僕にに対して質問で返される。その返答は僕の疑問に答えを与えてくれた。
母親から生まれ自分の体を眺めて死んでいく。それならばこの風景は何なのだろう。
「おおよそ戸惑いだらけでしょうが、これからは私が説明させていただきます。鳳桃李さま。この世界は現実と死後の狭間でございます。これからあなたは誰かに干渉を受けることもなく誰かに影響を与えることもできません。そしてあなた方の言う概念であるところの輪廻転生と呼ばれるものも訪れません」
誰にも会わず、そして文明としてただあるだけのこの建築物やモノたちをただ眺めるだけ、それが僕に与えられた唯一の権利なのだと彼女の説明を受けて理解した。
僕だけしかいないこの世界で僕はどう生きるべきなのか。
死んでいるのに生きることを考えるっていうのも笑えるけれども、それはタナトスから聞いてみよう。
「死の神が僕の前に現れたということは僕にはなにかしなければならない事でもあるのかい?」
「安心してください。特段何かあなたにしてほしいことはありません。死後の世界楽しんでいただければと思います」
にっこりと笑っているけれども、これほど無機質で怖い笑顔を僕は今まで目にしたことがなかった。