第1章 第8話
「奇術師?」
それが俺の印象だった。まるでピエロのような出で立ちで、胡散臭さはNTといい勝負だが、油断ならない雰囲気を感じる。ピエロのような男は、僕の不安を感じ取ったのか満足そうな笑みを浮かべる。
「僕の名前はオペラ。この組織は確かにレジスタンスだけど、別に人々の敵ってわけじゃない。むしろ国が隠している重大な機密を暴き出して、奪われた幸せを返してあげようとしてるから、英雄と言ったほうが正しいかもね。」
笑みを浮かべたままオペラは説明を続ける。
「その幸せっていうのが、さっき言ってた“LOVE”なんですか?」
おどけた少女のように口元に指を当てながら、レモンが口を挟む。
「そう。“LOVE”っていうのは、過去に当たり前に存在していたとされる幸せの象徴。それが何かはまだよく分かっていないけど、どうやら昔は、男と女は特別な感情を抱き合う関係だったらしいね。」
「特別な感情?それって1/3の純情な感情とか?むぐっ…!」
言い終わったあとで一足遅かったが、俺は黙っていろとの意味を込めて、なぜか入り口付近に置いてあったキンタマのオブジェをユウの口に突っ込んだ。
「んぐ、んぐぐ」
片方のタマしか入らなかったが、それでも口いっぱいになっているユウは、なおも喋ろうとを試みている。
「そのキンタマを口に含む行為も、ヒントらしいんだけどね。」
ユウの姿を冷静に見ながら、オペラが付け加える。
「昔の人って、一体何を考えて生きていたのかしら…」
アンネは落胆しながら訝しげな表情を浮かべている。
「まぁでも、僕たちが調べたところによると、一番のヒントはキミが持っているその“ロマンティック・ジャスミン”こと“パンティ”と呼ばれる一品らしいんだよね。」
改めて、ポケットの中の布切れを取り出してみる。白い三角状の布で、辺となる3ヶ所に穴が空いたよく分からない物体。これを盗み出したことで、じいちゃんは消された?普通ならば、こんな布1枚盗み出して消されたなんて、とても信じられない話だろう。だが、なぜだろう。そんな感覚になれない俺がいる。むしろ、これによって何かが大きく変わるような、そんなドキドキ感に支配されている。
「キミさ…もしかして、それがどんなアイテムなのか知ってたりするわけ?」
NTが突然発した声に、俺は大げさにビクッとしてしまう。さっきまで薄笑いを浮かべて軽薄な態度を続けていたNTだが、その表情は一転して険しいものになっていた。NTの言葉に、俺は必要以上におどおどしながら答える。
「正確には分かりません。でもこれを見ていると、何かわき上がってくるものがあるというか。ただの布じゃないなってぐらいなんですけど・・・」
「ヨシタカ」
横から声を掛けてきたのはアンネだった。
「一度あなたの思うようにしてみて。初めてそれを譲り受けたとき、部室で無意識にやったように。多分それが正しいと思う。」
「部室の…」
言葉を発すると同時に、先日の記憶が蘇る。それと同時に、この布の使い道が手に取るように分かった。
「ヨシタカ、お前大丈夫か」
心配そうな表情のゴンザエモンの横を抜け、俺はレモンの前に立った。
「え、何?」
レモンの表情に不安の色が宿る。俺は構うことなく、レモンが履いている藍色のズボンのベルトを外し、足首まで一気にずり下ろした。続いて中に履いているトランクスも下ろす。
「ちょちょちょ、何!?何!?」
あっという間に下半身を丸出しにされたレモンは、混乱しながら手をバタバタさせている。そうか、足首が動かせないのか。
それはいけない。
それでは、パンティ(、、、、)を(、)穿けない(、、、、)。
俺は靴を脱がして、足首からズボンとトランクスを外す。理由も聞かされず、いきなり下半身を丸出しにされたレモンは、これから何をされるのかが分からず、ただただ怯えている。まぁ見てろって。これから驚くようなことが起きるから。俺は“パンティ”と呼ばれた布を広げると、二等辺三角形の先端が下に来るように向けた。そして、レモンの肉々しい太ももの片方を持ち上げる。
「おわっ、ととと!」
片足立ちをする形となったレモンは、バランスを崩し慌てて俺の肩へと手を置く。俺はレモンの右足の先端に近い部分を持つと、上の穴から足を入れて辺の片方の穴へと通す。そして今度は左足。昂ぶる気持ちに手が震えてくる。これで人間に隠された神秘が1つ、そのヴェールを脱ぐのだ。俺は舌なめずりをしながら、レモンの左足を“パンティ”の中へと入れる。太ももを滑らせるように、それを履かせる要領で股間付近までずり上げる。
「パンツァーフォー!!」
突然NTが奇声を上げて立ち上がった。目を大きく見開き、ビシッと両手でこちらを指差して狂乱した笑みを浮かべていた。ハットをかぶっているせいか、イカれたガンマンのように見えなくもない。一瞬そっちに目を奪われたが、改めて全員がレモンの股間を見る。そこには、“パンティ”と呼ばれる布が、しっかりとフィットして収まっていた。
レモンの顔を見る。心なしか、少し頬を赤らめているかのように見える。
「レモン、どうだ?気分は」
俺の問いにレモンは、少し目を反らしながら、
「うぅ、分かんない。分かんないけど、なんか恥ずかしいっていうか、変な感じなんだよね。」
言いながら、レモンは一層うつむきがちな顔で俺を視界から追い出そうとする。
「!!」
そのとき、俺の鼓動が、一瞬飛び上がりそうなくらい高鳴るのを感じた。なんだろう?これは、今まで見てきたレモンではない。人間の持つ魅力を超越した、神聖な何かを感じる。
そんなレモンに対して、俺は怖いくらいに自分のなすべきことが的確に分かっていた。