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第1章 第4話

 「はぁ、はぁ、はぁ」

逃げながら後ろを振り返ると、黒いスーツの男たちが表情一つ変えずに追い掛けてくるのが見えた。訓練された兵隊か何かのように、見事なまでに揃った足並みで足音を立てている。

「なんで俺が逃げなければいけないんだ」

雰囲気的に、危機的状況だから逃げている。が、逃げなければいけない理由が俺には分からなかった。正直俺は、運動が得意ではない。どちらかというと、というかかなり苦手だ。体系的にもひょろっとしており、草野マサムネのような体型なだと、人からはよく言われる。ゆえに奴らに捕まったら、DEAD END。理由はどうあれ、奴らの望むままのことを、なすがままにされてしまうだろう。そして、それは決して穏やかなことではないのは確かだった。

「せめて、ベン・ジョンソンが飲んでいたアレがあれば・・・」

そうぼやいてみるも、ないものは仕方がない。俺は、無我夢中で走り続けるしかなかった。


 路地を右に曲がり、学校方面へと向かう。単純に見知った道だったからだ。どちらに逃げるか選択している余裕がなかったため、とりあえず行き慣れた道を行く。あと50メートルほど走れば、比較的道幅の広い道路に出る。そこまで行けば、偶然出くわした誰かが通報してくれるかもしれない。


 あと10メートル・・・5メートル。よし出た!


 俺は転がり込むように、その身を大通りへと滑り込ませた。しかし、なぜかそこには誰もいない。この時間ならばいつも歩いているはずの買い物帰りの主婦も、クレープ食べながら鬼ヤバみな話に花を咲かせる頭の弱そうなJKも、欲しくもないラッセンの絵をしきりに勧めてくるキャッチの女も誰もいない。そこはまるで別世界のように、人の気配が消えてしまっていた。まるで俺が奴らに捕まるのが、決められた定めであるかのような展開だ。


 「定めじゃ」のセリフとともに画面いっぱいに迫ってくる某四魔貴族を思い浮かべながら、俺は裏路地に入り、道沿いに進んでいく。来た方角と逆の方向に進んでいることに気がついたが、そんなことはひとまずどうでもいい。もう体力の限界だ。脇腹の辺りが締め付けられるように苦しくなってきている。

「とにかく一旦隠れて休まないと」

この辺りの路地は俺も滅多に通らないから、ゆっくり呼吸を整えられる場所があるかどうかは定かではない。そうであることを願うしかなかった。


 そのとき、前方に影が動いた。

「!!」

ちょうど裏路地から、さっきの路地へ戻るポイントに2人。もしかして、待ち伏せされていた?挟み撃ちか!こうなったらひとまず事情を話して、可能な限り奴らの要求を飲むしかないだろう。そうだ、そもそも奴らがなぜ俺を追い掛けているのかも分からないのだ。もしかしたら、PENICILLINのCDを貸してほしいとか、そんな話かもしれない。もういいや、捕まってもいいからとりあえず休みたい。そう思ったときだった。


 「こっち!早く!」

突如、走る俺の右方向から強く俺を引っ張る力があった。俺はその力に委ねるまま、民家の裏口の扉の中へと吸い込まれるように身を投じる。そして俺の体が庭に入り切ると同時に、扉が閉められた。

「今だ!」

聞き慣れた声が聞こえた瞬間、俺がさっきまでいた裏路地いっぱいに煙が立ち込めた。

「さぁ、早くこっちへ!」

俺を助けてくれたその顔をよく見ると、それは俺のよく知っている顔。アンネだった。元々綺麗な顔立ちをしているアンネだが、今は月明かりに照らされ、いつにも増してきらびやかに見える。ソシャゲのカードランクでいえば、フル覚醒されたSSRカードといったところだろうか。

「アンネ、あの煙は?」

俺が息を切らしながら尋ねると、アンネは苦笑しながら、

「昨日ユウがあなたに見せていた、バラードカタケムリー君よ。感動の演出がどうこう言ってたけど、まさかこんな形で役立つなんてね。」

と、やれやれなんて大げさなポーズをしながら答える。

「なるほど、あのカタツムリか。くさっ!」

俺が事態を飲み込んだ瞬間。凄まじい激臭が鼻をつく。

「オナラが原動力だからね。あの臭さから逃げるためにも、さっさとこの場を離れましょう。」

片手で鼻をつまみながら、もう片方の手で俺を庭から玄関の方へ連れ出す。俺も同じポーズでアンネの後に続いた。


 道に出てユウたちがいると思われる方向を見ると、ちょうどレモンが網状の何かを放り投げるところだった。

「ぐっ」

「わっ!」

瞬間、追手たちのうめき声が聞こえ、バタバタと倒れる音がする。

「あ、ヨシタカ、にゃっほ~い!無事だったんだね!」

こんなときまでその挨拶はやめてほしかった。まぁこの場合は救世主だ。助けに来てくれたのだから何も言うまい。

「レモンの毛糸を使ったトラップ、見た目はややファンシーだが効果は絶大のようだな」

感心したように頷きながら、猛スピードでタブレットを操作するのはゴンザエモンだ。

「念の為、奴らのスマホに毒電波を流し込んでおいた。これで仲間に連絡することもできないから、しばらく時間を稼げるだろう」

「助かったよ、レモンにゴンザエモン。ありがとう!」

クールな笑みを返すゴンザエモン。こういうときのコイツは、かなりクールに見える。コイツもSSRキャラだなと心の中で思った。

「あれ?僕には何もないわけ?」

俺が2人だけにお礼を言うと、NORMALカードのユウがジト目で俺を見てきた。こいつはすぐ調子に乗るからな。あまり言いたくないがしょうがない。

「分かってるよ、お前もありが、くさっ!」

俺の感謝を込めた言葉は、悪臭によって中断された。そういえば忘れていたが、辺りは激臭に見舞われていたのだった。こんなところでツンデレちゃんを演じている場合ではない。バラードカタケムリー君は、オナラを煙にして広めるのと同時に、そのくささまでも増大して広めてしまうという副作用があるようだった。俺は確信した。このアイテムが実際のコンサートで使われることは、100%あり得ないと。


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