第四話 結成
「——————つまり制服こそ至高!しかしそれはコスプレでも足りうる物だ。俺が求めるのは中身!制服を身につける中身が大事なのだ!!社会なアレコレをある程度吸収し、一時的な壁を乗り越えた高校生こそが俺の天下!!······ああ、なぜ俺は女子高生に生まれなかったのだろう」
くっ······とこぶしを握りしめる警察官。
「······エエアア、ソウデスネ」
そしてそんな演説を10分ぐらい聞いている僕。
記憶のシャットダウンをする前に余計なものをメモリに残してしまった。頭が疲れた。
「······しかし、アレですね。ブルマって昭和な物と思ってたのですが」
僕は警察官と犯罪の加担をして、受け取った望遠鏡で運動場を見ているのだが。
昭和終了直後。平成初期に消えていったハズのブルマを履いて室外バレーをしている女子高生(その後に知ったのだが、ここは女子校だったらしい)を見ながらここだけ昭和に戻ったのかなと思う。いや僕は平成生まれだが。
「ああ。俺がガキの頃はまだギリギリ活きてた物だったが、ここではピンピンしているな。余程のマニアックがいるらしい」
「··················」
アンタじゃねぇの?と僕は薄ら笑いで頷く。
「ここは俺のパワースポットでな。制服狂の俺でも懐かしさを感じて······ついふらっと来てしまう。仕事中でも——————」
「仕事しろよ!!」
キーンコーンカーンコーン!と学校のチャイムが鳴り響き、さっきまで張り付くように見ていた警察官かんが何か感慨深いように、
「また······放課後だな」
今生の別れみたいな顔して言ってんじゃねぇよ······。
「君も······何か話たい事があるんじゃないか」
瞬時、スイッチが切り替えられたように表情が変わる。歴戦の戦士のように。
「ちょっと近くの公園に行こうか」
警察官は後ろ指手で催促する。僕は信用してついて行こうと思った。
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「君みたいな人は······俺が警察官になってから何回も見たことがある」
公園に行く手前、自動販売機で彼に奢ってもらった缶コーラを手にしてベンチに座っていると、同じく座っていた彼がそう言った。
「もっとも俺がそれを見るのは破天荒の先輩と共にだったんだけどな!」
がっはっはっ!と豪快に笑う彼は懐から何かを取り出した。
「俺は警視庁警部。龍馬和寿と申します——————ってな」
取り出した警察手帳に、敬礼を加える彼は『警部』と言うたしか6パーセントしか存在しない役職だった。変態なのに。
「警部って······仕事じゃないんですか!?」
僕は慌ててそう言うと彼は着ている制服を引っ張って。
「一応仕事だな、今から。先程までは一通り仕事を終わらせていつもの道を巡回していたんだ」
「巡回じゃないだろただの変態行為だろ」
ポロッと出たツッコミにヤベッと口を塞ぐ。彼はキョトンと目を丸くするが、直後涙を浮かべて笑い出した。
「ふははははは!君ぃ昔の俺だな!!——————懐かしいよ。先輩が豪快に物事を進める度に冷静にツッコむ俺がいた」
豪快——————と言うか、どこか根を残したまま懐かしむ彼に僕はもとより呼んだ理由を話すことにした。
「途中で区切ってしまって申し訳ないんですけど······笑わないでくださいね——————」
—————————
僕は話した。
救急車に轢かれたのに無傷で生還していた事も、本を買う途中怪しいお姉さんに出逢った事も、【死に戻り】している事も——————ことはかとなく伝えた。
彼は、笑うどころか何か思い当たる節があるような神妙な顔をしていた。むむっと一通り悩むと口を開いた。
「それは——————小説の話ではないのだよね?」
「はい。実際に起きた事だと思います」
「夢、じゃないのかな?」
「夢だったら良かったと思いたいんですけど。······その時食べた料理の味をうろ覚えですが覚えているし、二度目のループ······なんですかね?取り敢えずその時受けた銃弾の痛みは完璧に覚えています」
「なるほど······厄介な難題だなぁ〜〜」
僕はシンプルに驚いていた。警察はまず疑うのが大前提なハズなのに、彼はまっすぐに信じている。
彼はどうやら僕のそんな態度に気づいたのか、一口呷りふっと息を吐くと。
「『信じずに後悔するより、信じて後悔する方が何倍も良い』」
「え?」
「俺の先輩が好きだった言葉だ。だからこそいろんな現場に行かされたり苦労もしたが、それは後悔していない」
「——————その、先輩って誰ですか?」
「実柳凪人警視監。殉職して二つ上がった、俺が知る限り断トツで強い警察官だった」
その優しさも含めてな、と彼は付け足した。
「あの人は、奥さんに事故で先立たれてね。あの人の子供を守るためにずっとこの街に居続けたんだよ」
彼はどこか寂しそうに言っていた。
「俺が警察に勤務し始めた時から、事件解決の圧倒的キャリアで警部になっていてさ、僕は驚きだった。何もあの人が警部だった事に驚いた訳じゃない。それ以上に地位を求めなかった事だよ」
「服装は······そうだな皆と大差なかったけれども、あの人は特殊だった。普通さ、警察官ってのは拳銃一丁と警棒一本、手錠の3セットなんだけど。彼は前2つの代わりに古ぼけた木刀を持っていた。最後のサムライみたいでさ、署内ではよくそれで遊ばれていたよ」
「あの人は娘に弱かったんだ。ちょっと徹夜が続いて電話がかかってきたときなんか笑いものだったよ。木刀を振るう時は怪物とも言われた人がビクビク震えていたから——————」
「事件解決のスピードも以上でさ、既に引退していた先輩のさらに先輩には『よう』の一言だけで投降させた事もあった言われてたよ」
「その力もあってさ、よくテロ対策の会議にはよく参加していた。俺も付き添ってね。今はもう警視総監の友人がよく推薦していてくれたんだ」
「——————俺が任務を遂行した時は喜んでくれたなぁ。俺の同僚も連れて飲みに行ったよ」
「そんな強さと優しさを持ったあの人に追いつける為に俺は頑張ったよ。昔の俺は今と違ってヒョロヒョロでね、柔道ではボコボコに倒されていた。——————いや追いつけるじゃなくて追抜こうとしていたな。のんびりあの人が歩いているのに俺はその姿を追抜こうとしていた」
「でもそんな時に事件が起きたんだ」
ここからは他言無用でね、と口に指を指した。
「あの人がとある事件で東京に行ったとき、二人しかいない時に犯罪グループに遭遇したらしくてね。二人で倒しきったんだけど運悪くその建物の倒壊に遭ってしまったんだ」
「片方は半身不随で寝たっきり、片方は大怪我だけで済んだらしいんだ——————それが運が良かったとは言い難い。彼はあの人に庇われたらしいからね」
「『僕は頭だけ生き残っていれば良かった!!だけど君は体で戦うしかなかったのだろう!!』——————荒れていたよ。友人と言うか同期で親友、おまけにあの人······娘の為にこれ以上地位を上げないためにその人に手柄を何個も譲ってたらしいしさ」
「『頭脳の滝川実戦の実柳』——————そう呼ばれた事を知ったのはあの人の葬式で知った。あの人は当時の怪我で亡くなっちゃったんだけどさ、強靭の生命力によるのかな······あの人の知り合いが駆けつけて気遣いの挨拶を全員が言い切るまで生きてた。最期はもう大人になってた娘さんに手をとられながら息を引き取ったんだ」
「葬式の時は······そうだな。山程の人が集まって花を添えていたよ。警察学校からの知り合いからその地域の人々、子供達すらも——————あの人に逮捕された際、更生した受刑者が職員に連れそわれて線香をさした事は一時ニュースになったんだよ」
「皆に好かれていた豪快でたまにナーバスな警察官が死んで10年。······俺もあの人がいた所まで辿り着いたんだが、本当にそうなのか分からない」
「自分が信じられなくなったんだよ」
僕が答えるべきなのか?
答えるべきなんだ。話を聞いたのが自分だったから。
何を話せばいいのだろう?和寿さんも人として悩んで迷ってる。未熟だけど僕と同じだ。
何て······。
何て言えば······。
「辿り着いた、と思います」
「···············」
「確かに話の中で知った人とあなたとは違うと思います。でも僕は辿り着いたと思います。だって······僕のこんな嘘の確率の方が多いような話を信じてくれたんだから」
「でもそれは先輩の教えで······」
「その教えを貫くか貫かないかはあなた次第なんですよ」
僕は言い切った。
「そしてあなたはそれを貫いた。その間にあの人が教えてくれた······って言い訳がありましたか?それは無いと僕は思うんです。女子高生の姿を望遠鏡まで使ってる人が死人の束縛を食らってるわけないじゃないですか」
「······自分を貫いている俺は、あの人に辿り着いたのか·········」
「ええ」
僕は頷いた。
和寿さんは少し遠くをあほうけながら見て、意を決したように「よし!」と叫んで、ぐしゃりと缶を握りつぶした。
「いや〜〜〜。まさか話を聞くつもりが聞いてもらうとは······ナハハ。······ありがとう。気が楽になった。やっぱり柔軟な年頃······はっ!つまりこれからカウンセリングは女子高生が向いているのか!!」
「しんみりいったのにいきなりぶっ壊すなよ!!」
空気を返せ!しんみりした!!
冷や汗ものの意見転換に顎が外れそうになるほど唖然になった僕が本能的にツッコむと、不思議と笑いがこみ上げてくる。
ちょっと楽しくなったんだ——————。
@@@@@
「よしじゃあ、行くか!!」
「え、どこに?」
よっこいせと立ち上がった和寿さんはニコッと笑って。
「俺も手伝うよ」
「いや和寿さんは仕事があるじゃないですか!!」
「いいや行く!やる気が出た!やる気スイッチ押されたよ!!」
中途半端に古いものを——————!!
「君の話を聞いて。君がこの物語を終わらせる大切な錠と言う事がわかったよ。——————ならばその錠を開く鍵が必要な物だ」
「と、言うことは——————!!」
「偽名·『君方未来』仲間に入れる!!強引でもな!!!」
「——————強引はやめてくださいよ」
僕はどうやら大人に頼るほど心の強い子供になったらしい。
@@@@@
某日。と言うかそれからたった数十分後だった。
「あれか······?」
「ええ。あのジュースを飲んでいる女性が『君方未来』さんです」
あの喫茶店に行くと『君方未来』さんは、あの時僕に何口かくれたジュースを飲んでいた。
「ところで和寿さん。どうやって『君方未来』さんに話しかけるのですか?」
「ナンパと同じさ」
「僕ナンパしたことないです」
「高校生だろ!?ナンパの一つや二つ、告白の一回や二回、エッチの十回や二十回するべきだろ」
「しませんよ!······それよりも最後の卑猥な言葉だけ桁が違いませんでした?じゃあ和寿さんは上位三つやった事あるんですか?高校生時代に」
「してない·····と言うか俺のいた警察学校ってほとんど男子校に近い所だったからさ。もしもそれら三つをしたら九割九分九厘ホモ扱いされる」
「僕LGBTは特に気にしませんよ。僕はノーマルですけど」
「なあ知ってるか?そう言うのが一番社会的に危険なものなんだよ」
僕は和寿さんの後ろで縮こまる。筋肉質で背も高い和寿さんの後ろならば真正面なら気づかないだろう。
「?」
『君方未来』さんは警察官の存在に気づいたのか眉をひそめる。
さて、どうするのか——————!!
「警察だ。簡単に投降してくれたら痛い目には遭わないぞ」
雑すぎやしませんかぁぁぁぁぁぁあ!!