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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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84.停戦合意

 決着は着いた。誰一人死ぬ事無く最終決戦は終わった。和国亜国連合軍の勝利だった。和国からはカイルと桜が、覇国からは覇王カイゼルと熾天使ガブリエルが、亜国からは亜王ジャガンナートとアルテミスが停戦の条件の確認の為に。プラントEの会議室に集まっていた。

「では、敗戦国の覇国に対して、和国亜国連合軍を代表して、和王カイルが伝える」

 交渉はカイルが主導で行った。それは、予め決めていた事だった。覇国に求める条件は最初から決まっていたのだ。それは桜の提案でジャガンナートも了承した内容だった。

 カイゼルとガブリエルはどのような条件が提示されるのか気が気ではなかった。事実上軍事力による抵抗は無意味となった。だから、どのような条件であれ飲むしかない状態だった。

 そんな二人の心情をカイルは知っていた。だから、カイルは淡々と話を続けた。

「一つ、覇国は和国並びに亜国に対して、今まで行ってきた非道な行為に対する謝罪と賠償を行う事。

 一つ、覇国は和国亜国に対して、復興支援を行う事。これは人的資源の借用となる……」

 カイルは覇国に条件をつきつけた。それは、覇国が今後も存続するための条件だった。飲まなければ王家は滅亡し、国民は奴隷となる。

 その条件を要約すると、覇国は和国と亜国に賠償を行い、覇国和国亜国という国家という概念を捨て去り共同体となる事だった。

 覇国は覇州に旧和国領は和州に亜国は亜州となり、それぞれ独立した行政機関を持ち、行政の長は選挙で決める。

 機人達は州ではなく国に所属し、法の番人となる事が決められた。軍は一度解体し、適性を精査して合衆国軍として再構築する事になった。合衆国軍の長は選挙で選出する。

 カイルは全て話し終えた後でカイゼルとガブリエルに問うた。

「この条件を飲みますか?」

 カイゼルとガブリエルは驚愕の表情を浮かべていた。

「こんな条件で良いのか?我らがしてきたことは、こんな事であがなえはしない」

 カイゼルが発言すると、桜が答えた。

「もう、戦争は終わりにしましょう。ここで憎しみの連鎖を断ちましょう。私達は復讐を望んでいない。戦争の終結と恒久的な平和、それが望みです」

「分かった。それならば受け入れさせて頂く。これまでの支配体制を維持してきたことは謝罪する。和国と亜国の全ての国民に会って直接謝罪させてもらう」

「カイゼル王、あなたは王ではなくなる。それでも良いのですか?」

「構わない。もとより負けたら死ぬつもりで来ていた。命を拾ったのなら恒久的な平和の為に出来る事をさせてもらう。それが王の最後の務めだと思っている」

 その言葉を聞いて桜は憤りを覚えた。

「カイゼル王、あなたは道理をわきまえている。立派な王様だと思う。なのに何故和国と亜国にあのような仕打ちを続けて来たの?」

「仕方が無かった。農産物の生産量には限界がある。覇国は核戦争で荒廃した大地を少しずつ復興させてきた。だが、人の増える速度に農作物の生産量が追いつかなかった。だから、間引く必要があった。飢えで苦しんで死ぬよりも一思いに殺されたほうが良いと考えたのだ」

「殺される方の気持ちを考えた事はあるんですか?」

「あるとも、君は飢えた人間が何をするか知っているのか?」

「え?飢えて死ぬだけじゃないの?」

「人は飢えたら何でもする。それこそ、自分の親兄弟でも……。余はそれを見た。見たと言っても過去の映像だがな、余にその惨状を教えてくれたのは今は亡きミカエルだった。その映像を見せた後で、これでも彼らを生かせと言うのですかと問われたものだ」

「そんな、それでも生きていたほうが……」

 桜は動揺していた。実際に飢えた人間など見たことが無かった。地球ではポスターで世界で飢えている人たちが居るという知識しかなかった。

 実際に何が行われるのか想像もしたことが無かった。

「そうか、ガブリエル。余が見た映像を桜殿に見せる事は可能か?」

「はい」

 ガブリエルがそう言うと、桜に画像ファイルが転送されてきた。

(ご覧になりますか?)

 月読の問いに桜は「見せて」と答えた。映像が再生されると桜は自分の認識が間違っていたと気が付いた。そこに人間は居なかった。みな獣だった。そして、飢饉が終わった後、彼らは我に返り、自分の罪深さに悩んでいた。そんな映像を見せられたら、桜は自分が正しい事をしているのか分からなくなった。

「私は間違っているの?」

「結論を急ぐではない。余には熾天使達が提案してきた事以上の対策が思いつかなかっただけだ。君なら、君達なら良い対策を思いつくのではないか?」

 そう言われて桜は色々案を思いついた。元の世界では先進国では食糧難など無かった。そして、人口は増えるどころか減少していた。その理由も方法も知っていた。子供が労働力になるような原始的な農業の廃止と、子供に対する義務教育を行えば、人は自ずと子供を作る人数を減らす。

「私なら違ったやり方で世界を平和に導けると思います」

「そうだろうとも、だから世界を頼む」

 そう言って覇王カイゼルは頭を下げた。

「分かりました」

 桜は自信を取り戻して答えた。自分たちは間違っていない。これから世界を平和にする。争いの種は未然に摘む、そう心に誓った。


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