76.決戦開始
戦いは早朝から開始された。両軍ともに完全武装で対峙していた。覇国からは素戔嗚が、和国からは桜が出て来た。
「さて、決着の時だ」
「そうね。決着の時ね」
「勝てるつもりか?」
「勝つつもりよ」
桜は笑顔で答えた。
「そうか、こちらも勝つつもりだ」
「では、始める?」
「そうしよう」
言うなり、素戔嗚は人間のような外見が機械然とした直線的な外見に代わり、腕や足は鎧に見える様なデザインになった。そして、素戔嗚は草薙を抜き放って桜に切りかかった。
(汎用戦闘駆動機体ミリア戦闘モードに移行します)
月読の宣言の後で桜も人間のような外見が機械然とした直線的な外見に代わり、腕や足は鎧に見える様なデザインになった。髪は肩口までの長さとなり硬化していた。そして、素戔嗚の攻撃を素手で受け流し、一歩踏み込んで一撃を放った。
素戔嗚は桜の一撃を躱して、反撃を行う。だが、桜はその攻撃を予期して、攻撃を躱した。その上で、桜は只の抜き手を放った。素戔嗚も桜の攻撃を躱した。
それを合図に二人とも空に飛び上がり、螺旋を描いて交差しつつ互いに攻撃を放った。二人の実力は拮抗していた。
桜と素戔嗚が交戦を開始したと同時に覇国の軍勢は一斉に和国に向けて攻撃を開始した。それは、魔法であったり、銃撃であったり砲撃だったりした。雨の様に降り注ぐ破壊の奔流を受け止めたのはカナタの要塞だった。
「守れ守れ戦士達よ。護れ護れ戦士達よ。
汝らに風の加護を与える。
戦え戦え戦士達よ。進め進め戦士達よ。
勝利の為に命を捨てよ。
怒れ怒れ戦士達よ。殺せ殺せ戦士達よ。
敵を粉砕し勝利せよ。」
それは、レミの魔法だった。味方と認識した者の身体能力と知覚能力を高め、衝撃波に対する耐性を得る魔法だった。
覇国の熾天使、ラファエル、ガブリエル、ウリエルは、イリアを迎撃するべく和国の陣へ向かった。その熾天使達の前に立ち塞がったのは、ヴリトラ、アルテミス、ホルスの三人だった。
ラファエルの前にはヴリトラが、ガブリエルの前にはホルスが、ウリエルとアルテミスは遠距離から互いに殺気を放って対峙していた。
ここで、覇国の目論見は崩れた。本来なら熾天使がイリアと遅滞戦闘をするはずだったのだ。マリアがミリアを倒すまでの時間稼ぎをする予定だった。それが、破綻した。
フリーになったイリアは、遊撃を行う事を選択した。覇国の最前線の上空に一気に移動する。
(天照、魔法による全体攻撃を頼んでも良い?)
(エナが直接魔法を放っても良いと思うが、何故妾に頼む?)
(あなたの魔法は派手で、恐怖を与えるのに適しているから)
(なるほど、そなたの魔法は殺すことに長けているが恐怖を与えるという点では妾の魔法が上か)
(悔しいけど、天照の魔法の方が上)
(分かった。任せよ。恐怖を与えるという事は、目的は釣りなのじゃろ?)
(そうだよ。あいつを釣る。それが私の役目だもの)
(なら、ゆっくりと焼かれる恐怖を味合わせてやろう)
「十九番、太陽、正位置」
天照の眼前に人間と同じ大きさの半透明のカードが出現し、そのカードには煌めく太陽と馬に跨った半裸の少年が描かれていた。そのカードから太陽が抜け出し巨大化しながら覇国の軍勢に向かってゆっくりと落ちていく、その大きさは百メートル以上になっていた。あまりの大きさに覇国の軍勢は浮足立った。
じりじりと熱が伝わるにつれ、覇国軍の恐怖は増していった。それを見た素戔嗚が、天照に向かって急行する。そして、『草薙』で太陽を両断した。両断された太陽は、草薙の効果で無効化され消え去った。
「さて、素戔嗚。続きをしよう」
エナはそう言って、天照から体の主導権を奪い。『陽光』を抜き放って、素戔嗚に接近戦を挑んだ。
その顔からは以前の様な邪悪さは無くなっていた。もう、復讐に囚われた少女は居ない。そこには一人の戦士が居るだけだった。




