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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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74.イリアと桜

 イリアとセフィロトが決着をつけて世界樹の根元に戻ると桜が待っていた。桜はイリアに駆け寄り、イリアが地上に降り立つと同時に抱きしめた。

「え?」

 イリアが突然の事に戸惑っていると、桜が話始めた。

「お帰り、エナ」

 イリアは突然の事に驚きながらも疑問を口にした。

「どうして?」

 桜は抱きしめるのを止めて、イリアの眼を見て言った。

「針千本と断絶剣。あの魔法を使えるものがエナ以外に居るとでも?」

「違う。私はイリア……」

 イリアは言いたいことが言えないと分かっていたから、嘘を吐いた。

「やっぱり、エナなんだね」

 桜はイリアが嘘をついているのがすぐに分かった。目を逸らせて、両手を組む癖が出ていたからだ。

「違う」

「良いよ。理由があって言えないんでしょ。だから、何も言わなくていいよ」

 そう言って桜は再びイリアを抱きしめた。イリアは泣かなかった。ただ、幸せを噛みしめて桜を抱きしめた。

「月読がエナに伝えたい事があるって」

「なに?」

「ごめん。僕の作戦が不完全だった為に、君に怪我を負わせてしまった」

 月読は普段感情を面に出さなかった。だが、この時だけは本当に後悔し、悲しみを表情に出してしまっていた。月読にとってエナはそれほど大事な存在だった。

「大丈夫だよ。私は覚悟の上で戦った。それに、お兄ちゃんは悪くない。だって、ミカエルを討った時に油断したのは私だもの」

「強いなエナは」

 そう言って月読は笑った。そして、エナの頭を撫でた。エナは嬉しそうに笑った。それは、イリアになってから初めての笑みだった。

「お取込み中悪いが、話を進めても?」

 セフィロトが口をはさんだ。

「構わない。桜に替わるよ」

「それで、私は具体的に何をすればいい?」

「魔力の貯蔵をお願いしたい」

「それだけか?」

「それだけです」

「敵を魔法で攻撃したり、魔法による援護は必要ないと?」

「戦いは私達が受け持ちます。あなたは、ただ魔力を提供してくれればいい」

「なぜ、戦いを手伝えと言わない」

「あなたが、戦いから身を引いた理由を知って、それでも戦えなんて言えない。そんな事を言ったら父さんに怒られちゃう」

「ずいぶん優しい父親だな」

「うん、自慢の父さんよ」

「会ってみたいものだ」

「もう、会えないよ」

「そうか、それは残念だ」

 セフィロトは少し悲しそうに言った。

「イリアと言ったな。少し話を聞かせてくれ」

「なに?」

「針の魔法、あれはどうやったのだ?」

「一億の針の魔法を同時に使っただけだよ」

「どうしたら、そんなことが出来る?」

「特訓したらできるようになった」

「特訓の内容は?」

「月読お兄ちゃんと魔法を相殺する訓練をしてた」

「見せて貰っても?」

「私は良いけど、月読お兄ちゃんは?」

「良いって言ってるから代わるね」

「エナ。全力で行くが良いか?」

「問題ないよ」

 二人は、森を壊さないように空に移動した。セフィロトも追従した。エナと月読は互いに魔力を集める。光の翼が顕現し、大量の魔力をかき集め、エナと月読はお互いに魔法を発動させる。

「穿て穿て鉄の針、千となり万となり億となりて敵を穿て」

 一億の鉄の針は、魔方陣を描いて配置される。

「魔法!一億の絶望」

 月読が出したのは一億の黒い球だった。それは、極小のブラックホールだった。エナと対になるように魔方陣を描いて配置されていた。

 鉄の針と黒い球は、全てが個別に動き、お互いを相殺していく。それは、綺麗な幾何学模様を描きながら消滅していった。

「なるほど、簡単には真似できないという事だけは理解できた」

 セフィロトはエナの魔法を習得しようと考えていたが、無理だと言う結論に達した。

(ねぇ、月読。さっきの魔法。私は真似できる?)

(習得には時間がかかりますが、可能です)

(じゃあ、教えて)

(畏まりました)

 桜は、並列魔法を習得し、覇国との決戦向けて決め手となる魔法を開発するつもりだった。この時、和国と亜国の勝利の条件は整った。


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