72.同盟締結
イリアは復讐にこだわる事を止めた。だが、それでもエナに戻る事をしなかった。理由は世界を平和にするという桜の夢を手助けしたかったからだ。エナに戻っても手助けは出来る。だが、イリアのままの方が役に立てると思ったから、エナには戻らなかった。
桜とイリアが手合わせを行った後、反乱に参加する和人はさらに多くなった。そして、亜国からホルスが戻って来た。カイの家の一階で、カイル、桜、イリアが出迎えた。
「桜ちゃん一週間ぶり~」
「ホルスちゃん。一週間ぶりね。それで、同盟の話は?」
桜がホルスに聞いた。
「ほぼ、まとまったけど、桜に来て欲しいってアルテミスが言ってたから、迎えにきた」
「分かった。行くのは私とカイルとイリアの三人で良いかな?」
「人選はカイルに任せるって言ってた」
「カイルは、どう思う?」
「三人で良いと思う」
「じゃあ、決まりね。案内してくれる?」
「任せて!俺についてきて~」
ホルスが空を飛んで先導して、他の三人がついて行く。桜とイリアは風の精霊を使って、カイルは魔法を使って空を飛んでついて行った。
カイルは桜の横に並んで飛んでいた。
「なあ、桜。この戦いが終わったら聞いてもらいたいことがある」
「え?それって今じゃダメなの?」
「俺のケジメの問題だ。今は勝つことだけを考えたい」
桜は何となく察してしまった。
「私じゃダメだよ。子供産めないし」
「え?」
カイルは目が点になった。そして、顔が赤くなった。桜の不意打ちを全く予想できていなかった。そして、しどろもどろになりながら反論を開始した。
「ダメじゃないよ。子供は居なくても良い。桜と一緒に居たいんだ」
「この機械の体だと、色々出来ない事が多すぎて、カイルに申し訳ないよ」
「それでもいい。一緒に居ると嬉しいんだ。話をすると楽しいんだ。それで、良いじゃないか」
「それだと、ただの友達だよね。だから、そういうのはやめよう。私はきっと誰とも結ばれないから……」
桜は悲しそうに言った。本当はカイルが好きだった。人間だったのなら、カイルの思いを受け入れていた。
「桜が、そういうのなら、俺も意地を通す」
言葉は少ないが、桜には伝わった。それは、一生桜を想い続けるというカイルの決意表明だった。
「頑固なところは、父さんとそっくりだね」
「そういう、桜もだろ?一度決めたら曲げないんだから」
「お互い様ね」
「そうだ。お互い様だ」
二人は笑った。それは、一緒に住む前から、少しづつ会話をし、互いに距離を縮めた結果だった。二人の気持ちは通じていた。
そんな二人を見てイリアは嬉しい気持ちになった。姉と兄がお互いを信頼し合っているのが分かったからだ。
そして、そんな二人を見てホルスは顔が真っ赤になった。小学生には刺激が強すぎた。
亜国は、森の中に町があった。森と共存する形で建物が建てられていた。明確な道は無く亜人でなければ迷う森だった。
その森の中ではるか遠くに巨大すぎる一本の樹があった。その樹を見て桜は質問した。
「ねぇ、ホルス。あの樹は何?」
「ああ、あれは世界樹だよ」
「世界樹?」
「亜人の伝承にある。世界の生命を生み出したと言われる樹だよ。あそこには護国の四天王の一人、最強の魔法使いセフィロトが居る」
「セフィロト。後で会いに行かないと」
桜は何故かそう思った。
「会いに行くのは良いけど、同盟の話をした後にして欲しい。じゃないとアルテミスに怒られる」
ホルスは顔を青くして震えていた。
「分かってるわ。用事が済んでから行くから」
「良かった~」
ホルスは心底安心した顔で言った。そして、世界樹に比べるとだいぶ小さいが、それでも他の樹木よりは大きい樹を指さして言った。
「あれが、亜国の首城、樹木城ヴァイジャヤンタだよ」
その樹は、根元に大きな洞があり、そこに城を作っていた。城も木造で自然と共存する。そんな亜人達の意思が感じられる作りだった。
城の中に入るとすぐに玉座の間に案内された。玉座には亜人の王、獅子王ジャガンナートが座っていた。その両側にアルテミスとヴリトラが立っていた。
そして、玉座から玉座の間の入り口まで敷かれている緑色の絨毯の両側には亜人達の各部族の部族長が並んでいた。竜人、鷹人、森人、鉱人、象人、鬼人、猫人、犬人、馬人と様々な亜人が並んでいた。みな立派な服を着ていた。
ホルスが先導する形で絨毯の道を進み、王の前で跪いた。
「ただいま戻りました」
ホルスはそれだけを言った。余計な事を言うなとアルテミスからきつく言われていた。
「ご苦労だった。ホルス。下がってよいぞ」
「はっ」
ホルスは立ち上がり、ヴリトラの横に並んだ。カイル・桜・イリアは立ったままジャガンナートと対峙していた。膝を屈するのは格下の者が行う事だった。だから、三人は立ったままだった。
「さて、和国の諸君、ご足労感謝する」
ジャガンナートは厳かに話始めた。
「お招きいただき感謝します。反乱軍のリーダーを務めてるカイルと申します」
「皇一族の末裔だと聞いている」
「はい」
「作戦の概要はアルテミスから聞いている。勝算もありそうだ。よって同盟を結ぶ事に異論はない。亜国の戦士五千を援軍として送る。それと魔力の貯蔵に関しても協力しよう」
「同盟を受け入れてくれて感謝します。それと、すでにご存じだと思いますが機人イリアも味方になりました」
「聞き及んでいる。これで、勝利は確実と言ったところか」
「その通りですが、より勝利を確実なものにする為にセフィロト殿の助力もお願いしたいと存します」
カイルとジャガンナートの会話に割り込んだのは桜だった。
「余としても、そうしたいと思っているが、セフィロト本人が協力を拒んでおるのだ。どうしようも無い」
「では、私が説得に行っても宜しいでしょうか?」
「ああ、それは構わないが、説得は難しいと心得てくれ」
「分かりました」
桜は、それでよかった。会って話せば何とかなると思っていた。




