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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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70.月読の回想

 月読は今までの事を思い出す。自殺して初めてこの世界に来た時、月読は浮かれていた。自分の願いが叶ったと思った。しかし、神は条件を付け自由と名を奪った。

 そして、桜と出会う。

「僕は月読。君は?」

「私は此花桜です。月読っていうと神道の神様ですよね。ここはあの世?」

「違うよ。異世界転生の小説とか読んだことある?」

「ああ、あんな感じの世界なんだ」

「そうそう、僕は日本から来たんだ。神様じゃなく人間だよ」

「私もそうなの、仲良くしてね」

「もちろんだよ。それでね。少し困ったことに僕と君は二人で一つの体を共有しているみたいなんだ」

「ええ?なにそれめんどくさそう」

「そうなんだ。でも、僕の課題が終わればお互い自由になれると思うんだ。協力してくれるかな?」

「良いわよ。どんな課題?」

「なんか、哲学的な課題なんだけど『君が殺した者は誰か?』っていう課題と『桜を守れって』課題なんだ」

「え?あなた殺人犯なの?」

「いやいや、違うよ。僕は誰も殺してないよ。ただ、自殺しただけ」

「それだと、殺したのはあなた自身って事になるのかな?」

「僕もそうだと思って、そう答えたんだけどダメだった」

「難しそうな課題ね」

「君は何か課題を与えられたの?」

「何にもなかった。気が付いたらここに居た感じ」

「そっか、とりあえず二人で悩んでも答えは出ないようだし、外に出てみる?」

「私、ショッピングとか食事とか、あと友達も作りたい」

「一応、外の状況をある程度知ってるけど、あんまり文明レベルは高くないっぽいよ」

「それでも、普通に歩けて、外を見られるだけでも私は幸せ」

「ずいぶん小さな幸せなんだね」

「だって、ずっと病気で外にも出れなかったんだもの」

「そっか、なら今を楽しむと良いよ」

「この体って、マネキンっぽいね」

「想像で変えることが出来るからやってみて」

「あ、本当だ。後は服が欲しいな」

「服なら、こっちにあるよ」

「ナビだ。便利ね」

 そうして、服を選び武器も持って外に出た。


 砂嵐を超えて村に着くと虐殺が行われる前に村に着いた。村人に話しかけようとした時、覇国の兵士がやって来た。そして、虐殺が始まった。

(月読!どうしよう!どうしたら良い!)

(僕に任せて、こんな弱いもの虐めをする奴らに人権等無い!)

(汎用戦闘駆動機体ミリア戦闘モード!)

(魔法!裁きの雷)

 月読は手を天に掲げると、その手から雷が放たれ、全ての兵士に直撃し、命を奪った。

(殺すしかなかったの?)

 桜は月読に聞いた。

(躊躇してたら、多くの村人が死んでたよ?)

(捕縛とか出来なかったの?)

(可能だけど、僕はあいつらが許せなかった)

 イジメを苦に死んだ月読にとって弱者を踏みにじる行為は万死に値する重罪だった。

「ねぇ。あなたは救世の三姫ミリアなの?」

 それが、エナとの初めての出会いだった。エナから救世の三姫の話を聞き、村人たちから感謝され、救世主とあがめられた。

 だが、すぐに熾天使が現れミカエルがエナを人質にとった。

「動くな、動けばこの子を殺す」

(桜、主導権を渡せ。僕が解決する)

(駄目よ。あの子が死んでしまう)

(何をするつもりだ?)

 月読の言葉を無視して桜はミカエルと交渉を続けた。

「動かなければ、その子も村の人達も殺さないと誓ってくれる?」

「まって、ミリア。私は平気、お母さんに会いに行くだけだから」

 エナは死への恐怖で震えながらも桜に笑顔を見せた。

「駄目だよ」

「私は死んでもいい。その代わり、世界を平和にしてね」

「駄目だよ。出来ない。私には出来ない。だから、お願い。私が死ぬから、みんなを助けて」

「良いだろう。やれ!ガブリエル」

「嫌だ!ミリア~~~!」

 エナの願いは無視され、桜は首を刎ねられた。救世の三姫は不死身ではない。首を刎ねられれば死ぬのだ。


 そして、時間が巻き戻り、月読は桜との出会いからやり直した。最初に向かう場所を変更しようとしたが、神が許さなかった。他の場所に行くことを推奨しようとすると、虐殺が行われる村に行こうという提案に変わってしまった。

 だから、村人が全員死ぬまで時間を稼ごうと思った。戦争状態で危険だと教えたり、訓練が必要だと説得したりしたが、あまり桜を引き留める事が出来ず。結局、村が襲撃されている最中に到着してしまった。

(月読、何とか助けられない?)

(無理だと思う)

 月読は嘘を吐いた。急げば、エナは助けられる位置に居た。その嘘でエナも見殺しにした。人質が居なければ熾天使に殺される事は無いと思ったから、村人もエナも見殺しにした。

 桜が村に着くと兵士モドキ達は桜を殺そうとしたが、機人ミリアだと分かると命令で仕方なくやったと主張し、今後は悔い改めて生きると誓った。桜はそれを信じた。

 そこへ熾天使達が現れた。

「命令違反は死刑と通達したはずだが?」

 熾天使のミカエルが冷たく言い放つ。

「熾天使様、助けてください。あっしらは機人ミリアに脅されて従っただけなんです。どうかご慈悲を……」

 その言葉を聞いて、桜が動揺した。熾天使のミカエルはそれを見逃さなかった。

「つまり、機人ミリアが来なければ、君達は任務を全うして自由の身になれたと主張する訳だな?」

「へい、その通りです」

「さて、機人ミリア。君が抵抗するのなら、ここに居る者達も同罪として殺すが、君が抵抗せずに殺されるのなら、ここに居る者達の命は助けるよう。君はどうする?」

(桜!あんな裏切り者の命を守る必要は無い!戦うべきだ)

「私が死んだら、彼らを許してくれる?」

「良いだろう、約束しよう」

 そう言ってミカエルは桜の首を刎ねた。時は戻り三回目の桜との出会いの時、月読は人間では無く、機能の一部として振舞うように決めた。同じ人間のアドバイスだと桜は無視をした。だから、機械的な演算結果を伝えているという印象を与える為に演技をする事にした。

 そして、村人は人質にされるので見殺しにする。さらに、虐殺を行っていた兵士モドキ達も皆殺しにする。それだけを決めて、月読は三回目の桜と出会った。

 エナを助けたのは思い付きだった。桜は自分が生きる為に戦う意思を見せなかった。だが、誰かを守る為になら戦う意思を見せた。だから、一人ぐらいは助けて、桜の戦う理由にしようと思った。一人ぐらいなら闇の精霊と土の精霊で守れるし問題ないと思ったのだ。

 そこからは、全てが上手くいった。


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