67.希望の再会
マリアは覇国の首都にある。ルシフェルの隠れ家に入った。そこは一見ただの民家だった。マリアはドアをノックした。中から少女が出て来た。
「あら?初めましてね」
マリアの体は素戔嗚が操っていた。
「光をもたらす者に会いに来た」
「今日は、お客さんが多いのね。良いわよ案内してあげる。私は……」
「名乗らなくていい。知っているエヴァ・トゥルース。私は味方だ」
「誰の?」
「君達が匿ってきた者の味方だ」
「本当に味方なのね。じゃあ、今度こそ本当に案内するね」
そう言ってエヴァは、素戔嗚を招き入れた。
「それにしても女性が来るなんて初めての事だわ。あなたルシフェルの恋人?」
「違う。そもそも機人に恋愛感情など存在しない」
「あら?私たちの研究結果だと魂を持った機人は恋をするわ。あなたも魂があるように見えるけど?」
「もし、そうだとしても私はルシフェルの同志だ。恋する関係にはない」
「ふふ、まるでミカエルの様な事を言うのね」
エヴァは笑った。以前ミカエルが訪ねて来た時にエヴァは『あなたは、ルシフェルの友達?』と尋ねた。ミカエルは『違う。そもそも機人に友情など存在しない』と答えた。『あら?私たちの研究結果だと魂を持った機人は友情に芽生えるわ。あなたも魂があるんでしょう?』と聞くと『もし、そうだとしても私はルシフェルの同志だ。友達関係にはない』と答えたのだった。
素戔嗚は何も答えなかった。神に名を奪われた以上、自分の身元を明かす可能性がある発言は全て書き換えられると知っていたからだ。
何も言わない素戔嗚を案内して、エヴァは民家の地下に降りて行った。そこには鋼鉄製の扉があり、暗証番号を入力する装置が張り付いていた。扉の前には監視カメラがあり、侵入者迎撃用の機関銃も設置されていた。
エヴァが、暗証番号を入力すると扉が開いた。素戔嗚は扉の中に入った。扉の先には長い真っすぐな通路があり、床には光源があり、ずっと奥にまた扉があった。エヴァが開けた扉が閉まると、いきなり明かりが消えて声が響く。
「何者だ?」
それは、ルシフェルの声だった。
「私は救世の三姫が一機、マリア。覇国に協力しに来た」
「なぜ、この場所と合言葉を知っている」
「ある者に託されたとしか言えない」
「誰だ?」
「君が良く知る人物だ」
素戔嗚は慎重に言葉を選んだ。直接、ミカエルを連想させる回答は神に阻まれる。ならば、間接的な表現を行い予測してもらうほかなかった。
「君が、和国の暗殺者ではない事を証明できるか?」
「イヴ・トゥルースの願いで、光をもたらす者に協力しに来た」
この事実を知るものは少ない。知っているのは熾天使のみだった。このセリフを言えるかどうか賭けだった。だが、どうやら神の呪いをすり抜ける事が出来た。
「なるほど、話を聞こう」
もう一つの扉が開いた。素戔嗚は部屋に入った。
「信じられんがミカエルなのか?」
ルシフェルが問いかけた。
「違う」
素戔嗚は否定した。肯定しても否定に変わると知っていたから自分で否定した。
「ふむ、なるほど制約があるようだな」
ルシフェルは否定をそのまま受け取らなかった。
「答えられない」
素戔嗚の答えでルシフェルは全てを察した。素戔嗚はミカエルで、事情があって名乗れないのだと理解した。
「なるほど、分かった。この話題は終わりだ。他のみんなも理解したな?」
「ああ、問題ない。おかえり」
そう言ったはガブリエルだった。
「どういう形であれ、戻って来てくれて嬉しいよ」
そう言ったのは、ラファエルだった。
「また、一緒に戦おう」
最後にウリエルが言った。三人の言葉には答えずに素戔嗚は、話始めた。
「戦況は?」
「最悪だ。機人は二千しか残っていない。旧和国領では、全てのプラントで反乱が発生、おまけに和国は亜国と同盟を結んでこちらに決戦を挑もうとしている。さらに最悪なのが、機人たちの心が折られている事だ」
ルシフェルは苦々しく戦況を語った。常に無表情で話していたルシフェルの変化を素戔嗚は不思議に思った。
「全ての問題を解決する手段がある」
「なんだ?」
「和人がどうやって魔力を貯蔵していたのか理解した。それを覇国でも行う。人口はこちらの方が多い。同じ期間、魔力を貯蔵した場合、我らの方が勝つ」
「なるほど、勝算がある事は分かったが、機人の恐怖はどうする?」
「何を恐怖しているのだ?」
「この映像を見てくれ」
それは、和国の戦士千五百人の命を捨てた追撃映像だった。素戔嗚はその映像の凄まじさに絶句した。
(何よあれ、人間の動きじゃないわ)
その映像にマリーは恐怖を覚えた。
だが、素戔嗚には解決方法があった。
「私は、救世の三姫が一機、マリアだ。将軍の器に相応しい能力を持っている」
「なるほど、では君を信じよう」
「ありがとう。だが、一つ悲報がある」
「なんだ?」
「救世の三姫イリアが敵に回っている」
「これまた厄介だな」
「ああ、だが、魔力による身体強化を行えば、君でも倒せる。十分に魔力を貯蔵して戦えば、脅威ではない」
「つまり、次の戦いは魔力を多く用意した方が勝つという訳か」
「その通りだ。だから、覇王様に協力を仰ぐ必要がある」
「分かった。その役目は僕が担おう」
声を挙げたのはガブリエルだった。
「では、ガブリエル。君に覇王様とのパイプ役をお願いする」
素戔嗚はガブリエルに礼を言った。
「私は、いつも通り陰から指示を出す。それでいいな?」
ルシフェルが自分の役割を確認した。
「ああ、いつも通りに頼む」
素戔嗚は、それを了承した。そこには希望があった。覇国が勝利するための希望が……。




