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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
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5.ある村の葬式

 兵士達を殺してしまった桜は、月読が魔法を使ったのを見て、この世界にはゲームの様に蘇生魔法があるのではと思った。

(月読。蘇生魔法ってあるの?)

 もし、あるのなら村人達を助けられると思ったのだ。

(残念ながらありません)

(どうして出来ないの?)

(生物が死んだ場合、魂と呼ばれるものが抜け出すことが証明され、その魂を一定時間捕獲する事も成功しました。しかし、その魂を肉体に戻すことは成功しませんでした)

(だったら、私の魂はどうしてこの体に宿っているの?)

(端的に申し上げれば奇跡です)

(奇跡?)

(はい、神の起こした奇跡としか形容できません。そもそも汎用戦闘駆動機体ミリアは人間の魂を移植し、和人最強の兵士を作り上げる計画だったのですが、機体に魂を定着させる方法が見つからなかったのです)

(でも、あなた最初に私の魂と体をリンクさせるって言ってた。それって、魂を定着させるって事じゃないの?)

 桜は月読が嘘を言っているように思えた。

(違います。僕が行った作業は体に定着した魂と体の接続を行ったにすぎません。この体に魂を定着させたのは言うなれば神の御業です)

 桜は納得できなかった。月読の言っている事は一見正しいように思えるが、何かを隠しているように感じた。

 だが、桜自身が魔法を使えないので、月読の言う事を信じるしかなかった。

(だったら、私に魔法を教えて)

(畏まりました)

(出来るだけ、短時間で使えるようになりたい)

(それは、体感時間の話ではなく現実世界の時間という事でよろしいですね?)

(そうよ。現実時間でどれぐらいで魔法を習得できる?)

(体感時間は十日ですが、現実時間では一分です)

(分かった。じゃあ、教えて)

 桜は脳内で魔法のレクチャーを受けた。それは、魔力の感じ方、操作方法、そして魔法の発現の仕方の仮想訓練だった。そして、魔法の本質を理解した。魔法とはイメージを魔力で現実に変換する方法だった。

 だからこそ桜は理解してしまった。魂がどうやって体に定着しているのか理解していないのに人を蘇生させる事は出来ないと、それこそ神のように世界の真理を知っている者しか出来ない事だと。

(ねぇ、あなたはなんで私と体を繋げることが出来たの?)

 桜は魔法を理解した事で月読が言ってることも理解できた。だから、何故そんな事が出来るのか分からなかった。魂は神しか扱えないはずだった。

(魂がどうやって肉体にとどまっているのかは解明されていませんが、魂がどのように体を動かしているのかは解明されています。魔力は魂から肉体に意思を伝える為に無意識に人間が使っていた力なのです)

(人間の体は脳からの電気信号で動いていたんじゃないの?)

(その脳内で人間の意思によって電気信号を発生させていたのが魔力なのです。ですから、あなたが無意識に発生させていた電気信号をこの体の制御装置に接続したのです)

(もっと分かりやすく言って)

(簡潔に言えば、あなたの魂とこの体の脳の間に電線を引いたと言えば分かりますか?)

(何となくわかった。つまり、魔法的な何かで魂を操作したわけじゃないのね)

(その通りです)

 桜は落胆した。女の子の願いを叶えてあげる事が出来なかった。


 桜は女の子の所に戻った。女の子は不安そうな顔で桜を見ていた。桜は静かに言った。

「ごめんね。誰も助けられなかった」

 桜の言葉を聞いて、女の子は悲しそうな顔になったが、泣くことはしなかった。

「助けてくれてありがとう。お姉ちゃん」

 桜は不思議に思った。こんな小さな女の子が家族の死を受け入れている。それは異常な事だった。

「悲しい時は泣いても良いんだよ」

「大丈夫。これが三回目だから……。それにお母さんと約束したの。お母さんが死ぬ前に大切な人が死んだら泣いちゃダメだって、泣いてばかりいると死んだ人が心配になって安心できないから、死んだ人が安心できるように笑って生きなさいって。だから、泣かない」

 その言葉を聞いて、桜は泣いた。この子は、こんなにも小さいのに死を受け入れて生きようとしていた。その強さに、そして強くなった理由に涙した。

 桜は女の子に近づき跪いて包み込むように抱きしめた。

「あなた。強い子ね」

「どうしてお姉ちゃんが泣いてるの?」

「上手く言えないけど、お姉ちゃんは泣き虫だから」

 それを聞いた女の子は、桜の頭を撫でた。

「大丈夫だよ。泣いても笑っても明日は来る。だから、笑って生きよう」

 桜は女の子が言うには深すぎる言葉に疑問を抱いた。

「それ、あなたが考えたの?」

「違うよ。お爺ちゃんの口癖だよ。私が泣くといつもこういって笑うの」

「素敵なお爺さんね」

「うん。だからちゃんと天国に送ってあげないと」

「そうね」

「お姉ちゃん。これからお葬式するから手伝ってくれる?」

「いいわよ。何をしたらいい?」

「みんなを集めて欲しい。そして、焼いて天国に送るの」

「分かった。そう言えば、ちゃんと名乗ってなかったわね。私は此花桜。あなたは?」

「あたしはエナ。お姉ちゃんは桜って名前なの?さっきミリアって大声で言ってたけど」

「あ~あれね。あれは私のもう一つの名前。普段は桜って名乗ってるの」

 桜はとっさに嘘を吐いた。小さな女の子に体の名前がミリアで私は桜だと説明しても理解できないだろうと考えた。

「ふ~ん。訳アリなんだね」

 エナは、何かを察したようにそう言った。

「うん。まあね」

 桜はエナが何を察したのか分からなかったが、とりあえず肯定した。そして、葬式を行うべく村人たちを集める作業に移った。

 だが、桜は死体を見ると動けなくなった。あまりにも悲惨な姿に声も出せなかった。

(月読、お願い。彼らを集めて火葬する準備をして)

(畏まりました)

 月読は命令されたままに淡々と作業をこなした。村人を一か所に集めて回りに木材を適切に配置し、火葬できるように準備をした。途中、エナが遺体の置き場所を細かく指示を出していた。

「その子はカナちゃん。こっちのシドおじさんの子だからこっちにおいて」

「その人はあたしのお爺ちゃんだから、こっちのお祖母ちゃんの隣において、手を繋がせて」

 月読はそれらの指示に従って作業を行った。


(準備完了しました)

(ありがとう)

 月読の報告を受けて桜はエナに話しかけた。

「さあ、火を点けるよ」

「うん」

 エナは小さく頷いて返事をした。桜は月読が用意した松明で村人達を囲んでいる木材に火を点けた。

 木材は勢いよく燃えて、村人達を空に返した。桜とエナは手を合わせて死者の冥福を祈った。


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