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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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52.熾天使VS機人ミリア

「僕が撃退出来るのはミカエル以外の三体だけです。ミカエルだけはどうにもできません。それでも、このまま戦うのですか?」

 桜は月読の言葉を知っていた。

「出来ることろまででいい。少しでも敵を減らして、もしかしたらそれで帰ってくれるかもしれないから」

 桜は自分がこう答える事も知っていた。何度も繰り返し見た悪夢のやり取りだった。

「畏まりました。最善を尽くします」

「ねぇ、月読。勝つためには何をしたらいい?」

「愚問です。彼らの要求を無視して全力で戦うべきです」

「エナが死んだとしても?」

「土の精霊と闇の精霊を残せば彼女は助かるでしょう」

「カイやカイルやレナやレミは?」

「命の保証はありません」

「どうしてこんなことに」

「熾天使がこの事態を望んだからです」

「もう、どうにも出来ないの?」

「勝つために覚悟を決めてください。エナ以外の全てを犠牲にする事を許容するのなら、僕は彼らに勝利できます」

「それは、出来ない。だってカイはお父さんで、カイルはお兄さんで、レナはお母さんで、レミはお姉さんだもん。見捨てることは出来ない」

「では、精一杯戦った上で彼らが降伏を選ぶ事を期待しましょう」

 悪夢を見始めた時は、このやり取りが怖かった。でも今は違った。なぜなら、この先にエナとの幸せな生活が約束されていると知っているからだ。


 戦闘は熾天使達が空中に飛び上がったことで開始された。月読は、補助機能の全てをエナの元に向かわせた。

 その上で、携帯しているお守り様の魔力を使って、身体強化、空気抵抗軽減、飛行の魔法を行使した。そして、最初に狙ったのは、回復機能を持っているラファエルだった。

 その行動を見越してミカエルが月読とラファエルの間に立ちふさがる。ミカエルは神の白金製の長剣を正眼に構えていた。月読は自身の武器である神の白金製の日本刀、月光の鞘である月食を左手で掴み、月光の柄を右手で掴んだ。

 ミカエルと月読が互いの間合いに入った瞬間、壮絶な斬り合いが始まった。ミカエルは長剣を両手に持って振るい。月読は居合抜きの連撃で応戦した。実力は拮抗しているように見えるが、このまま斬り合いを続ければ月読が勝つ。しかし、ミカエルはその前に離脱した。

 月読はミカエルを追うが、速度が足りなかった。風の精霊をつけていないせいだった。だが、月読は焦らなかった。この事態を最初から想定していた。だから、勝つための布石を積み上げていく、まずはミカエルに対して一対一では勝てないと思わせる。次に距離を取って戦えば大丈夫だと誤認させる。

 距離を取って戦えば大丈夫だと思ったミカエルは、ガブリエルに一撃離脱の指示を出す。その指示に従って突撃してきたガブリエルを損傷させる。ここで倒す必要は無い。

 傷を負ったガブリエルはラファエルの元に向かう。再度、ミカエルは月読の前に立ちはだかる。しかし、月読はミカエルを無視し、ラファエルの元に向かう。今度は速度強化の魔法も行使して、ミカエルが追いつけない速度でラファエルをすれ違いざまに切り捨てた。

 最初から速度強化の魔法を使わなかった理由は、ガブリエルに損傷を負わせるための布石だった。ガブリエルが無傷の場合、ラファエルを撃破するのを防がれる可能性があったからだ。

 ラファエルは、月読の攻撃を受けて回復魔法で瞬時に回復した。しかし、月読はそれを想定していた。だから、ラファエルに密着し致命傷を与えない範囲で攻撃をし続けた。

 終には、ラファエルの魔力が切れ、回復ができなくなった。そこで、月読は攻撃を止めてラファエルから離脱した。それは、約束だった。お互いを殺さないという約束を守った。

ラファエルは月読の意思を感じた。止めを刺されずに見逃されたと感じていた。

 だから、ラファエルは撤退を開始した。

≪すまない。私は撤退する≫

 ラファエルの通信に対して、ミカエルは答えた。

≪十分だ。月読は魔力をだいぶ消費した≫

≪ありがとう。では、後は任せる≫

≪ああ、任せておけ≫

 ラファエルは撤退を開始した。月読は追撃せずに、ガブリエルに向き直った。

 ミカエルは油断していた。魔力による強化を侮っていた。補助機能を封じた事でどこか安心していた。そのせいでラファエルは負傷し撤退した。

≪すまない。私の判断ミスだ≫

≪いや、僕も見くびっていたよ。補助機能を封じて、あの動きか≫

 ミカエルの謝罪に対してガブリエルが答えた。

≪全くだ。魔法であれだけの強化を行うなど想定外だった≫

 ウリエルも同意した。

≪では、気を引き締め直して、今度は機人ミリアが魔力を消費しつくすまで遅滞戦闘を行う。ガブリエル、ウリエル両名は危険だと判断し次第撤退してくれ≫

≪≪了解した≫≫

 こうして、月読のお守り様の魔力が尽きるまで、安全圏からの一撃離脱が行われる事になった。それは、月読が想定していた通りの展開だった。


 それから月読が追い、熾天使が逃げる展開となった。月読はわざと焦って決着をつけ様としているように見せかけて動いた。魔力の残量はお守り様の光の消失と共に熾天使達に把握される事を想定したうえで罠を仕掛けたのだ。

 まずは、魔力を最大限使ってガブリエルを損傷させた。ガブリエルは神の白金製の四メートルの槍で一撃離脱を行っていたが、月読は一瞬を捉えて六枚ある熾天使の羽の半数を居合切りで切り落とした。ガブリエルはそのまま撤退した。

 次に狙ったのはウリエルだった。それを察知して妨害しようとしたミカエルを無視して月読はウリエルの翼だけを切り裂いた。この時にお守り様の魔力の残量は無くなった。

 ここで、月読の目的は既に達成されていた。エナが一対一でミカエルを討つ。そのお膳立てが整ったのだ。後は、万策尽きたと見せかけてミカエルに討たれるだけだった。


 ミカエルは勝利を確信した。月読は魔力の残量を消費してガブリエルとウリエルを撤退させるのが精いっぱいだった。後は、離れた場所で光り輝く巨大な魔力集積装置から、月読が魔力を補充して、ミカエルに決戦を挑んで来ると思っていた。それに対する備えとして、有機物による魔力の貯蔵ができる機人、智天使によるミカエルへの強化魔法で対抗するつもりだった。

 しかし、ミカエルの予想に反して月読は魔力を補充する素振りを見せずに戦闘を続行していた。予想に反した月読の行動を不審に思いながらもミカエルは一撃離脱戦法で、月読の四肢を切断した。

「これで、決着ですね」

 ミカエルは勝利を確信してそう言った。

「そうだな。僕の負けだ」

 月読も勝利を確信してそう言った。

 桜は安堵していた。これで終わる。負けたけど、これで戦いは終わる。エナは不自由になるかもしれないけど、生きる事を許される。桜の戦闘能力は封印されるが、それでみんなが生きれるのならそれで良いと思っていた。


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