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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
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4.ある村の悲劇

 桜が向かっている村に、一人の少女が居た。彼女の名はエナ。今年十歳になった女の子だった。エナは、冬に備えて祖父と祖母を手伝っていた。今年は不作で年貢を納められなかった。

 数少ない収穫物の中で、渋くて食べられない渋柿を干して食べれるようにする為に、柿に糸を通して家の軒先に干せるように作業をしていた。

 そこへ覇国の兵士達が完全武装でやって来た。

「おい。村の中央に集まれ、話がある」

 兵士の一人がぶっきら棒に言った。

「分かりました」

 エナの祖父は、大人しく従った。祖母もエナも大人しく兵士について行った。村の中央には井戸があった。その井戸を囲むように村人たちは集められていた。

 その周りを囲んで兵士達は立っていた。

「さて、こんなことをやりたくないんだが、命令なんでな。悪く思うなよ」

 兵士がそう言うと腰に佩いていた剣を抜き放って手あたり次第に村人たちに切りかかった。

 それを見たエナの祖父はとっさにエナを抱きかかえて、兵士達の包囲網を強引に抜けた。しかし、抜けた直後に近くに居た兵士に背中を切られた。エナの祖父は、その場に膝をつきエナを放す。

「逃げろ!エナ!」

 エナは必死に逃げた。村の出口に向かって必死に走った。祖父の言葉を信じて走った。村の外に出れば助かると何故か信じていた。村の外に出れば救世きゅうせい三姫さんきが居て、自分を助けてくれると信じて走った。


 桜はナビに従い村までのんびりと歩いていた。村まで後三十分ぐらいの距離まで歩いた時に、村に異変が生じていた。桜は最初、何が起こっているのか理解が出来なかった。

「ねぇ、あれは何をしているの?」

「どうやら略奪が行われているようです」

 月読は淡々と答えた。

「略奪って、じゃあ村人たちはどうなるの?」

「先ほどから何人か殺されているようです」

 月読の説明の後で、村での音声が聞こえるようになった。

「止めて!助けて!」

「逃げて!早く!」

「母さん!母さん!」

 それは、村人たちの悲鳴だった。

「助ける事は出来ないの?」

「今から急いで向かえば一分で村に到達可能です」

「じゃあ、間に合うの?」

「いいえ、助けられても一人だけでしょう。状況の分析結果を表示します」

 月読が淡々と答えた後で桜の視界に状況分析を行った結果が表示された。そこには村を上から俯瞰した地図と村人を現した緑の点と略奪を行っている者を現した赤い点が表示されていた。

 そして、それぞれの村人の死亡予定時刻が書かれていた。そして、桜は青い点で表示され、画面右下に表示されている時刻が動き出し、それぞれの点が動き赤い点が緑の点に接触すると緑の点が消えていった。

 青い点が村の入り口に到達したとき、残っている緑の点は一つだけだった。

「こんなの酷い。どうにもならないの?」

「無理でしょう。機体の限界速度で動けば間に合いますが、村に到達したときに衝撃波で村に居るもの全てが全滅します」

「分かった。でも、一人だけでも助けたい」

「畏まりました。速度の調整は僕が行いますので全力で走る事だけ考えてください」

 桜は言われた通り全速力で走った。桜は時速三百キロで走っていた。桜は改めて自分が人間ではないと思い知った。

 桜は高速で村の入り口に近づいていった。

 村の出入り口からは髪を肩口まで伸ばした小学生位の女の子が桜の方向に向かって必死に走っていた。その女の子はエナだった。服装は土で薄汚れた白いワンピースにボロボロの布切れを足に巻いていた。エナを鉄の鎧で完全武装した兵士が剣を振り上げて追いかけていた。

 エナは恐怖で上手く走れていなかった。それでも後ろから迫ってくる兵士から逃げるべく村の出口に向かっていた。兵士がエナに追いつく前に桜は辛うじて兵士とエナの間に割り込めた。

 桜の後ろでエナがへたり込んだ。

「お前は何者だ」

 兵士は大声で叫んだ。

「なんでこんなことをしているの?」

 桜は兵士の問いには答えず自分の疑問を吐き出した。

「まあ、いい、とりあえず死ね」

 兵士は振りかぶったままの剣を振り下ろしてきた。その動作はあまりにも緩慢で桜はあっさりと躱した。

「こんな事はやめて、小さな女の子を殺すなんて間違ってる」

 桜は相手を説得しようとした。平和な日本で育った彼女はいきなり相手を殺すという発想を持たなかった。

「避けずに死ね」

 言葉の後で兵士は横凪の一撃を放ったが、桜は後ろに下がって一撃を躱した。

「やめて!」

 桜は説得を諦めなかった。話せば分かると思っていた。しかし、兵士は桜の言う事には何も反応せずに右手側に回り込むように動き女の子に迫ろうとした。

 それを見た桜はとっさに兵士の左腕を右手で掴んだ。

「邪魔をするな!」

 兵士は剣を振り上げて桜の腕を切り落とそうとした。桜は動けなかった。しかし、突然時間が停止したように感じた。

(緊急事態につき、CPUのリミッターを解除しました)

 月読が桜にだけ起こった事を説明した。

(ありがとう。でもどうしたら良いの?このままだと腕を切られちゃう)

(今、あなたが出来る方法は二つです。手を放すか、汎用戦闘駆動機体ミリアの主導権を僕に委譲するかです)

(手を放したらどうなるの?)

(あなたの腕は守れますが、そこの女の子は人質となるでしょう)

 月読の説明で、桜は自分に選択肢がない事に気づいた。

(あなたに主導権を委譲しても良いけど、女の子は必ず助けて)

(畏まりました。汎用戦闘駆動機体ミリア戦闘モードに移行します)

 月読の言葉でミリアの姿が変わる。人間のような外見が機械然とした直線的な外見に代わり、腕や足は鎧に見える様なデザインになった。髪は肩口までの長さとなり硬化していた。

 兵士が振り下ろした剣はミリアの腕に当たったが、そこで止まった。

「機人なのか?」

 兵士は驚愕の表情を浮かべていた。月読は何も答えずに兵士の腕を放し、月光の鞘である月食を左手で掴み、右手で月光の柄を掴んで、居合切りを放ち兵士を殺した。

(なんで殺したの!)

 桜は怒った。何故、殺す必要があったのか理解できなかった。

(敵性勢力は殺す必要があります)

(あなたほど強いなら捕縛する事だって出来たんじゃないの?)

(捕縛する意味を見出せません。問答無用で虐殺を行っている人間と交渉は不可能です)

 桜と月読が脳内で口論しているところに、エナがすがるような眼差しで話しかけた。

「他の人達も襲われているの助けて!」

(僕が対応しても良いのでしょうか?)

(この子への回答は私がする)

 桜は、月読の本質を理解した。あれは、合理性しか理解しない機械なのだ。対処を任せた時、あれが何と答えるのか容易に想像できてしまった。だから、自分が答えなければならなかった。

「分かった。やってみる。だから、ここで大人しくしていてね」

「ありがとう。お姉ちゃん」

 桜は嘘を吐いた。この時点で生きている村人は居ないのだ。だから、不本意ながら月読の正しさを認めて、その上で人道的な命令を下した。

(月読。この村で略奪していた兵士を捕縛できる?)

(可能です)

(じゃあ、お願い。ちゃんと全員生きて捕縛して)

(畏まりました)

 月読は村の中心に進み、そして大音量で呼びかけた。

「略奪者に告ぐ、僕は機人ミリア。君達と交渉がしたい」

 呼びかけに気づいた兵士達が月読を囲むように集まってきた。

「機人だと?」

 兵士の一人が月読に話しかけた。

「はい、僕は汎用戦闘駆動機体ミリアです。あなた達に降伏勧告を行います」

「本当に機人なのか……。しかも、和人の伝説に出てくる『救世の三姫』を名乗るか」

「お頭、どうするんで?」

 月読に話しかけた兵士とは別の兵士が話した。

「どうするもこうするもねぇよ。俺達の任務は村の殲滅だ。やるしかねぇが、相手が和国の機人なら条件付きで降伏するほうが得策かもな」

「お頭に考えがあるなら従いますぜ」

「なぁ、俺達は好き好んでこんな事をしている訳じゃねぇ、命令されて仕方なくやってるんだ。俺達の命を保証してくれるなら、降伏しても良い」

(どうしますか?彼らの命を保証しますか?)

(いいわ、その代わり今後、人殺しをしない事と罪を償う事を約束させて)

(畏まりました)

「申し出を受け入れます。あなた達の命の保証をする代わりに、今後、人殺しをしない事と罪を償う事を約束してください」

「ああ、分かった。それで良いのなら約束するし、罪も償う」

「畏まりました。あなた方の命の保証を致します。では、こちらの約束である。罪の償いを実行させて頂きます」

「ああ、いいとも、何をすればいい?」

「罪状、大量虐殺、判決、死刑」

「おい、ちょっと待て約束が違う」

 兵士達は顔色を青くした。月読は構わずに息を吸い込み魔力を集めた。月読の背中から光の翼が生える。その姿は天使の様だった。桜は月読の言っている事が理解できなかった。だから、何も言えなかった。

(刑を実行します。魔法、死の抱擁を発動します)

 月読が桜にそう告げると、月読の周囲に黒い霧が立ち込め、中から目隠しをした妖艶な女性が複数出現し、兵士達に抱き着いた。抱き着かれた兵士達は悲鳴も上げずに絶命した。

(刑の執行を完了しました。汎用戦闘駆動機体ミリア通常モードに移行します)

 月読の言葉の後で、桜にミリアの主導権が移り、元の姿に戻った。

(どうして殺したの?殺さないでって言ったのに……)

 桜には月読が理解できなかった。殺さないと約束したのに何故殺したのか……。

(桜の命令に従ったのです)

(命の保証をして、罪を償う事を約束してと言ったのよ)

(はい、ですから命の保証をした上で、罪を償ってもらいました。結果、法律に照らし合わせれば死刑でしたので、刑の執行を行いました)

(それじゃあ、命の保証ってなんだったのよ)

(刑を執行するまでの間の命の保証です)

 桜は思った。月読とは一生分かり合えないと……。


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