44.主天使十番
覇国の領地の一つ、大きな館の前にある庭園で、小さな男の子が円筒形の生き物に話しかけた。
「ドミー。また戦争に言っちゃうの?」
「はい、ぼっちゃま。私は指揮官として敵の偵察任務を言い渡されました」
円筒形の生き物は金属で出来ていた。覇国の機人、主天使十番だった。主装備は超遠距離ライフルのみだが、他の機人との通信機能と戦況分析に特化した指揮官機だった。戦場での状況判断は、戦闘経験が豊富なほど判断ミスが少なくなる。
ゆえに、部隊が全滅しても生き残る事を最優先にしていた。彼は、主天使の中では一番若かった。だから、今回の任務に選ばれた。経験が他の主天使よりも少ないから、死んでも他の主天使よりも戦力の低下が抑えられるという理由で選ばれた。
だからこそ彼は生き残って帰還する事を決意していた。覇国の勝利の為、情報を持ち帰る。それが、彼に課せられた任務だった。彼が生き残る為に犠牲にしていいと言われている機人達と共に任務にあたる。
それらを盾に使っても、情報を持ち帰れるかは未知数だった。相手は機人ミリア。救世の三姫と呼ばれている和国最強の機人だった。
「また帰ってきてお話聞かせて」
「畏まりました」
「ぼく、ドミーの御伽噺好きなんだ」
小さな男の子は、ドミーに最高の笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
ドミーは生きて帰りたいと思った。そこへ、当主が妻を伴って現れる。
「ドミー。本当に行くのか?」
「アルベルト様。任務でございます」
「だが、今回の任務は……」
アルベルトは内容を知っていた。すでに天使と大天使が殺されている。
「大丈夫です。力天使二体、能天使五体、権天使五体を与えられての任務です。その上で全てを犠牲にしても情報を持ち帰れと命令されています」
「そうか、必ず生きて帰ってくれ、君は私達の家族なのだからな」
そう言って、アルベルトはドミーを抱きしめた。
「父様、ずるい。ぼくもドミーとハグする~」
小さな男の子、アッシュはドミーの足に抱き着いた。
「ドミー様。どうか帰ってきてください」
アルベルトの妻、カミールもドミーを心配して声をかける。
「奥様。ありがとうございます。私は必ず帰ってきますので」
主天使十番ドミーには、生きて帰るべき場所があった。だからこそ、彼は何を犠牲にしても必ず帰る事を誓った。




