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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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43.要塞

 カナタはカイに呼ばれていた。レミとの婚約をカイに許してもらう為ではなく、その許しを得る前にカイに呼ばれた。

 カナタは緊張していた。レミとの仲を知ったカイが報告を望んでいると思ったからだ。だが、通された部屋には桜が居た。

「カナタさん。お忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」

 カナタは、桜の挨拶のしかたで中身が月読だという事に気が付いた。つまり、ここに呼ばれた理由は反乱軍の作戦の一部だという事だった。ひとまずレミとの婚約の件ではないことに安堵した。

「いえいえ、お呼びとあらばどこへでも参りますよ。それで何の用です?」

「あなたに頼みたいことが、あるのですが良いですか?」

「なんでしょう?」

「魔法の実験に付き合ってもらいたいのです」

「実験?」

「ええ、魔法で建物を作れるか、という実験です」

「建物自体は作れると思いますが、意味がないのでは?」

 魔法で物を具現化した場合、魔力の供給が途切れた時点で物体は消滅する。ゆえに実験の意図が分からなった。

「そうですね。魔力の供給が途絶えれば消える建物に意味はないですが、例えば農作業時に雨が降ったと仮定します。その時に傘を具現化する事も出来ますが、どうせ魔法を使うのなら誰か一人が雨宿り出来る建物を作ったほうが、大勢が休めると思いませんか?」

 月読の言葉でカナタは実験の主旨を理解した。農作業は戦闘時、雨は敵の銃弾、傘は個人防御、建物は要塞と読み替えると意味が理解できた。

「分かりました。それで、どういった建物を具現化する予定ですか?」

「この設計図を見て、完成物を想像できますか?」

 月読は、木のテーブルに描かれた設計図をカナタに見せた。和人にとって紙は手に入らない貴重品だった。ゆえに、月読は木のテーブルに火の精霊を使って設計図を焼き付けて描いていた。

 カナタはそれが複雑な構造をした。銃弾や砲撃を防ぐための要塞の設計図だと理解した。

「理解できました。実際に具現化も出来ると思います。ただ、ここに描かてれいる規模での具現化は魔力がだいぶ必要ですね」

「それは、僕も理解しています。ですので小さいもので構いません。出来るかどうか試してカイさんに報告して頂いても宜しいでしょうか?」

「分かりました」

 カナタは月読の言わんとしている事を正解に理解していた。要塞は桜に見せたくないのだろう。

「お父さん。もう良いかな?」

 月読は桜に戻った。

「ああ、ありがとう。月読先生もありがとうな」

「どういたしましてって言ってる」

「ああ、じゃあ農作業に戻っても良いぞ」

「うん。じゃあ頑張ってくる」

 そう言って桜は、戻っていった。

「では、カナタ殿。さっきの要塞を具現化できるか確認しても良いかな?」

「ええ、構いませんよ」

「では、村の外れでやるとしよう」

 カナタとカイは村はずれまで移動した。


 村の東側にある草原で、カナタは月読の設計図通りの要塞を小規模ながら具現化した。

「あんた。凄いな」

 それを見てカイは感嘆の声を上げた。あれほど複雑な設計図を理解できたこともそうだが、それを暗記して具現化出来る事が人間離れしていた。

「いえ、これしか能がありませんから」

「それだけで十分だ。要塞の具現化は他の誰も出来なかった。設計図を理解できる人間は何人かいたが、それを丸暗記して具現化できる人間はあんたが初めてだ」

「でも、それだとカイ殿はどうやって俺が作った要塞を正しいと認識してるんで?」

「ああ、そうだな。試すのを忘れるとこだった」

「試す?」

「ああ、これから強度を試すから、そのまま維持してくれ、すぐに終わる」

 そう言うとカイは身体強化の魔法を発動させ、カナタが作った要塞に正拳突きを放った。

要塞は金属音を上げたが形が崩れる事は無かった。

「合格だ」

「ずいぶん原始的な確認方法ですね」

「月読先生からはこの方法で良いと言われてる」

「なるほど、という事はこのサイズの要塞でカイ殿の正拳突きが覇国の機人の攻撃に匹敵するという訳ですね」

「難しい事は分からんが、たぶんそう言う事だろう」

 カナタは少し不安になったが、月読が指示したという事だから間違いは無いだろうと思う事にした。

「まあ、要塞の事はこれで良いとして、カナタ殿はいつになったら家に来てくれるのかな?」

「え~っと……」

「レミからは、もうすぐと聞いているのだが、早めに来てもらいたいものだ」

 カナタは不意打ちを喰らった。

「では、今日にでも」

「おう!では楽しみに待ってるぜ!」

 カナタは腹を括った。


 その日の夜、カナタはカイの家を訪れた。もちろんレミとの結婚の許しを得る為に訪れた。そこにはカイとレナとカイルとレミ、それに桜とエナも居た。テーブルには豪華な料理が用意されており、お酒も置いてあった。

「夜分にすみません。今日はカイ殿にお願いがあってきました」

 緊張でカチコチに固まりながらカナタは、そう切り出した。

「おう、レミから聞いている。頼んだぜ息子よ」

「ええ?あれ?ええ?」

 カナタは混乱していた。カナタが何も話さないうちに許しを貰ってしまった。

「何を驚いてる?反対されるとでも思ってたのか?」

 そんなカナタを見てカイはからかう様に言った。

「でも、俺は名誉和人でてっきり嫌われているのかと……」

「おいおい、何を言ってやがる。ここに居るって事は、こっちの人間だ。名誉和人とか関係ねぇよ。それよりもレミが選んだ男だ。文句なんかあるはずねぇ。そうだろ?」

 そう言ってカイはみんなを見た。

「もちろん。文句なんかないよ。あんたみたいな頭のいい人がレミを貰ってくれるなら私は安心だよ」

 レナはそう言って笑った。

「俺も異論はない。妹をよろしく頼むよカナタ殿」

 そう言ってカイルは手を差し出した。

「こちらこそ、よろしくお願いします。お兄さん」

 カナタはそう言って手を握った。

「お兄さんはやめてくれよ。カナタ殿の方が年上なんだから、呼び捨てで良いよ」

「分かった。よろしく頼むカイル」

「ああ、よろしくな」

 そう言ってカイルは微笑んだ。

「私も異論はないけど、一応釘を刺しておくね。浮気したらすぐに報告するから気をつけてね」

 桜はカナタをからかう様に言った。

「いやいや、俺はそんなにモテないですよ!」

「その否定のしかただとモテたら浮気するみたいな言い方ね」

「違います!」

「こらこら、妹の分際で姉の夫で遊ぶな!」

「いや、君も俺を同じように追いつめてたんだが……」

「私は良いの。だってあなたの妻になるんだから」

「ああ、熱い熱い」

 そう言って桜は手で顔を仰いでいた。それを見たみんなが笑った。そこには家族の団欒があった。

「カナタも私のお兄ちゃんになるの?」

「そうだよ。よろしくね。エナちゃん」

「よろしくね。カナタお兄ちゃん」

 そう言ってエナは満面の笑みを浮かべた。

「早々に結婚式を挙げたいところだが、秋まで待ってくれるか?」

 カイがそう言うと、カナタがすぐに答えた。

「ええ、構いません。移住者が増えて大変なのは理解していますから」

「私も良いわよ。ゆっくり準備して最高の結婚式にしたいから、今は報告だけで良い」

 レミもカナタに続いてそう言った。桜は疑問に思わなかった。理由は、元の世界では結婚式を行う時には最低でも半年、長ければ一年がかりで準備するものだったからだ。

 だが、カイ達にとって結婚式は数日で準備して行うものだった。だから、桜が怪しまないようにカナタとレミは間髪入れずにカイに答えたのだ。すぐに結婚式を挙げない理由はもうすぐ戦争が始まるからだった。決戦に向けて、みな準備をしていた。

 そんな雰囲気の中で結婚式は挙げたくないとレミが言ったからだった。だから、報告だけして身内だけでお祝いをする事にしたのだ。

「じゃあ、二人の婚約に乾杯!」

 レナは桜が何も言ってこないことに安堵しつつ、乾杯の音頭をとった。

『乾杯』

 レナの号令にみんなで乾杯した。こうして、レミとカナタを祝福する温かな宴は始まった。


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