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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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41.最強の敵

 レミは恐れおののいていた。この村に最強の敵が現れたのだ。それは金髪で長髪で長い耳で透き通るような白い肌で、整った顔立ちをしていた。

 完全に負けていた。何もかも負けていた。村の男どもはことごとく彼女を褒め讃えた。敵の名はアルテミス。村のアイドル的立場に居たレミを脅かす存在だった。

 桜は美少女だが、脅威ではなかった。何故なら愛嬌という武器をレミは持っていたのだから……。

 だが、アルテミスの前ではレミの愛嬌は霞んでしまう。なぜなら、彼女は最強の武器、ツンデレを会得した者だったからだ。

 美人でツンデレ。この組み合わせは最強だった。レミでは太刀打ちできない。愛嬌のある女性はモテる。だが、美人のツンデレはもっとモテる。

 ただ、レミが本当に欲しいのはアイドルの座ではない。カナタと結ばれる事だけが望みだった。レミが恐れているのは、カナタがアルテミスに心を奪われないかという一点だけだった。

 レミはカナタに告白した。それなのにカナタはレミの父であるカイに交際を申し込んで来なかった。悩んでいると考えた事もあった。しかし、ここまで長い期間何もないと振られたという可能性が高かった。

 そこへアルテミスの登場である。アルテミスを見るカナタの目は、美しいものを褒めたたえる男の顔だった。

 奥手なカナタはアルテミスに話しかける事はしないが、視界に入ればカナタはアルテミスを目で追っていた。

 レミは、その日の夜、意を決してカナタを呼び出した。

「こんな夜中に呼び出して、変な噂を立てられたらどうするつもりだ?」

 レミはその言葉で泣きそうになった。カナタは自分と恋人だと思われたくないと言ったのだ。

「そんなに、嫌なの?」

 レミの表情からカナタはレミを深く傷つけたことを悟った。

「すまない。傷つけるつもりは無かった」

「じゃあ、どういうつもりで言ったの?私を恋人だと思われたくないだなんて」

「違う!そうじゃない。君の方が困るだろう。こんなしがないおっさんと恋人だと思われたくないだろう」

「なんで?頭良いし、魔法だってすぐ覚えたし、何を恥じる必要があるの?」

「この年で結婚してない男なんて異常だろう。それに武術はからっきしだ。誇れるものなど何もないよ」

「馬鹿!なんでそんなに自信を持ってないのよ」

 レミはカナタを理解しているようで理解していなかった。自己評価が異常に低いのだ。だから、レミはカナタの気持ちを聞き出すことにした。

「俺は勉強しかできなかった。でも、周りに恵まれて仕事に就けた。男らしい事が出来ないから、この年でも結婚できなかった。ただそれだけの情けない男だよ」

「私は、あなたが好き。あなたは私の事、嫌いなの?」

「好きだよ。俺にはもったいないぐらい素敵な女性だと思ってる。家事は出来るし、気配りも出来る。子供の面倒だってしっかり見れる。こんな素敵な人は他には居ない」

「じゃあ、なんで結婚を申し込んでくれないの?」

「戦争が始まる。だから、申し込めない。俺はたぶん真っ先に敵に殺される。残される者の気持ちを考えたら結婚なんて申し込めない」

 レミはカナタを知った。とても臆病で優しい人だった。そして、ますます好きになった。

「死んでも構わない。というか私が殺させない」

「いや、君も武術は出来ないだろ?」

「私は出来ないけど、父さんとお兄ちゃんは強いわよ。私と結婚すれば、必ず守ってくれる」

「そんな、不純な動機で結婚は出来ない」

「何を言ってるの?私の事、好きなんでしょう?でも、先立つのが悪いから結婚しないっていうから、結婚しても大丈夫だって伝えたんじゃない」

「ああ、うん」

「それで、結婚してくれるの?」

「分かった。結婚する」

「ありがとう」

 そう言ってレミはカナタの胸に飛び込んだ。カナタはレミを受け止めた。

「でも、一つだけ教えて」

「なに?」

「なんでアルテミスを目で追ってるの?」

「ああ、あれか。レミは今、夜空を見上げたら何を見る?」

「月を見てしまうわ」

「それと同じだよ。美しいものは無意識に目で追ってしまう。ただ、それだけだ」

「特別な感情は無いの?」

「恋愛感情は無いが、おっかないと思っているよ。彼女、たぶんやばいやつだ」

「ふ~ん。じゃあ、信じてあげる」

「おいおい……」

 カナタは抗議したかったが、その口はレミによって塞がれてしまった。


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