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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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38.ルシフェルの企み③

 いつものように覇国の首都アバロンでミカエルとルシフェルは机を挟んで議論をしていた。

ミ「ルシフェル。情報の隠匿をされた」

ル「ああ、月読が何かを隠しているか、こちらのブラフに気が付いて揺さぶりをかけて来ているか、もしくはその両方だろうな」

ミ「厄介だな……。なにか対策はあるのか?」

ル「八方ふさがりだ。追加で偵察を行った場合、見えない監視者は居ないと月読に教える事になる。もし、月読がこちらの作戦を破る何らかの手段を持っていて、それを隠匿していた場合は決戦時に負ける事になる」

ミ「どちらも重大な結果を招く事になるな」

ル「その通りだ。だが、どちらがましかと言えば、ブラフがバレた方が損害が軽微だろう」

ミ「ブラフがバレれば直接我らを殺しに来るのではないか?」

ル「その通りだ。だから、損害は私と君ら熾天使だけですむ」

ミ「数は少ないが、損害は絶望的だ」

ル「だが、覇人と機人は多く助かる。熾天使が敗れれば覇国は降伏するしかなくなる」

ミ「なるほど、そういう意味で損害が軽微という訳か……」

 ミカエルは自分たちが置かれている状況の悪さを再認識した。もともと勝てる戦いではないのだ。

ル「ああ、だから偵察を行う」

ミ「分かった。私が直接行った方が良いか?」

ル「それは、止めた方が良い。あくまでもこちらの予想外の事態が進行していない場合、無駄死にになる。月読は二度も見逃してくれるほど甘い相手ではない。ブラフとバレた場合でも、こちらの首都に居れば他の機人達も使える。月読が降伏を受け入れずに機人の殲滅を目的にしている場合は全軍でもって迎撃するしかないが、単独で戦うよりは勝率も上がるだろう」

ミ「となると、天使を一人失う事になるな」

ル「いや、それよりも人間を使った方が良いだろう」

ミ「なるほど、そちらの方がリスクなく偵察できるな」

ル「ただ、人間が持ち帰れる情報は機人よりも圧倒的に少ない。有効な情報が得られない可能性もある」

ミ「いま、こちらから全軍で攻撃するのはダメか?」

ル「まだ、時期が早い。ここで逃げられたら一方的に負ける事になる。人質があって初めて勝機が生まれるのだ。ここで動いては全てが無駄になる」

ミ「分かった。偵察を手配しよう」


 数日後、ミカエルはルシフェルに偵察の結果を伝えた。

ミ「ルシフェル。詳しい情報は得られなかったが月読が何か準備しているのは確かだ。『お守り様』という水晶の飾りをみんな持っていたそうだ。しかも、光り輝いていたらしい」

ル「興味深い現象だな。推測するに魔力に関係ありそうだ」

ミ「となると、魔力を貯めこんでいると考えるのが妥当か」

ル「不可解だな。鉱物に魔力は貯めこめないはずだが……」

ミ「そうだな、有機物にしか貯めこめないはずだ」

ル「情報が少なくて判断できないな」

ミ「いったいどれだけの魔力を貯めこめるのか未知数だな」

ル「内通者を作る事は出来ないのか?」

ミ「密偵が潜り込もうとしたが、面接で弾かれたそうだ」

ル「ふむ、月読が尋問しているのか、では潜入は不可能だな」

ミ「ああ、機人に嘘を隠せる人間は存在しないからな」

ル「ただ、一つだけ分かった事がある」

ミ「なんだ?」

ル「月読は我らを殺しに来れない」

ミ「来ないのではなく来れないのか?」

ル「ああ、人間の密偵を送ったのだ。月読はこちらに不可視の観測者が居ないと知ったはずだ。だが、我らを殺しに来なかった。あの月読が動かない理由が無い。つまり、何らかの理由で動けないのだ」

ミ「なるほど、ではどうする?」

ル「どうしようも無い。このまま作戦を続行するしかないだろう」

ミ「それが、君の判断なら従おう」


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