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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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37.断絶の永名

 いつもの日常の中で桜は農作業をしていた。崩壊の音は突然やって来た。

(高速で接近する物体を確認しました)

(なに?)

(覇国機人、大天使型を確認、敵性勢力と認定します)

(敵が来たの?)

(汎用戦闘駆動機体ミリア戦闘モードに移行します)

 その言葉で、桜の外見が機械然とした直線的な外見に代わり、腕や足は鎧に見える様なデザインになった。髪は肩口までの長さとなり硬化した。桜の近くで作業していた。カイが異変に気付き桜に話しかける。

「桜!来たのか?」

「はい」

『敵襲~!敵襲だ~~~~~!』

 カイは村中に響くような大声で言った。

「桜、ここは俺達に任せてくれ」

「でも、相手は機人で『大天使型』だって」

 桜は大天使型が天使型よりも強いことを知っていた。だから、月読に任せるつもりでいた。

「大丈夫だ。俺達に任せろ!魔法の勉強や戦闘訓練を見てただろう?」

「でも……」

「大丈夫だよ。桜、俺も戦うから」

 心配している桜にカイルが声をかけた。

「お姉ちゃん!」

 大声をあげてエナが桜の元に駆け寄ってきた。そして、開口一番桜に驚くべき内容を伝えた。

「精霊達を私に貸して!」

「エナ。なんで……」

「私が、お姉ちゃんの代わりに機人ミリアになる!」

 エナは真剣な眼差しで桜を見た。桜はエナの覚悟を知った。

「でも、それじゃあ、エナが危険に……」

「お姉ちゃんは機人ミリアになりたいの?戦えば否応なくそうなるんだよ?」

「それは……」

 桜は覚悟が出来ていなかった。そして、エナは覚悟が出来ていた。桜が現実から目を背けている間に、エナは現実と向き合って答えを出していた。

(月読、エナに精霊達を貸したとして、エナは無傷で勝てる?)

(勝てます)

 月読は即答した。なぜなら、月読がエナをそう育てたからだ。

(分かった。エナに貸してあげて)

(畏まりました)

「ごめんね。エナ。精霊達をあなたに貸すわ」

「謝らないでお姉ちゃん。そこは、『ありがとう』だよ」

 エナはとびっきりの笑顔を桜に見せた。

「私ね。お姉ちゃんが戦いたくない気持ち、なんで戦いたくないのかよく知ってる。お姉ちゃん優しいから相手の事を想って戦えないんだよね。だから、私が代わりに戦うの。だって私は彼らを殺したいほど憎んでいるんだもの」

 そう言い放ったエナは子供に見えない程、凶悪な表情をしていた。

「エナ……」

 桜はエナの気持ちをちゃんと理解していなかった。エナの中にこれほどの憎悪があると思っていなかった。

「ありがとう。エナ。でも、やっぱりごめんね……」

 そう言って桜は泣いた。自分が出来ない決断を妹のエナがしていた。情けなくて桜は泣いた。

「泣かないでお姉ちゃん。私、知ってるから、お姉ちゃんが本当の機人ミリアだって。世界を平和にするのはお姉ちゃんだって知ってるから、だから、今は私に任せて」

 そう言ってエナは微笑んだ。そして、高らかに宣言した。

「あいつは私一人でやっつける。みんなは手出ししないで」

「ああ、任せるぞ、エナ。存分に戦ってこい」

 そう言ったのはカイだった。桜は不思議に思った。カイはてっきり反対すると思っていた。

「エナちゃん。任せたよ」

 カイルもエナに任せるつもりのようだ。

「エナちゃん。行ってこい!」「エナちゃんなら大丈夫だ!」「エナ~。ガンバ~」

 村人たちも、エナが一人で勝利する事が当たり前のように振舞っていた。

「じゃあ、行ってくる!」

 そう言ってエナは精霊達を従えて、大天使型に一人で向かった。それと同時に月読は桜に内緒で電波妨害を開始した。接近してきた大天使型が通信出来ないように、こちらの情報が漏れないように対策を施した。

 これは、エナという切り札の存在を隠蔽するのが主目的だが、見つからなかった監視者が本当に居るのか確認するための布石でもあった。月読は機人ミリアが高性能であることを知っていた。

 三か月かけて監視者を見つけられない可能性がとても低いと自負していた。そこから、ルシフェルがブラフを言っている可能性に気が付いた。

 だが、賭けだった。本当に見つけられない監視者が居た場合、計画に大きな変更を加えねばならなかった。だが、どちらにせよ、ここでエナが戦わない事には、この先の勝利はありえなかった。

 だから、月読は賭けるしかなかった。


 エナは土と水の精霊に守られ、風の精霊に連れられて大天使型の元に向かった。そして、村の外で村に戦闘の影響が出ない場所で会敵する事が出来た。

 大天使型二千二十二番は困惑していた。会敵するのは機人ミリアの方だと思っていたが、出て来たのはエナの方だった。しかも、機人ミリアの精霊達を従えていた。二千二十二番の任務のうちに敵戦力の分析もあったため、早速情報を送信しようとしたが、電波妨害で通信不能になっていた。

 撤退して情報を伝達する事も選択肢にあったが、二千二十二番は戦闘する事を選択した。

 エナと二千二十二番は直線的に接近を開始した。先に攻撃をしたのは二千二十二番だった。エナをロックオンし、左肩のミサイルポッドから、多弾頭ミサイルを発射した。エナの後に戦う事になる機人ミリアの事を想定して、全弾の四分の一に当たる六発を発射した。

 エナは、それを見ると加速した。そして、ミサイルにある程度接近すると弾頭が割れ、中から六つの弾頭が現れた。合計三十六発のミサイルがエナに向かって殺到していく。しかし、エナはその全てのミサイルを潜り抜けて二千二十二番に接近していく。

 二千二十二番は右肩の中距離攻撃用の武器ガトリングガンを撃ち始めた。連続して撃ちだされる弾丸の全てをエナは回避してさらに接近した。そして、エナは歌を詠んだ。

「全て断て!全て絶て!敵対するものに絶望を!この世の全てを絶つ光の剣よ!我が右手に現れよ!断絶剣!」

  エナの右手には白い光で出来た剣が出現していた。それは、全てを両断する光の剣だった。魔法はイメージして魔力を込めれば使えるので本来、詠唱は必要ないが、イメージを明確にするためにエナは歌を詠んだ。それには、自己暗示も含まれている。

 二千二十二番は左手の武装、近距離用レーザーを撃ち始めた。より激しさを増した攻撃をエナは難なく躱し、二千二十二番と零距離になった。二千二十二番は零距離用の武器、右手のロングソードを横薙ぎに一閃した。

 エナは、右手に持った断絶剣を右上から左下に振り下ろした。二千二十二番のロングソードは両断されていた。そして、二千二十二番も両断されていた。

 二千二十二番は自分を修復しようと魔法を発動させようとした。しかし、エナは魔法の発動を察知すると、間髪入れず連撃によって二千二十二番を細切れにした。

 二千二十二番は爆発した。その爆発にエナは巻き込まれたが無傷だった。


 エナが村に戻ると、村人みんなが出迎えた。桜はエナがどのようにして勝ったのか光の精霊を通して知っていた。

「エナ。本当に強くなったね」

「当然だよ。だって私は機人ミリアなんだから」

 エナはそう言って笑った。

「さすが、エナちゃんだ」「英雄、断絶のエナの誕生だ!」「これで、覇国に勝てるぞ!」

 村人たちはエナの勝利を喜んだ。それは、伝説の始まりの瞬間だった。人間が機人に勝利する物語の始まりだった。


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