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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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36.偽りの日常

 桜は平穏な日々を過ごしていた。移住者は増えたが、いつも通りに農作業をして、面接を行い。お守り様に魔力を注いでいた。

 夜になると魔法の授業と戦闘訓練を行い。眠りにつく。そんな毎日を過ごしていた。村人たちはお守り様が虹色に輝くと次のお守り様を身に着けていた。そうして、虹色になったお守り様はどこかにしまっていた。

 桜のお守り様も虹色になると、レミが新しいのと交換して、どこかに持っていった。


 そんな日常の中で、桜は幸せを感じていた。苦痛の無い毎日、たあいのない会話。質素だが美味しい食事。望んでいた日常とは違うが、居心地のいい満ち足りた毎日があった。

 そして、嬉しい出来事もあった。それはレミからの相談だった。

「ねぇ、桜。桜は恋ってしたことある?」

「無いけど、どうしたの?」

 ここまで話して桜は気が付いた。これはコイバナだと、ついにレミが相手を見つけたのだ。

「無いか~。そうかな~と思ってた」

「え?なんで?」

「男慣れしてないもん」

「そっか、そうだよね」

 桜は苦笑いをするしかなかった。カイルを意識してから、まともにカイルと話が出来ていなかったからだ。

「まあ、でもそんな桜に質問です」

「なに?」

「カナタってどう思う?」

 レミの口から出て来た名前を知っていた。月読の面接に来た人だった。堂々と嘘を吐いたことがあると言い放った人だった。だが、だいぶ年上に見えた。

「レミって、今、何歳だっけ?」

 この世界に来てから、桜は心に余裕が無かった。機械の体になり、村人の虐殺を見て、エナと出会い、熾天使と戦いになり、秘密を強要され、気が休まる事が無かった。

 だから、レミの年齢も誕生日も聞く余裕すらなかった。だが、カイに守ると言われ、実力を知った事でようやく桜は安心したのだった。そして、心に余裕が生まれた。

「ようやく、年齢を聞いてきたわね」

 そう言ってレミは笑った。

「私は十九よ。ちなみにカイルは二十ね。桜は?」

「私は十八」

「私の方がお姉さんだったのか、同い年だと思ってた」

「私もレミと同い年だと思ってたよ」

 そう答えた後で、桜は少し考えてレミの最初の問いに答えた。

「少し年上過ぎない?」

「桜は年齢を気にする派か~。私は気にしない。歳の事を抜きにしたらどう思う?」

「まあ、見た目は良いよね。清潔感あるし、知的だし、優しいし」

「だよね。だよね~」

 レミは嬉しそうだった。

「移住者が住む家の設計って彼がしているって知ってた?」

「え?そうなの?」

「すごいよね」

 増えた移住者が住むための家は素人の桜が見てもしっかりしたものだった。

「すごいね」

「やっぱり、私の目に狂いは無かった」

 そう言って最高の笑顔を見せた。

「少し、年上なのが気になるけど、レミが気にしないなら応援する」

 桜も笑った。

「ありがとう。でも、もう告白してあるから、あとは返答待ちなんだ~」

「行動早いね」

 桜はあっけに取られた。これから告白する相談を受けると思っていたのにすでに告白済みだった。

「善は急げよ」

 レミはそう言って片目を瞑った。

 

 桜は目を瞑っていた。魔法の授業に、戦闘訓練に、お守り様に、増えていく移住者に、覇国との抗争に、全てに目を瞑って日常を過ごしていた。そして、日に日に強くなっていくエナに目を瞑っていた。

 疑問を持たないようにしていた。全ては逃避だと分かっていながら、桜は真実を知る勇気を持てなかった。

 たとえ偽りだったとしても、この日常が大好きだった。


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