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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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33.選別

 カナタは救世の三姫を見ようとする人々に混じってプラントEについた。そこは普通の村の様に見えたが、村の入り口に筋骨隆々の中年男性が立っていた。そして、村に入りたがる者達に何やら説明をしていた。

「救世の三姫に会いに来たのなら残念ながら噂はデマだ。だが、覇国に反旗を翻したいと思っているのなら歓迎する。俺達は反乱を起こす準備をしている。食料はあまり提供できないから、各自の食料は自分たちで用意してもらう事になるが、それでも良いと思うものは協力してくれ」

 彼の言葉を聞いた者達は落胆した。

「なんだよ。嘘だったのかよ」「来て損した」「無駄足だったな」

 諦めの言葉を残して帰る者が大半だが、残る者達も居た。

「救世の三姫が居ないのは残念だが、覇国の横暴にはウンザリしてたんだ。俺は参加する」

 そう言って、村の中に入って行くのは中年以降の男性が多かった。カナタは村の中に入る事にした。理由は簡単だった。救世の三姫が居ないという事が嘘の可能性があったからだ。

「あんた。良い身なりをしているな」

 カナタが村に入ろうとした時、救世の三姫は居ないと言った筋骨隆々の中年男性が声をかけて来た。

「そうですか?」

 カナタはとぼけた。

「名誉和人ってやつか?」

「だったら何か?」

「スパイだと疑っている」

「スパイに面と向かって言う事ではありませんね」

「まあ、そうか。あんたは信頼できそうだな。俺はこの村の村長をしているカイというものだ」

 カイはそう言ってカナタに手を差し伸べた。カナタはカイと握手した。

「俺はカナタ。救世の三姫に会いに来た」

「さっき、居ないと説明したはずだが?」

「少し考えれば分かる事だが、この噂は覇国が流している。あなた達が流した噂じゃない。それに反乱の準備をしているのなら、救世の三姫の存在を否定するのはおかしい。反乱を起こすなら嘘でも居る事にして人を集めるはずだ」

「なるほど、あんた頭が良いな、だが反乱に加わりたいなら救世の三姫なんて御伽噺を当てにするな、あくまでも俺達の力で覇国を打倒する。それぐらいの覚悟が無いなら帰ってくれ」

「なるほど、そう言う意味ですか」

「それでも加わるか?」

「もちろんですよ」

 カナタはこのやり取りで、救世の三姫が居る事を確信した。それと同時にカイが本気で反乱を起こそうとしている覚悟も知った。

「そうか、なら歓迎する。ただし、試験に合格出来たらな」

「試験?」

「なに、簡単なやつさ。面接をするだけだ」

「面接?」

「ああ、待ち時間は長いが、五分で終わる。順番になったら呼ぶから適当に時間を潰しててくれ」

「分かりました」

 カナタは呼ばれるまでの間、村を散策していた。そして、真っ先に気になったのが、村人たちが腰にぶら下げているクリスタルだった。とりあえず近くを歩いていた村人に声をかけた。

「あの、その腰にぶら下げているものは何ですか?」

「お守り様と言って、この村の守り神様じゃ」

「そうですか、何故光っているのですか?」

 普通のクリスタルは光ったりしないが、お守り様と呼ばれているそれは光っていた。

「光っているほど御利益があるんじゃよ」

「光ると御利益があるのは分かったんですが光る仕組みを知りたいのですが?」

「それは、ワシにも分からん。お守り様に聞いてくれ」

 村人はそう言って行ってしまった。カナタはそれ以上お守り様について知ることが出来なかったが、他にも気になる者があった。

 それは、小さな女の子だった。一見して子供達と鬼ごっこをして遊んでいるように見えた。だが、普通の鬼ごっこではなかった。追いかけられているのは一人だけで、他の子供達は十人がかりで一人を捕まえようとしてた。

 しかし、女の子は十人を相手に逃げていた。しかも、走って距離を取っているのではない。取り囲まれた状態でタッチを躱し続けていた。その動きが尋常ではなかった。

「うぇ~。エナ。いい加減捕まってよ~」「ゴン。そっちから捕まえて」「両手を別々に使って動きを制限してよ!」

 取り囲んだ子供達がウンザリしたように言っている。

「やだよ。簡単に捕まったら訓練にならないんだもん。もっと私を追いつめて~」

 その動きは少女のものとは思えなかった。カナタは彼女が救世の三姫なのだろうかと思い声をかける為に近づこうとした。

「ちょっとあなた何してるの?」

 カナタに声をかけて来たのは可愛い印象の少女だった。子供達の母親にしては若く見えた。

「いや、あの女の子が凄いなと思って、まるで救世の三姫の様だなと……」

 その言葉を聞いて少女は笑い出した。

「なんだ、そんな勘違いをしてたのね。ごめんね。子供達に悪戯しようとして近づいている不審者に見えたから声をかけたの」

「勘違いなのか?あれほどの動きが出来る子供が普通の人間だと?」

「まあ、あの子が特別なのはそうなんだけど、救世の三姫ではないわ」

「なぜ断言できる。まるで本物を知っているような物言いだな」

 その言葉を聞いて、少女はカナタをじっと見た。

「あなた。頭良いのね」

 少女は感心したようにカナタを見ていた。

「いや、少し考えれば分かる事だろう」

「ふむふむ。謙遜の美徳もあるみたいね」

「話を逸らすな」

「合格」

 少女はカナタの答えには答えずに勝手に宣言した。

「おい、なんの話しだ」

「これから面接なんでしょ?」

「さっきから俺の問いには答えずに……」

「私、あなたの事が気に入ったの、だからヒントをあげる」

 そう言って少女は微笑んだ。カナタは終始少女のペースを乱せなかった。

「面接では嘘をつかないで」

「それだけなのか?」

「それだけよ」

「なあ、どうしたら俺の問いに答えてくれるんだ?」

「私が答えなくてもあなたは答えを見出せる。だから、心配しないで」

「ずいぶん買い被られたようだな」

「私はレミ。あなたは?」

「俺はカナタだ」

「そう、じゃあ、面接を通過出来たら、私の知っている範囲で質問に答えてあげる」

 それだけ言うとレミは子供達の方を見ていた。カナタは面接に受からないとレミは何も答えないと悟ってその場を後にした。


 村を一通り見回った後で、カナタの面接の番になった。カイに呼ばれて面接の部屋に入ると黒い服装の美少女が机を挟んで座って居た。

「初めまして、僕は月読と申します」

 そう言って美少女は座ったまま礼をした。カナタは立ったまま挨拶をして礼をした。

「私はカナタと申します。本日はよろしくお願いいたします」

「では、座ってください」

 カナタは言われるまま椅子に座った。

「では、早速質問です」

 カナタはどんな質問が来るのか身構えた。

「貴方は嘘を吐いたことがありますか?」

「はい」

 カナタは正直に話した。子供のころ、大人になってから、人間関係をスムーズに行うために嘘は必要だった。

「なるほど。では、次の質問です。あなたは今、嘘をつきましたね?」

「いいえ」

「なるほど、では最後の質問です。仮に覇国の機人がこの村に攻めて来たとして、機人ミリアが居なくても村人たちと一緒に戦いますか?」

 カナタは即答した。

「もちろんだ」

「あなたは、良い人の様ですね」

 カナタの答えに月読は笑顔を見せた。

「良いでしょう。合格です。ようこそプラントEへ、歓迎します」

 そう言って月読はカナタに手を差し出した。カナタは月読と握手した。

「ありがとうございます」

「詳しい説明は、他の方の面接が全て終わった後で、カイが行いますので必ず参加をお願いいたします」

「分かりました」

「では、時間までご自由にお過ごしください。また、面接を通過した証として、この『お守り様』を貸与します」

「ありがとうございます」

 カナタに渡されたお守り様は仄かに光っていた。カナタはそれを村人と同じように身に着けて外に出た。そして、レミの元に向かった。


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