30.ある和人
その村は旧和国領で、新潟と呼ばれていたが、今はプラントCという名前が付けられている。その村は豊かだった。元々穀倉地帯だった上に核攻撃の被害に遭わなかったのだ。
覇国もこの村からは多くの年貢が取れるため、他の村よりも和人の人権を尊重していた。ゆえに学校もあり勉強する事も許されていた。
その青年は、頭が良かった。特に建築物の設計図を書くことに長けていた。その能力を買われて名誉和人として覇国で働くことを許可されていた。
青年の名は、晴夏彼方と言った。覇人の前ではカナタとだけ名乗っていた。
覇国で城の設計図を書いて生計を立てていた。二十五歳になったある日、覇国の街でカナタは信じられないニュースを聞くことになる。
「救世の三姫ミリアがプラントEで反乱を起こした」「プラントFで虐殺があったとプラントEの住民を騙して反乱を起こさせたらしい」「誤解を解くために送った機人の天使を話し合いに応じる事無く惨たらしく殺したとか」
それら覇人からの情報を聞いて、カナタは自分の故郷であるプラントCに急いで帰った。実家に顔を出すと年老いた両親と家を継いだ弟夫婦が出迎えた。
「兄さん。久しぶり。今日はどうしたんだい?いつもならもう少し温かくなってから帰ってくるのに?」
「いや、変な噂を聞いてな」
「ああ、救世の三姫か」
「お前も知っているのか?」
「ああ、覇国の役人が宣伝していったよ」
「反乱を起こしたと?」
「ああ、なんでも覇国に虐殺の汚名を着せて反乱を起こしたって、くれぐれも参加しないようにと念押しされたよ」
「罠だろうな」
「罠?」
「本当に反乱を起こしているのなら、覇国は隠蔽するはずだ。わざわざ言って来たって事は反乱を起こさせたいのだろうな」
「何のために?」
「そこまでは分からない」
「兄さんはどうするつもり?」
弟は勘が良かった。頭のいい兄が急いで帰って来たのだ。何かをするつもりなのは察しがついた。
「真偽を確かめに行く」
「行って大丈夫なのかい?せっかく名誉和人になれたのに」
「救世の三姫が本当に現れたのなら、世界が変わる」
「でも、あれは伝承だろ?本当に覇国の機人に勝てる保証も無いのに」
「これでも、覇国では色んな書物を読める立場にある。そして、覇人から信頼もされている。だから、機密文章なんてものも読めた。だから、本物が現れたのなら、覇国の時代は終わると確信している」
「兄さんがそう言うのなら俺も行こうかな?」
「お前は来ない方が良い。嫁さんも居るし、もうすぐ生まれるんだろう?」
「まあ、そうだけど」
「この家は、お前に任せる。救世の三姫は俺に任せておけ」
「分かったよ」
カナタは二日ほど実家で準備してプラントEに向かった。その道中で、カナタと同じ目的の和人たちにあった。
その目は希望に輝いていた。みな覇人の圧政に苦しんでいたからだ。カナタは祈った。救世の三姫が、覇国の用意した反乱分子の棺桶で無いことを……。




