21.悪夢
桜は熾天使と対峙していた。四対一、圧倒的に数的不利な状況だったが、桜は知っていた。月読ならこの状況でも勝利出来る事を知っていた。だから、何も不安は無かった。
だが、月読から信じられない言葉が聞こえてきた。
「僕が撃退出来るのはミカエル以外の三体だけです。ミカエルだけはどうにもできません。それでも、このまま戦うのですか?」
桜の答えは否だった。しかし。
「出来ることろまででいい。少しでも敵を減らして、もしかしたらそれで帰ってくれるかもしれないから」
桜は自分の意思と違う事を月読に伝えていた。
「畏まりました。最善を尽くします」
「ねぇ、月読。勝つためには何をしたらいい?」
「愚問です。彼らの要求を無視して全力で戦うべきです」
「エナが死んだとしても?」
「土の精霊と闇の精霊を残せば彼女は助かるでしょう」
「カイやカイルやレナやレミは?」
「命の保証はありません」
「どうしてこんなことに」
「熾天使がこの事態を望んだからです」
「もう、どうにも出来ないの?」
「勝つために覚悟を決めてください。エナ以外の全てを犠牲にする事を許容するのなら、僕は彼らに勝利できます」
「それは、出来ない。だってカイはお父さんで、カイルはお兄さんで、レナはお母さんで、レミはお姉さんだもん。見捨てることは出来ない」
「では、精一杯戦った上で彼らが降伏を選ぶ事を期待しましょう」
その言葉の後で、桜は自身の体が手足を斬られて達磨になっていた。その状態でミカエルに首を掴まれた状態になっていた。そして、目の前にはエナが居た。
エナは怒りの形相でミカエルを睨んでいた。
「お姉ちゃんを放せ~~~~~!」
その声は、天にも届きそうな大音声だった。桜はそこで目を覚ました。隣ではエナが静かに幸せそうに寝ていた。
(月読。今のは何?)
(今のとは何のことでしょう?)
(夢だったの?)
(夢とは?)
(とても嫌な夢を見たの)
(機人にはそのような機能はありません)
月読は嘘を吐いていなかった。そんな機能を機人は持っていなかった。月読自身は眠る事が無く。眠っている桜の方が異常だと思っていた。人間であろうとする意志がそうさせていると月読は思っていた。
(そっか、なら気にしない。私が不安に思っている事を夢に見たんだと思う)
桜は、また眠りについた。




