20.村人会議
桜とエナが家に帰ってから、村人たちは村長の家の前に集まっていた。村長の家の前には焚火が作られ、それを囲むように村人たちは輪になっていた。村の子供以外は全ての人間が集まっていた。
カイが話を始めた。
「知っての通り救世の三姫ミリアが復活した」
その言葉を村人たちはじっと聞いていた。
「みなも知っての通り、宿った魂はただの女の子だ。あの子は優しすぎる。戦いには向かない。それでも、彼女を旗印に戦いたいという者は居るか?」
カイは皆の顔を一人一人見た。村人たちはカイの目を真っすぐに見返していた。
「カイよ。そんな人でなしがこの村に居る別けねぇだろ」
声を上げたのはカイの親友ゲンだった。
「そうだそうだ。あんな気立てのいい子を戦争の道具に使えるわけがねぇ」「あんな優しい子に戦争なんて無理だ」「俺達で匿ってやろう」
ゲンの声に賛同する声が続いた。カイはここまでの反応は予想できた。しかし、村人達に隠し事はしないという制約をたてている以上、桜から聞いた事実も話さなければならなかった。
「これは、桜から聞いた話だが、プラントFで虐殺が行われたそうだ」
この言葉を聞いて、村人たちはざわめいた。
「プラントFは亜人たちに滅ぼされたんじゃないのか?」
村人の一人が声を上げた。
「どうやら違うらしい。それを目撃したがゆえに桜は覇国から命を狙われている」
村人たちの顔つきが変わった。激しい怒りの表情だった。
「もう限界だ!反乱を起こすべきだ!」「どうせ殺されるんなら戦って死ぬ!」
若者を中心に戦いを主張する声が上がった。
「桜を旗印にか?」
カイは静かに言った。
「違う!桜ちゃんは戦いに参加させない!これは俺達の戦争だ!」「そうだ!そうだ!」
「みなの気持ちは分かった。では……」
カイが話をまとめようとした時、その場所に桜とエナが姿を現した。
「桜、どうしてここに……」
カイは怪訝な表情で見た。カイが話をつけると言った時、桜は安堵していた。ここに来る理由が無いのだ。
「僕は月読です」
「月読って補助機能の方か」
「はい」
月読は淡々と答えた。
「反乱を起こすのは待っていただきたい」
「なぜだ?」
「今は、まだその時ではないからです」
「どういう事だ?」
「僕には覇国を打倒するプランがあります」
月読の言葉でみなが静まり返った。
「桜は戦争を望んでいない」
カイが代表して月読に質問を投げかける。
「知っております。その上で言わせてもらいます。このままでは桜は遠からず反乱の旗印にされてしまいます」
「なぜだ?」
「それが熾天使の狙いだからです」
「反乱を起こさせるのが目的なのか?」
「いいえ、人質を増やし、桜を無力化させるのが狙いです」
その言葉を聞いてカイは言葉を失った。桜の優しさを熾天使が利用しようとしている。
「くそみてぇな作戦だな」
ゲンが怒りをあらわに言葉を吐き捨てた。
「防げないのか?」
「無理でしょう。防ぐタイミングはすでに失われました」
カイの質問に月読は淡々と答えた。
「どうしたら良い?」
「桜の為に死んでくれますか?」
月読の言葉にみんな固まってしまった。その沈黙を破ったのはエナだった。
「私はお姉ちゃんの為に命を懸ける。それで、誰も悲しまなくていい世界が来るのなら死んでも良い」
「エナ。命を懸けるって意味は知っているのか?」
カイはエナに優しく質問した。
「知ってる。お爺ちゃんとお祖母ちゃんが私にそうしてくれたから」
エナの純粋な言葉は村人たちの心を打った。エナの境遇はみな知っていた。幼くして両親も祖父も祖母も友達も全て失った子だと。その子が言っている。命を懸けて戦うと……。
「俺も命を懸ける」「私も懸けるわ」「わしもじゃ」
村人たちは次々と声を上げた。
「では、作戦の概要を話します」
月読は村人達に覇国に勝利するための作戦を話した。そして、最後にこう付け加えた。
「この作戦は桜に知られてはなりません。知ったら彼女はあなた達を生かす為にこの村を出ていくでしょう」
「この村に約束を破るやつは居ねぇ。それは保障する」
ゲンが胸を叩いて言い放った。
「それにしても、君は桜と違って優しくないのだな」
カイが月読を真っすぐに見つめて言いった。その目には、月読を非難する色は無かった。
「ええ、桜が優しい分、僕は冷徹に出来ています」
「だが、そのおかげで勝つことが出来るのなら、君は補助機能として正しい。君はそのままでいてくれ」
「頼まれずともそうします。僕は桜を守らねばなりませんので」




