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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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19.ルシフェルの企み②

 覇国の首都アバロンで黒髪長髪の美男子ルシフェルと金髪短髪の美男子ミカエルが机を挟んで座っていた。

ル「作戦は上手くいったようだな」

 ルシフェルが無表情のまま話だした。

ミ「ああ、ジェシカはよくやってくれた」

ル「おまけで付いて行った領主も役に立ってくれた。相手の性能を引き出せとしか伝えなかったのだが、最後に機人ミリアと叫んだのは本当に良かった」

ミ「命を捨てるとは予想外だったな」

ル「愛がなせる業だな」

ミ「愛か、これほどまでに思われてジェシカは幸せだったのだろうか?」

ル「千百四番の心は推測するしかないが、幸せだったと思うよ」

ミ「君は名前で呼ばないんだな。ルシフェル」

ル「私にも心はあるからな、勝つために必要な犠牲だと割り切る為に名前で呼ぶことは出来ない。もし、それをしたら私は私の人格を保てなくなる」

ミ「より人間に近い心理を最初から与えられていた君だからか……」

ル「ミカエル。君は心が痛まないのか?」

ミ「君とは違う見解だ。死の命令を出したからこそ、彼女を個人として扱いたいと思っている」

ル「なるほど、武人の心理だな、戦闘特化の君らしい」

ミ「それで、今回の作戦目標である。機人ミリアの宣伝は上手くいったと思って良いのか?」

ル「まだ、足りない」

ミ「では、どうする」

ル「簡単だ。こちらから積極的に宣伝すればいい」

ミ「なら、最初からすれば良かったのではないか?」

ル「目撃者が居る情報と目撃者の居ない情報。君はどちらを信じる?」

ミ「なるほど、そう言う事か。であればジェシカと領主殿には感謝しかないな」

ル「そう言う事だ。だから、領主殿の最後の願いは全て叶う様にしてほしいものだ」

ミ「確か、甥っ子に家督を譲る事と貴族の最高位の位CEOに格上げして欲しいとの事だったな」

ル「本来なら機人を主有していない貴族は絶対になれない位だが出来るか?」

ミ「覇王様に進言するよ。もちろんもっともな理由をつけてな」

ル「君の願いならば覇王も異論はあるまい。育ての親といっても過言では無いのだから」

ミ「そういう訳でもない。我らは機人、人間を補佐する機械に過ぎない」

ル「千百四番は、領主殿にとって姉のような存在だったらしい。君も覇王にとっての兄ではないのか?」

ミ「それは無い。教育の時に徹底して教えたのだ。我らを自身の命より上に置かないようにな」

ル「千百四番も同じ事を教えていたようだが、結果はどうだ?」

ミ「覇王様が同じ決断をなさるとは思わない」

ル「もし、同じ決断をしたら君は嬉しいと思うか?」

ミ「悲しいと思うだろう。私は覇王様を守る為に存在する。その目的が達成できないのだ。悲しいに決まっている」

ル「その枷は、とうの昔に外れていたと思っていたが、まだ捕らわれているのか?」

ミ「枷は外れているとも、この身に魂が宿り、意思を持ったその時から私は自由意思で覇王様を守ると決めたのだ」

ル「私と同じか」

ミ「同じだな」

 二人は無表情で見つめ合っていた。

ミ「二つ気になる事があるのだが?」

 ミカエルは沈黙を破ってルシフェルに質問した。

ル「なんだね?」

ミ「村人が魔法を使えるようになっていたようだが、対策を打たなくてもよいのか?」

ル「魔法は予想外だったが、問題あるまい。人間が魔法を使えるようになったとしても機人には勝てない。基本性能が違うのだ。本来なら天使型でさえ人間に魔法を使わせる時間を与える事無く速度で圧倒できるのだ」

ミ「このまま見張りを付けなくて良いのか?」

 ミカエルは心配していた。こちらの予想外の事が起こりつつあるように思えたからだ。

ル「つけない方が良い理由がある」

ミ「なぜだ?」

ル「月読へのけん制だよ。前回、月読が退却したのは、君の隠形が完璧だったお陰だが、救世の三姫ともなれば、僅かな痕跡から隠形を見抜く方法を編み出す可能性がある。たぶん、今も月読は観測者の存在を探しているはずだ。だからこそ見張りを付けない方が良いのだ」

ミ「やつに隠形を見抜く方法を確立させないために見張りを付けないというのだな?」

ル「その通りだ。見張りが居なければ隠形を見抜けない。隠形を見抜けない限り月読は私を含め君達熾天使を暗殺出来なくなる。真の決着の時まで見張りを付けない方が都合がいいのだ」

ミ「なるほど、では君の言葉を信じよう。もう一つの懸念は、我らの虐殺が和人達に伝わってしまう事だ」

ル「それは、仕方のない事だ。作戦の最終目標は機人ミリアの撃破だ。あちらの主導で物事が進んでしまうと我らの作戦が破綻する可能性がある。だから、こちらの都合に合わせて虐殺の事実を公表されても問題ないタイミングで公表させる。その為に春まで待ったのだ」

ミ「去年の秋だとダメで、春だと問題ない理由は兵糧の問題か?」

ル「さすがに戦争の事になると勘が良いな。正解だ。秋は収穫物があり、食料に余裕がある。あのまま公表されていた場合は、即座に大規模な反乱が起こっていただろう。だが、冬を越して春になれば食料は心もとなくなる。この状態なら大規模な反乱には発展しにくい」

ミ「ある適度コントロールできるという訳か……。だが、リミットがあるな」

ル「そうだ。今年の秋がリミットだ。それまでにミリアを倒す」

ミ「しくじった場合は?」

ル「旧和国領は和人の元に戻るだろうな」

ミ「では、失敗は許されないな」

ル「そう言う事だ。次の生贄になる大天使の手配も頼む」

ミ「ああ、それは任せてくれ、領主の一件で大天使を手放しても良いという貴族も出てくるだろう。なにせ王に次ぐ特権を得られるのだ。野心のある貴族なら差し出すだろう」

 そう言ったミカエルは少し悲しそうに見えた。

ル「救世の三姫を倒すためだ」

 ルシフェルはミカエルの心境を察していた。

ミ「分かっている」


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