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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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10.ある草原での会談

 桜は村長の家から出ると村の出口まで歩いた。飛べば機人とバレる。走れば怪しまれると思ったのだ。

 村から十分に離れてから桜は空を飛んで目的地に向かった。その場所は草原だった。そこに美男子が二人立っていた。

 黒の長髪のルシフェルと金髪のミカエルだった。桜は彼らの前に降りた。

「来てくれて感謝する。私がルシフェルだ」

「先ほどは奇襲してすまなかった。私はミカエルという」

「私は桜。こちらの呼びかけに応じてくれて感謝します」

「それは、こちらのセリフだ。奇襲したにも関わらず交渉の余地を与えてくれた事、感謝する」

 ミカエルは、そう言って礼をした。

「私はこの世界の事を良く知らない。あなた達が何で村を襲ったのかも分からない。でも、あなた達と敵対するつもりは無い」

「なるほど、つまり敵対するつもりは無かったが、人が殺されていたから助けようと思ったという事か?」

 桜に対してルシフェルが質問した。

「その通りです。でも、兵士達も本当は殺すつもりじゃなかった」

「では、なぜ殺したのか?」

「説明が難しいけど、この体が勝手にやったとしか言えない」

 桜は月読が勝手にやったとは説明しなかった。

「ふむ、あの兵士を殺した事は問題ない。なぜなら元々死刑囚なのだから」

「なんで死刑囚に村で虐殺する事を命じたの?」

(最初から殺すつもりで命じたのでしょう)

 ルシフェルが答える前に月読が答えた。

「いや、我々はそんな事は命じていない。村から年貢を取り立てる様に命じただけだ」

(嘘だと思われます。死刑囚にそんな命令をする意味が分かりません)

「死刑囚になんでそんな命令を出したの?」

「死刑囚とはいえ更生の余地がある者達にチャンスを与えたのだ。無事に任務を終えたのなら刑を軽くする約束だったが、彼らは村で略奪を行い逃げるつもりだったのだろう」

(これも嘘でしょう。刑期を軽くするチャンスを与えるのならば、一般人で実験する様な事はしないはずです。新たに罪を重ねるチャンスを与えたにすぎません)

 桜はルシフェルの言い分が正しいと思いたかった。敵を増やしたくなかった。嘘だと分かっていてもエナと平和に暮らせるのなら騙されても良いと思った。

「じゃあ、なんでその後、私を殺そうとしたの?」

「村での虐殺を他に知られたくなかったからだ。我々が命じていないとはいえ、虐殺が行われたのは事実だ。それを他の和人が知ったらどうなると思う?」

(反乱が起きるでしょう)

「反乱が起きる」

「その通り、我々は平和を維持したい。そして、あなたが機人ミリアと名乗ったから反乱を起こす為に現れたと我々は考えた。だから、排除しようと動いたのだ」

「確かに私は機人ミリアと名乗った。でも、救世の三姫ではない」

「ふむ。だから村人には秘密にしたいと?そして、今は桜と名乗っているという訳か?」

「その通りよ。私の願いはエナと平和に暮らす事。戦争は嫌よ」

「なるほど、なるほど。では、我々の目的は一致する。あなたが虐殺の事を誰にも話さないと約束して頂けるのなら、我々は貴方とエナに手を出さないと誓いましょう」

(信じるのですか?)

「分かった。約束する」

「交渉成立ですね」

 ルシフェルは笑顔で手を差し伸べた。桜はルシフェルと握手した。

「では、ごきげんよう。貴方が約束を守っている限り、我々は貴方に干渉しない」

 ルシフェルとミカエルは桜に背を向けて去っていった。その後ろに月読の放った闇の精霊が居る事に気づかぬまま……。


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