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救世の三姫  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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9.ある村の移住者

 桜は熾天使を撃退してからエナの元に戻った。戻った桜を見てエナは満面の笑みを浮かべていた。

「お姉ちゃん。凄い。あんな戦い見たの初めて。空も飛んでたし速いし、四人相手に勝っちゃうなんて本当に凄い」

「ありがとう。でも、他の人には内緒にしてね」

 桜は自分が救世の三姫である事は隠したかった。理由は面倒ごとに巻き込まれる事が目に見えていたからだ。

「分かった。内緒にする」

 そう言ってエナは頷いた。

「それと、エナの村で起こった事も二人だけの秘密にしよう」

「どうして?」

「あの村で起こった事を他の人が知ったら取り返しのつかないことが始まるの」

 桜は襲撃された事で理解した。あの村での虐殺を知った者は同じように殺されると……。だから、虐殺の事は誰にも話してはいけないのだと。

「取り返しのつかない事?」

「それを知った人たちも殺されてしまうの。だから、誰にも言っちゃだめよ」

「分かった」

 エナは桜の言った事を理解した。だが、納得はしてないかった。それでも、命の恩人が言う事だからエナは従う事にした。

 その後、二人は他愛のない話をしながら馬車に乗って近くの村に向かった。


 その村は、エナが居た村に比べればましだった。村の近くに川が流れ、田んぼがあった。すでに収穫を終えた田んぼだが、実りが多かったことが干してある藁の数で分かった。

 村の建造物は木造で、平屋か二階建ての建物しかなかった。桜は村の入り口から入った時に、村人の爺さんを見つけたので話しかけた。

「すみません」

 桜が声をかけると爺さんは目を見開いて驚いていた。

「お前さん。和人なのに良い服を着とるな。覇人の愛人か?」

 桜は驚き、そして同時に怒りを覚えた。

「私は愛人じゃありません」

 爺さんは桜に気おされた。

「すまんかった。気に障ったのなら謝る。この通りじゃ」

 そう言って爺さんは頭を下げた。爺さんが謝った事で桜も我に返った。

「いえ、こちらこそすみません」

「いいんじゃ、いきなり失礼なことを言ったワシが悪いんじゃよ」

「じゃあ、お互い様って事で」

 そう言って桜は笑顔を見せた。その笑顔を見て爺さんも笑った。

「それで、あんたら何もんだ?良いとこのお嬢さんか?」

「いえ、私達は戦争孤児です」

「戦争孤児?その服はどうしたんだ?」

 桜は困っていた。自分の身なりが和人にそぐわないものだと思わなかったのだ。確かにエナはボロを着ていた。どう説明したら納得してもらえるのか分からなかった。

(月読。どう説明したら良いと思う?)

(覇人が捨てた服を拾った。覇人から盗んだ。母親が覇人の愛人だった。体を売って買った。自分で作った)

(色々文句を言いたいけどありがとう)

「この服は自分で作ったんです」

「そいつは凄いな。布はどうやって手に入れたんじゃ?覇人は売ってくれんじゃろ?」

 爺さんに悪気はないが、桜にとって想定外の返しだった。

「なので、糸から作りました」

 桜は作った路線を強行突破させようとして、とても凄い事を言い始めた。

「それじゃあ、だいぶ時間がかかったろう」

「ええ、まあ」

 爺さんは桜の言葉をそのまま受け取った。

「それで、この村には何しに来たんじゃ?」

 桜はホッとした。とりあえず服の事から話題がそれた。

「えっと、この村に住みたいなと思いまして」

「そうか、なら村長に相談すると良い。この道を真っすぐ行けば村長の家に着く。一軒だけ二階建ての家があるから、そこに行くと良い」

「ありがとうお爺さん」

「なに、困った時はお互い様じゃて」

「じゃあ、またね~」

 桜は馬車を走らせ、村長の家に向かった。


 桜は村長の家に着いた。そこには筋骨隆々の口髭を蓄えたナイスミドルが家の前で薪割をしていた。上半身は裸で薄汚れた白いズボンを履いていた。身長は百八十センチはあった。

 桜は一瞬見惚れたが、すぐに自分が何をしに来たのか思い出した。

「あの、すみません。この村に移住したいのですが」

 桜が声をかけるとナイスミドルは外見に相応しい野太い声で答えた。

「おお、移住希望か、親御さんは?」

「戦争で亡くなって」

「そいつはすまん。不躾な質問だったな」

 そう言ってナイスミドルはバツが悪そうに頭を掻いた。

「いえ、いいんです」

「俺は村長のカイだ。よろしく」

 そう言ってカイは桜に近づいて手を差し伸べた。桜はカイと握手して自己紹介をした。

「私は此花桜と申します。そして、この子は妹のエナです」

「おいおい、苗字を名乗るなんてどうかしてるぞ。親御さんに苗字は人前で名乗るなと習わなかったのか?覇人に聞かれたら百叩きの刑だぞ?」

「ああ、すみません。村長さんが優しそうだったのでつい」

 桜はとっさに嘘を吐いた。

「いや、分かってればいいんだ。戦争孤児だっていうから両親から聞いてないのかと思っただけだ」

 桜はカイが良い人だと思った。思いやりに溢れた人だと。

「御忠告ありがとうございます。それで、移住するには何をしたらいいのでしょうか?」

「ああ、とりあえず家が出来るまでは俺のうちに泊まると良い。ただ、食料は限られているから腹いっぱい食わせてやることは出来ねえが、生計たてれるようになるまでは面倒を見る安心していい」

「ありがとうございます。食料に関しては村から持って来たものがあるのでご迷惑はお掛けしないと思います」

「そうか、それなら良いが、食糧って後ろの馬車に乗っているものか?」

「はい」

「全部、生じゃないか、保存食に加工しないと冬を越せないぞ?作り方は分かるか?」

「分からないです」

「じゃあ、後で家内に教わると良い。後で紹介するからとりあえず家で休んでてくれ」

「ありがとうございます」

 桜は村長に言われた通りに家に入って休むことにした。家の中には木造の食卓が置いてあった。椅子は全部で四つあり、食卓の横にはキッチンがあった。木製の食器が置いてあり、米を炊くためのカマドもあった。

 桜とエナは食卓に座って待っていた。その間、村の様子やカイの話題で話をしていた。そんな時だった。

(桜、無線通信を受信しました。内容を聞きますか?)

(聞かせて)

≪機人ミリアに告ぐ、話し合いがしたい。平和的な解決をこちらも望んでいる≫

 桜は嬉しかった。話が通じる相手で良かったと安堵もした。

(月読、返信したい)

(畏まりました。では、心で思った文章をそのまま無線で発信しますので、ご随意にお話しください。また、相手からの返信があった場合、そのまま聞こえる様にします)

(分かった)

≪こちら機人ミリア。話し合いに応じる。こちらから向かうので場所を教えて欲しい≫

≪こちら、覇国の機人ルシフェル。先程は突然攻撃したことを詫びる。こちらから交渉を申し出ているのだから、我々がそちらに向かう。場所に関しては把握している≫

≪それは困る。交渉は村の外でしたい≫

 桜は機人ミリアである事を隠したかった。だから自分の正体を知っている彼らと村で交渉したくなかった。

≪理由を聞いても?≫

≪私は機人ミリアである事を人に知られたくない≫

≪なるほど。分かった。では、こちらの座標を送る≫

(座標を受信しました。場所はこちらになります)

 桜の視界にナビが表示された。

「エナ。ごめん。私ちょっと出かけてくる」

「お姉ちゃんどこへ行くの?」

 エナは不安そうな顔で桜を見た。

「大丈夫。すぐに戻ってくるから」

 桜はエナに笑顔で答えた。それを見てエナは少し安堵した。

「大人しく待ってる」

「帰ったらまたお話ししましょ」

「うん」


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