「MBSラジオ短編賞1」ある女の独り言
MBSラジオ短編賞へ応募するために書きました。
思いついたまま書いたので、詩という形態を取っていないような気持ちもしますが………。
読んでいただけると嬉しいです。
その時は刻々と迫っている気がした。
まぁ、そんな話が出てもおかしくはない、そんな年頃の女が一人。
春の陽気に誘われて、桜が一気に咲いた休日。遠くに淡いピンク色を見ながら、女は窓辺で頬杖をついた。
結婚。
その何段階も前の、お見合いという段階なのだけれど。女にとって、なかなかどうして、重圧感のある、鬱々としたイベントである。
軽い気持ちで、お見合いしてみようかなと言った。
はぁーっと、長い長いため息が女の口から出てきた。
別段、恋人がいるわけでもない。ただ、少しでも家族に安心してもらいたかっただけ。
女の憂鬱は、どうやら別のところにあるらしい。
少しだけ冷たさを含んだ春の風が、女の、ゆるく波打つ長い髪をそっと撫でていった。
結婚したら。
自分は、今の自分ではなくなるのだろう。
女はふと、空を見上げた。遠くで、女子中学生か高校生だかの、爛漫な笑い声が聞こえる。
あの頃の私は、こうなることなんて全く予想だにしていなかった。
私はまだ、少女のままでいたかった。
大人になんて、なりたくなかった。
女の目から、何故だか涙が溢れてきた。それはとめどなく、とめどなく、女の頬を伝い、頰に添えた手を伝い、窓の桟に小さな池を作る。
舞台の上、主役を降りる時が、自分にもやってきてしまうのかと、女はぐい、と涙を拭った。
私は私でいたい、でもそれをきっと社会は許してくれないだろう。
女は思う、多分これは自分勝手なワガママな考え。
それでも。
ふと、視線を感じてゆっくりと振り返る。
あの頃の私がいる。
自分の未来はキラキラしていると信じていた、あの頃の私がいる。
女は、何と言っていいか分からなかったが、頰から離した右手を伸ばした。
彼女は微かに微笑み、走っていった。
あとには、女が一人。
時計の針が、カタリと音を立てて動いた。
外から、子どもやその親の声、近所のおばちゃん達の話す声、犬の鳴き声、何かがはためく音………それらが一緒くたになって、女の耳へ流れてきた。
時が迫っている気がした。
私が私でいられる時間。
女は、馬鹿みたいだ、と呟く。
女の独り言は、ただ、春の冷たい風に流されて、溶けていった。