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発達障害と受験勉強  作者: 小島 剛
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試練の乗り越え方

 一つには、人間が試練に遭ったときに、それを乗り越える安楽な方法が、あたかもどこかに隠されているかのように考えてしまう誤りが挙げられる。つまりむき出しの試練に遭ったときにはそれに耐えられないような「試練観」を作り上げてしまうのである。「試練観」というのは変な言葉かもしれないが、私としては重要なことだと思っている。人間は生きていくにおいて、試練を避けきることが全く許されてはいない。災害・病気・肉親の死・社会的トラブルなど実に多くのリスクを抱えながら生きている。その予測もできないむき出しの試練に遭った場合に、現代人はよくこういう風に考える。


「なんで私が?」


 テレビを見たり新聞を読んだりすると、実に多くの人が試練に遭っている。殺人事件があれば被害者・加害者親族には巨大な試練が降りかかる。訃報を見れば容易にその親族の悲嘆には想像がつく。災害が起こると「被災者は気の毒だな」と思ったりする。だが、どこかしらそれらに対して、他人事であるように接してもいる。自分の問題として把握することが「安楽な試練」に慣れ切った現代社会では難しくなっているのである。




 もう一つには、こうした試練を乗り越えるために手助けになる「専門家」がどこかにいるのではないかと考え、自分で試練を引き受け、解釈し、咀嚼し、それを乗り越えることをしなくなる。つまり解決の成就を人に任せようとしてしまう癖がつくということである。受験にプロがいるように、人生の試練にもプロがいるかのように錯覚してしまうのである。だから、「つらい目に遭ったときに読む本」や「私はこのようにして壮絶な経験を克服した」というような本の出版が後を絶たない。もちろん、試練は一人で乗り越えなければならないというものではないから、こういう本を参照したり、ほかの人に悩み相談などをするのがいけないというわけではない。だが、こういう本や悩み相談は試練克服のヒントは与えてくれるが、決して答えは与えてくれない。というのも人間ひとりひとりは、他者に還元されない絶対的固有性を有しており、昔居らず、今二人と居らず、決して未来にも現れない存在であり、また、昔起こらず、今以外なく、未来にも絶対再現されない絶対的なかけがえない一瞬一瞬を生きているからである。「ほかの人はこのように試練を克服した」は自分にもそのまま当てはまるということはない。




 だが、現近の日本人、パソコンの使い方でも覚えようとするかのように、試練に遭うと「試練を乗り越えるハウツー本」などを求めやしないだろうか?また、一般的にむき出しの試練に遭ってそれを克服したという経験に欠けているために、試練に遭っている人にアドバイスをすることに下手ではないだろうか?もっと最悪な人になると、試練に遭うこと自体を「要領が悪い」せいだなどとして、試練に遭っている人の過失として責めるなどということさえしないだろうか?「受験は要領」なのである。「お前の要領が悪いから、お前は困っているんだよ、しっかりしろ、バカ!」というわけである。

 

 そういったわけで専門家信仰が亢進する。専門家に助力を求めるのは決して悪いことではない。だが、ある種の専門家の言っていることを盲信するようになり、あたかも信仰のようになって、強迫的になると話が別である。結局のところ、試練を克服するのは自分の力であるという、自持の精神が弱体化するのである。

  



 三つめは二つ目と関連するが「不確実性」に対する感覚が狂うということである。そもそも人間の手持ちの知識や技術では対処しきれないことだからこそ、「不確実性」を取り上げる意味があるのに、「不確実性」を制御する方法ばかりを考える癖が日本人にないだろうか?それに対しては


「そもそも事前に制御出来たらそれ『確実性』であって、『不確実性』じゃねーから」


と言いたくなる。かくして「危機管理」「リスクコミュニケーション」など、うさん臭い言葉が頻出する。

 当然こういった思考法では解決しえない危機やリスクも世界には存在するのであって、現代人はそうした事柄に対処するのが下手である。


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