実例:社会学的な調査 その1
さて、では実際の学問分野で、「正解」はいかほど正確なのだろうか?これは分野によるとしか言いようがない。
お受験の弊害の一つとして、こんな学問区分はガラパゴス化した日本にしかない「文系/理系」というソウガメ区分にしがみつく手合いが後を絶たないということがあげられる。文系学問・理系学問の区分に一体何の意味があるのか?数学を使わない学問が文系で、使う学問が理系とかふざけたことを言ってはいけない。経済学と河川工学では前者の方が圧倒的に高度な数学を要する。河川工学に関して模型などを使って、緻密な計算を行おうとすると、それはもはや河川そのものの現実態から遊離していくのでそれはもう流体力学と言われるだろう。
自分の専門分野が最高の学問と思っている「学者」も多い。研究対象が、数字に置き換えやすく、演算で比較的はっきりした答えが出てくる学問分野である。なるほどそれはそれで、「エラい」としてあげてもよい。だが、わかりにくい物事をあえてわかろうとするのも学者の仕事であって、このような作業が決してバカにできないことも理解してもらいたいものである。
私は社会学を専門としていたので、「京都大学に学びに来ている留学生の満足度」を調査する研究グループに入り、実際に満足度を計量してみたことがある。まずアンケート票を配布し、回答してもらうのだが、配布数が1244部、回収数は518部である。回収率は41.6%にしかならない。これでは、アンケートの確からしさが十分ではないので、自由記述欄を設けて、数字に還元できない文章情報も頼りにする。さらに、吉田キャンパスにある京都大学国際交流センターに足を運んでインタビューに参加してもらえる学生さんはその旨を明記してもらい、インタビューも行う。つまり、計量的方法と質的調査法をミックスして、多角的に満足度を「測る」のである。
また、「留学生の満足度」を測るといっても、単に「〇〇%が満足している」と言うだけでは何の意味もない。留学生の満足度を上げるためにどうしたらよいかまで言えて初めて研究である。この点に関しては私は非常に偏った研究対象の見方を敢えてした。つまり、留学生の中でも経済的最貧困層に焦点を当て、彼らの満足度を上げるべく調査したのである。具体的には、「奨学金も授業料免除も受けていない留学生たち」「自由記述欄で経済的不満を述べた留学生たち」に焦点を当てた。これはなぜかというと、私自身、金持ちではないからである。言うなれば「中の中」とでもいったところ。それなら問題ないんじゃない?と言われそうだが、そもそも父は東京大空襲の生き残りで、生き残った時点で全くの一文無しであった。全くの身一つで東京の向島から埼玉県の中央部に逃げてきたのである。父の貧困については断片的に聞いている。「経済的に不満を述べる学生」に「偏向」した調査をあえてしたのである。